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第1章
1ー10 夢
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どこなの?ここは。
気がついた時、エレナは煌びやかな装飾が施されたホールのような場所に立っていた。
『助けて!い、命だけは!』
エレナの目の前には、会った覚えがない女性が跪きながら必死の形相でエレナを見つめていた。
『お願い!』
どうやら命乞いをしているようにみえる。女性はこの場所に似つかわしい、豪華絢爛なドレスを身につけていた。
なんで命乞いをしているんです?
エレナはそう尋ねたつもりだった。しかし口が動かない。口だけではない。体そのものが動かせなかった。
どういうことなの?
奇妙な感覚だった。まるで、自分の体ではないかのように。
エレナの意思に関係なく、体が、手が動き始める。
そして、その手を女性へと向けたその瞬間、何かが女性の体を………────
「…っ!だめ!!」
ベットから跳び起き、ハァハァと荒い息をつく。窓からはもうすでに弱い日の光が差し込んでいた。
「夢……」
先程の光景は単なる夢。しかし、そう片付けるには些か現実的すぎる内容だった。
「なんで、こんな夢を……」
エレナはもう一度夢の内容を思い出そうとするが、上手く思い出せなかった。それどころか、少しづつ夢の内容そのものが頭から消えているようだった。現にもう、女性の姿すら思い出せなくなっていた。
「うーん…ま、いっか」
この気持ちの切り替えの速さは、エレナのいい所でもあり、悪い所でもあった。
だが、思い出せないことにいつまでも考えを巡らせても意味がないこともまた、事実だった。
「さてと、準備しよっと」
ちなみに休日といいながら、昨日もエレナはギルドの業務をこなしていた。それ以外することが無かったという訳でもあるが。
今日はいつも着ているギルドの制服ではなく、少しラフな格好へと着替える。
そしてまだ日が昇りきっていないうちに、エレナはギルドを後にした。
「ふわぁ~…… 」
「ふふっ。お疲れ様です」
エレナは夜通し門番をして疲れきり、欠伸をこぼしていた兵士へと笑いかけた。
「あ、お、お疲れ様です…」
恥ずかしいところを見られ、兵士はすこしバツが悪そうにそう答えた。
「通っていいですか?」
「勿論いいですけど…こんな朝早くにですか?」
兵士がそう聞くのも無理はない。まだ薄暗い時間帯に、見た目15歳の女の子が外に出ようというのだから。
「はい。ちょっと用事がありまして」
「そうですか…じゃあこれに」
兵士はそれ以上詮索することはなく、いつものように犯罪を調べる水晶を差し出した。
エレナは迷うことなくその水晶に触れる。すると、問題がない緑色に光った。
「問題なし。じゃあ気をつけてね」
「はい」
この前の実地調査は時間がなかった為に走ったが、今回は時間があるので、エレナは歩いて外に出た。
しばらく歩き、エレナは近くの森へと入った。理由は従魔を召喚するためだ。人目を避けるのは必然。従魔を持つこと自体が珍しいからだ。昨日色々と騒ぎになったことで、そのことを思い出したエレナであった。
「…召喚ヴェレナ」
エレナがそう言うと、クロの時と同じ魔法陣が地面に展開される。そしてその魔法陣から現れたのは……エレナと同じくらいの背丈をした、少女だった。
「主様ーなの!」
そしてその少女はエレナへと抱きついた。
「うわっと。久しぶりね、ヴェレナ」
そう。彼女こそエレナの従魔、ヴェレナだった。
ヴェレナは昔からエレナのことが大好きであり、召喚すると必ずと言っていいほど抱きついてくる。
まぁエレナもそれを嫌っている訳ではない。ヴェレナはすこしバカの子みたいだが、その性格や言動がエレナの心を和ませてくれるからだ。
「主様、主様なの!」
「はいはい」
召喚されてからしばらくの間、ヴェレナはエレナに抱きついて頬をスリスリしていた。エレナはされるがままだった。背丈はそう変わらないが、まるでエレナがお姉ちゃんのようである。
……実際年齢的にはそうではあるのだが。
「もういいでしょ?」
「えー…じゃあ撫でてなの!」
エレナはもう、と言いながら、ヴェレナの頭を撫でた。
「えへへー」
少し頬を赤らめながら頭の上にある耳をピコピコと動かし、フリフリとフサフサの尻尾を揺らした。
そう。今のヴェレナは見た目銀毛の獣人なのだ。
「ほら。そろそろ」
「うー。分かったなの」
不服そうにヴェレナはエレナから離れた。そして一瞬光ったと思ったら……そこには1匹の銀狼が佇んでいた。
『どう?どうなの?』
「うん。ちゃんと戻ってるよ」
そう。これがヴェレナの本来の姿なのだ。
ヴェレナは【プローナヴォルフ】という種族の魔物だ。本来人化する種族ではない。
つまり、ヴェレナもクロと同じ変異体だということだ。そのためヴェレナもクロと同じく群れから追い出された。だが、追い出された時ヴェレナはまだ子供であった。獲物を捕る術を知らない子供が生きられるはずが無い。その極限状態の最中エレナに助けられたことで、エレナにとても懐いているのだ。
『乗ってなの!』
「うん。じゃあよろしくね」
エレナはヴェレナに跨り、向かうべき場所を告げる。
『えぇ!?あそこなの?』
「そうだよ。……大丈夫だから」
ヴェレナは自分が行くのが嫌な訳ではない。エレナのことを心配していたのだ。
その事を正確に理解したエレナは、大丈夫だと言いながらヴェレナの毛並みを撫でた。
『うぅ…主様がそう言うなら行くの』
「ふふっ。ありがとね 」
エレナがヴェレナにそう言うと、ヴェレナは森の中をエレナを乗せて走り始めた。
気がついた時、エレナは煌びやかな装飾が施されたホールのような場所に立っていた。
『助けて!い、命だけは!』
エレナの目の前には、会った覚えがない女性が跪きながら必死の形相でエレナを見つめていた。
『お願い!』
どうやら命乞いをしているようにみえる。女性はこの場所に似つかわしい、豪華絢爛なドレスを身につけていた。
なんで命乞いをしているんです?
エレナはそう尋ねたつもりだった。しかし口が動かない。口だけではない。体そのものが動かせなかった。
どういうことなの?
奇妙な感覚だった。まるで、自分の体ではないかのように。
エレナの意思に関係なく、体が、手が動き始める。
そして、その手を女性へと向けたその瞬間、何かが女性の体を………────
「…っ!だめ!!」
ベットから跳び起き、ハァハァと荒い息をつく。窓からはもうすでに弱い日の光が差し込んでいた。
「夢……」
先程の光景は単なる夢。しかし、そう片付けるには些か現実的すぎる内容だった。
「なんで、こんな夢を……」
エレナはもう一度夢の内容を思い出そうとするが、上手く思い出せなかった。それどころか、少しづつ夢の内容そのものが頭から消えているようだった。現にもう、女性の姿すら思い出せなくなっていた。
「うーん…ま、いっか」
この気持ちの切り替えの速さは、エレナのいい所でもあり、悪い所でもあった。
だが、思い出せないことにいつまでも考えを巡らせても意味がないこともまた、事実だった。
「さてと、準備しよっと」
ちなみに休日といいながら、昨日もエレナはギルドの業務をこなしていた。それ以外することが無かったという訳でもあるが。
今日はいつも着ているギルドの制服ではなく、少しラフな格好へと着替える。
そしてまだ日が昇りきっていないうちに、エレナはギルドを後にした。
「ふわぁ~…… 」
「ふふっ。お疲れ様です」
エレナは夜通し門番をして疲れきり、欠伸をこぼしていた兵士へと笑いかけた。
「あ、お、お疲れ様です…」
恥ずかしいところを見られ、兵士はすこしバツが悪そうにそう答えた。
「通っていいですか?」
「勿論いいですけど…こんな朝早くにですか?」
兵士がそう聞くのも無理はない。まだ薄暗い時間帯に、見た目15歳の女の子が外に出ようというのだから。
「はい。ちょっと用事がありまして」
「そうですか…じゃあこれに」
兵士はそれ以上詮索することはなく、いつものように犯罪を調べる水晶を差し出した。
エレナは迷うことなくその水晶に触れる。すると、問題がない緑色に光った。
「問題なし。じゃあ気をつけてね」
「はい」
この前の実地調査は時間がなかった為に走ったが、今回は時間があるので、エレナは歩いて外に出た。
しばらく歩き、エレナは近くの森へと入った。理由は従魔を召喚するためだ。人目を避けるのは必然。従魔を持つこと自体が珍しいからだ。昨日色々と騒ぎになったことで、そのことを思い出したエレナであった。
「…召喚ヴェレナ」
エレナがそう言うと、クロの時と同じ魔法陣が地面に展開される。そしてその魔法陣から現れたのは……エレナと同じくらいの背丈をした、少女だった。
「主様ーなの!」
そしてその少女はエレナへと抱きついた。
「うわっと。久しぶりね、ヴェレナ」
そう。彼女こそエレナの従魔、ヴェレナだった。
ヴェレナは昔からエレナのことが大好きであり、召喚すると必ずと言っていいほど抱きついてくる。
まぁエレナもそれを嫌っている訳ではない。ヴェレナはすこしバカの子みたいだが、その性格や言動がエレナの心を和ませてくれるからだ。
「主様、主様なの!」
「はいはい」
召喚されてからしばらくの間、ヴェレナはエレナに抱きついて頬をスリスリしていた。エレナはされるがままだった。背丈はそう変わらないが、まるでエレナがお姉ちゃんのようである。
……実際年齢的にはそうではあるのだが。
「もういいでしょ?」
「えー…じゃあ撫でてなの!」
エレナはもう、と言いながら、ヴェレナの頭を撫でた。
「えへへー」
少し頬を赤らめながら頭の上にある耳をピコピコと動かし、フリフリとフサフサの尻尾を揺らした。
そう。今のヴェレナは見た目銀毛の獣人なのだ。
「ほら。そろそろ」
「うー。分かったなの」
不服そうにヴェレナはエレナから離れた。そして一瞬光ったと思ったら……そこには1匹の銀狼が佇んでいた。
『どう?どうなの?』
「うん。ちゃんと戻ってるよ」
そう。これがヴェレナの本来の姿なのだ。
ヴェレナは【プローナヴォルフ】という種族の魔物だ。本来人化する種族ではない。
つまり、ヴェレナもクロと同じ変異体だということだ。そのためヴェレナもクロと同じく群れから追い出された。だが、追い出された時ヴェレナはまだ子供であった。獲物を捕る術を知らない子供が生きられるはずが無い。その極限状態の最中エレナに助けられたことで、エレナにとても懐いているのだ。
『乗ってなの!』
「うん。じゃあよろしくね」
エレナはヴェレナに跨り、向かうべき場所を告げる。
『えぇ!?あそこなの?』
「そうだよ。……大丈夫だから」
ヴェレナは自分が行くのが嫌な訳ではない。エレナのことを心配していたのだ。
その事を正確に理解したエレナは、大丈夫だと言いながらヴェレナの毛並みを撫でた。
『うぅ…主様がそう言うなら行くの』
「ふふっ。ありがとね 」
エレナがヴェレナにそう言うと、ヴェレナは森の中をエレナを乗せて走り始めた。
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