18 / 18
第2章
2ー7 情報収集その4
しおりを挟む
宿へと戻り一晩明かした後、エレナはひとまず役所へ向かうことにした。
「役所ってどこにあるの?」
朝食を運んできたサラに尋ねる。
「役所ですか?この宿を出て右に真っ直ぐ進めばありますよ」
「そうなの。ありがとね」
「いえ」
朝食を食べた後、エレナは言われた通りに役所へと向かった。
「あそこか…」
エレナの目の前には、ガルドメア王国の紋章を掲げた建物が佇んでいた。王国の紋章を掲げられるのは王国直属の機関のみなので、ここが役所で問題ないだろう。
エレナがその建物に足を踏み入れる。
「47番の方。どうぞー」
中は非常に混雑しており、番号札で順番に受付を行っていた。エレナが受け取ったのは85番なので、まだまだだろう。
「なんでここまで混んでるんだろう…」
「嬢ちゃん、知らないのかい?」
思わずエレナが呟いた言葉を拾ったのか、近くの年老いたおじいさんが話しかけてきた。
エレナはこれ幸いとおじいさんの問いかけに答えることにした。
「はい…どうしてなのですか?」
「そりゃ保証金が欲しいからさ」
「保証金を…?」
「ああ。嬢ちゃんは違うのかい?まぁそんなにいい服着てたらそりゃそうだな」
今エレナが身につけている服は、そう高いものではない。だが、スラムに住む人達にとっては高級品であるようだ。実際エレナに話しかけてきたおじいさんの服装は、端切れを繋ぎ合わせたようなものであり、ボロボロであった。
「ええまぁ…でも、保証金は全員に配られるのにここまで慌てる必要が?」
「ほんとに知らないんだねぇ…。それはもう5年前の話さ。今では貰う人が増えすぎたせいで、早い者勝ちになってるのさ」
(そんなことが……)
エレナはその話を直ぐに信じることは出来なかった。なぜなら、例え保証金を貰う人が増えたとしても、全体に供給する金額を一律にすることで全員に行き渡るようになっているはずだからだ。
なので1人あたりの金額が減るだけで、早い者勝ちという状態にはならないはずなのだ。
(いやでも…一律にしたことで1人あたりの最低金額より減ってしまったのなら、有り得る…?)
「本日は60番で受付終了です!」
受付で役所の職員らしき人物が叫ぶ。その声を聞いて落胆する者、諦めた顔をする者、憤る者が現れた。
「おい!こっちは3日連続できて貰えてないんだぞ!」
「こっちは1週間だ!」
「俺だって!」「私だって!」
と、溢れかえった人が受付へと押し寄せる。
(これは止めたほうが…)
エレナがそう思った瞬間。
「まぁしゃあねぇか」
「だな。また来ればいいか」
「あーあ。また明日か…」
そんな言葉を口から零しながら、受付に群がっていた人々が散開した。
(え?どういうこと?)
エレナは混乱していた。あの一瞬で全員を説得するなど不可能なのは明白であったからだ。それなのに全員が納得して役所を去っている。さらに不気味なのは、周りの人間がそれをおかしいと思っていないようなのだ。
(精神干渉の…魔法?)
エレナには精神攻撃を無効化する龍神の護りがあるので、効かなかったようだ。
しかしながら、あれだけの人数の精神に干渉するのは並大抵の実力では不可能だ。役所の職員にできるとも思えなかった。それだけの実力があるのなら、国お抱えの魔術師に任命されるからだ。わざわざこんな役所で一介の職員として働いているなどとは考えられない。
(なら、外部からの、誰か)
しかし、エレナが見た限りで不審な人物は見当たらない。もう既に出ていった人に紛れて役所を去っているのかも知れない。だが、外部の誰かがそんなことをする利点はなにか。
誰かからの依頼なのか?
それとも目的があるのか?
