吸血鬼で元賢者ですが今は受付嬢やってます

家具屋ふふみに

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第1章

1ー3 エレナの二つ名

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『主、戻った』

 しばらくして、クロが戻ってきた。ちなみにクロの声は念話のようなもので、エレナ以外には聞こえていない。

「お疲れ様。どうだった?」
『うむ。洞窟の入口に10人ほどが潜伏している。他50人ほどは魔物を狩っていた』
「あとは?」

 あとの人達、それは洞窟にいる人のことだ。宵闇に溶けることができる黒い姿は洞窟の中では目立つ。が、クロにはある力がある。それは風景に同化する力だ。時間にして30分ほどしか使えないが、それを使えばバレることはまず無い。

『洞窟には30人ほどの盗賊と思しき者たちがいた。それと檻に入れられている人が十数人ほどいたぞ』

 実はどうやらこの洞窟の中には妨害する魔道具が設置されているようで、エレナの気配察知が使えなかった。そのため、エレナは偵察するためにクロを呼んだのだ。

「ありがと。後でブラッシングしてあげるね」
『約束だぞ!主!』
「はいはい」

 エレナはクロを送還し、突入する準備を始めた。
 まず倒すのは周りに哨戒にでている盗賊たちから。

「…3人組で行動してるね」

 気配察知により、盗賊の位置を把握したエレナは、収納から武器を取り出した。

 収納とは魔法の1種であり、亜空間に物を収納することができる魔法だ。入れられる量は使う人の魔力量に比例する。彼女の場合魔力量が桁違いなので、限界になったことがない。また、中の時間は普通ゆっくり進むのだが、彼女の収納は時間が止まっている。さらに、何故だかは分からないが、彼女の収納には、かつての先祖返りの吸血鬼の荷物まで入っていたりする。

 エレナが取り出したのは1本の剣。賢者だったこともあり、魔法は得意だが、それだけでなく剣技などにも精通していたのだ。

 他の盗賊が3人組なのに対して、1人だけで行動している盗賊を発見したので、気配隠蔽で静かに近づくことにした。

 スキル【気配隠蔽】Lv10
 自身の魔力を完璧に漏らさないようにし、気配を隠蔽する。

 エレナは木の上で機会をうかがい、奇襲した。殺すつもりは毛頭無い。情報を引き出したいからだ。もっとも、こうやって哨戒している時点で下っ端なのは間違いないので、そこまでの情報は引き出せないだろうが。

「うぅぅ…」

 エレナは盗賊を剣の腹で殴って峰打ちにした。それでも骨はいくらか折れているだろう。

「おーい。起きてよ」

 エレナは盗賊が気絶している間に縄で縛り、正座させておいた。そして頬を軽く叩いて起きさせる。

「だ、誰だ!」
「うーん…名乗るつもりは無いなぁ。ねぇこんなとこでなにしてたの?」
「ふん!そんなこと誰が言うか!」
「そう…ま、言わなくてもいいんだけど」

 こう見えてもエレナは元賢者だ。記憶を覗くことなど容易い。だが、その際見たくない記憶も見てしまうため、あまり使いたいものでは無いが。

「な、何を…!」
「ちょっと黙っててね」

 エレナは人差し指を男の額に当て、意識を集中する。見たい記憶、見たくない記憶がエレナの中に流れ込む。

「…うっ!」

 それはあまりにも酷く、耐えられないものだった。盗賊として、男が今までやってきたことが、まるでエレナ自身がやったような感覚に陥り、彼女は吐き気がした。

「ふぅ…」

 やっと記憶が流れ込まなくなり、エレナは息を吐いた。

「な、何をした!」
「あなたの記憶を覗いたよ…随分酷いことをされ、同じくらい酷いことをしてたみたいだね?」
「なっ!で、デタラメを言うな!」

 ほんと…もういいよ。

 エレナはもう耐えられなかった。収納に剣を入れ、代わりに別の武器を取り出した。

「な!そ、その武器は…」

 彼女が取り出したのは...真っ赤なハルバードだった。

「ま、まさか…純血の断罪姫ブラッディ・クイーン…」

 それは…エレナの黒歴史のひとつでもある二つ名だった。

「その名前…ほんと嫌いなんだけどね」

 エレナはハルバードを振り上げる。

「ま、待ってくれ!」
「せめて安らかに眠りなさい」

 そう言って、エレナはハルバードを振り下ろした。だけれど、男から血は吹き出ない。全くもって無傷。だが、彼はもうこの世に居ない。

「来世は良い親に恵まれるといいね…」

 エレナが覗いた彼の記憶には、家族から虐げられ、友から裏切られ、絶望した感情が込められていた。だからこそ、男の次の幸せを願った。

 エレナが使ったハルバードは、呪われた武具と呼ばれる代物だ。本来の効果は、斬られた相手の魂を破壊するという効果だった。それをエレナが改造し、魂を破壊するのではなく、浄化する効果に変えた。浄化というのは、本来肉体を持たないゴーストなどに使われる力だ。だが、呪いの力が、それを肉体を持つものまでに影響するようにした。その結果、痛みも無く、外傷もない状態で、死を迎えることができる武器として完成した。

 これはエレナが、最後くらいは楽に、綺麗に死にたいだろうという願いから作った武器。偽善かもしれないが、彼女はそれでもそのハルバードを振るい続けた。それにより、彼女は純血の断罪姫ブラッディ・クイーンと呼ばれるようになったのだ。

「こんな罪深い自分を、神様は許してくれるのかな…」

 返事はない。だけれども、エレナはその真っ暗な空を眺め続けた…




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