「もう役所を閉めますので、そろそろ出ていただけると…」
「あぁ、すいません」
職員に追い出されるようにして、エレナは役所を後にした。
「これは確かに一筋縄ではいかないね…」
ここでエレナは、何故ロンベルグが自分へと依頼を持ってきたのかを理解した。ただの不正ではない。そもそも不正をしているかすら怪しくなってきた。
「精神を操られているなら…有り得るか」
もし第三者が精神を操っているのなら、その第三者の手に本来配られるはずの保証金が渡っている可能性が高い。
「……潜るしかない、か」
もともとそのつもりではあった。だが、思ったより情報が錯綜しており、その踏ん切りがつかなかったのだ。
「……夜まで待とう」
その夜。王都の建物の屋根の上を走るひとつの影があった。エレナだ。
(隠密なんて久しぶりなんだけど…)
久しぶりと言いながら、音も立てずに走っているのはさすがと言うべきか。
今のエレナの服装は黒装束であり、宵闇に溶ける。さらに顔も半分ほど覆ってあるため、もし見られたとしてもエレナであるとバレることはまず無いだろう。魔法で姿を隠したほうが確実ではあるのだが……
(魔法を使っちゃうと魔力を感知されそうだからね)
精神に干渉するほどの腕前。魔法の魔力を感じる感覚も鋭いだろう。なのでエレナは魔法で姿を隠すということが得策でないと考え、黒装束を身につけたのだった。
(さて。役所に忍び込みますか)
「役所ってどこにあるの?」
朝食を運んできたサラに尋ねる。
「役所ですか?この宿を出て右に真っ直ぐ進めばありますよ」
「そうなの。ありがとね」
「いえ」
朝食を食べた後、エレナは言われた通りに役所へと向かった。
「あそこか…」
エレナの目の前には、ガルドメア王国の紋章を掲げた建物が佇んでいた。王国の紋章を掲げられるのは王国直属の機関のみなので、ここが役所で問題ないだろう。
エレナがその建物に足を踏み入れる。
「47番の方。どうぞー」
中は非常に混雑しており、番号札で順番に受付を行っていた。エレナが受け取ったのは85番なので、まだまだだろう。
「なんでここまで混んでるんだろう…」
「嬢ちゃん、知らないのかい?」
思わずエレナが呟いた言葉を拾ったのか、近くの年老いたおじいさんが話しかけてきた。
エレナはこれ幸いとおじいさんの問いかけに答えることにした。
「はい…どうしてなのですか?」
「そりゃ保証金が欲しいからさ」
「保証金を…?」
「ああ。嬢ちゃんは違うのかい?まぁそんなにいい服着てたらそりゃそうだな」
今エレナが身につけている服は、そう高いものではない。だが、スラムに住む人達にとっては高級品であるようだ。実際エレナに話しかけてきたおじいさんの服装は、端切れを繋ぎ合わせたようなものであり、ボロボロであった。
「ええまぁ…でも、保証金は全員に配られるのにここまで慌てる必要が?」
「ほんとに知らないんだねぇ…。それはもう5年前の話さ。今では貰う人が増えすぎたせいで、早い者勝ちになってるのさ」
(そんなことが……)
エレナはその話を直ぐに信じることは出来なかった。なぜなら、例え保証金を貰う人が増えたとしても、全体に供給する金額を一律にすることで全員に行き渡るようになっているはずだからだ。
なので1人あたりの金額が減るだけで、早い者勝ちという状態にはならないはずなのだ。
(いやでも…一律にしたことで1人あたりの最低金額より減ってしまったのなら、有り得る…?)
「本日は60番で受付終了です!」
受付で役所の職員らしき人物が叫ぶ。その声を聞いて落胆する者、諦めた顔をする者、憤る者が現れた。
「おい!こっちは3日連続できて貰えてないんだぞ!」
「こっちは1週間だ!」
「俺だって!」「私だって!」
と、溢れかえった人が受付へと押し寄せる。
(これは止めたほうが…)
エレナがそう思った瞬間。
「まぁしゃあねぇか」
「だな。また来ればいいか」
「あーあ。また明日か…」
そんな言葉を口から零しながら、受付に群がっていた人々が散開した。
(え?どういうこと?)
エレナは混乱していた。あの一瞬で全員を説得するなど不可能なのは明白であったからだ。それなのに全員が納得して役所を去っている。さらに不気味なのは、周りの人間がそれをおかしいと思っていないようなのだ。
(精神干渉の…魔法?)
エレナには精神攻撃を無効化する龍神の護りがあるので、効かなかったようだ。
しかしながら、あれだけの人数の精神に干渉するのは並大抵の実力では不可能だ。役所の職員にできるとも思えなかった。それだけの実力があるのなら、国お抱えの魔術師に任命されるからだ。わざわざこんな役所で一介の職員として働いているなどとは考えられない。
(なら、外部からの、誰か)
しかし、エレナが見た限りで不審な人物は見当たらない。もう既に出ていった人に紛れて役所を去っているのかも知れない。だが、外部の誰かがそんなことをする利点はなにか。
誰かからの依頼なのか?
それとも目的があるのか?
「もう役所を閉めますので、そろそろ出ていただけると…」
「あぁ、すいません」
職員に追い出されるようにして、エレナは役所を後にした。
「これは確かに一筋縄ではいかないね…」
ここでエレナは、何故ロンベルグが自分へと依頼を持ってきたのかを理解した。ただの不正ではない。そもそも不正をしているかすら怪しくなってきた。
「精神を操られているなら…有り得るか」
もし第三者が精神を操っているのなら、その第三者の手に本来配られるはずの保証金が渡っている可能性が高い。
「……潜るしかない、か」
もともとそのつもりではあった。だが、思ったより情報が錯綜しており、その踏ん切りがつかなかったのだ。
「……夜まで待とう」
その夜。王都の建物の屋根の上を走るひとつの影があった。エレナだ。
(隠密なんて久しぶりなんだけど…)
久しぶりと言いながら、音も立てずに走っているのはさすがと言うべきか。
今のエレナの服装は黒装束であり、宵闇に溶ける。さらに顔も半分ほど覆ってあるため、もし見られたとしてもエレナであるとバレることはまず無いだろう。魔法で姿を隠したほうが確実ではあるのだが……
(魔法を使っちゃうと魔力を感知されそうだからね)
精神に干渉するほどの腕前。魔法の魔力を感じる感覚も鋭いだろう。なのでエレナは魔法で姿を隠すということが得策でないと考え、黒装束を身につけたのだった。
(さて。役所に忍び込みますか)
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる