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公開時なろう限定番外SS
幕間:160.6話 今は遠き日々
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ゼンは、今日も早めに起きて、粗末な朝食を大急ぎでかき込むと、荷物を確認する。
今一番大事なのは、ゴウセルに借りている、魔術のかかったポーチ(腰につける収納具)に、短剣。
貯まってきたお金は、アジトの水がめの下に、二重に掘った穴の底(一段目に囮の小銅貨二十枚程入れた箱がある)に。後、外の、自分だけが分る印のついた瓦礫の下に、数カ所分散して隠している。
全部が同時に見つかったりする事はない筈だ。
ゴウセルに借りた物は、常に肌身離さず持っているし、お金もある程度同様にして持っている。それらは、例え、殺されても奪われたくない物ばかりだ。
殺されたら取られるだろうけど、比喩として……。
服を、洗濯した順に、かなり普通に見える服を選び、着替えたら、スラムの端を大回りして市民街の方に出て、目的地へ急ぐ。
金回りが良くなると、スラムの暴力系な輩が鋭い嗅覚で嗅ぎつけて来て、襲われる危険性がある。スラムの真ん中を普通には通って行きたくない。
ゼンが今持っている服は、自分で古着屋で買った物もあるが、ゴウセルが他の商会の従業員の身体が大きくなって着れなくなった物だ、と言ってくれた。
多分、嘘だ。
商会の従業員に、ゼン程に背の低い、小さな者はいないし、ゼン同様スラム出で雇われた孤児には支給された作業服のみを着ている者が多い。
だから、その一応着古された風の服は、ゼンに与える用に、何回か洗濯して着古された風に見える様になっているだけの、ほぼ新品の服なのだ。
何故ゴウセルが、こんなに自分に良くしてくれるのか、ゼンには分からない。
初めは見映え良く太らせてから、奴隷商に売り払うのか、と警戒したりもしたが、そもそもそこまで悪人な感じはしなかったので、念の為の警戒だった。
ゼンは、ゴウセルが何かくれたり褒めたりしてくれる度に、胸の中がポカポカして困る。
無表情が常となった表には、余り出ていないので、ほとんどの者が、ゼンが何を考えているか、余り分かっていない様だったが、ゼンの内面では、色々感情の起伏がそれなりにある。
本人も、色々酷い事続きで麻痺して、上手く表現出来ないようになっていたので、それが当り前になって、口下手で鉄面皮が板についてしまっていたが、元々はそうではなかった。
それが少しづつ回復しているのは、本人に自覚のない事だった。
最近では、新人冒険者を紹介され、そこのパーティーのポーターをしていたりする。
将来を考えると、冒険者を志すのがいいらしい。
いつ死ぬか分からないスラムの住人が、将来を考えるとか、非現実的だと思うのだけど。
それでも、商会の配達の仕事よりも実入りがいいのは確かだ。
配達でも、贅沢とかを考えなければ、それなりに生活が出来なくもない。そもそも、今まで収入などなくやっていたのだから。
それでも、蓄えを増やして、イザという時に備えるのは、悪い事ではないのだろう。
それに、迷宮(ダンジョン)で冒険、というのは、スラムで奴隷商に追いかけられるよりも、余程意味があって面白い。危険も、迷宮(ダンジョン)の方が大きいのだが、奴隷商に追いかけられた後には、疲労が残るだけで、手元には何も残らない。
迷宮(ダンジョン)なら、冒険者達の手伝いをして、魔石や戦利品を拾い集めるだけで仕事になるし、褒められる。
冒険者と一緒に、魔物に殺される危険性だってあるのは分っているが、その同行している冒険者達が、とても凄く強くて、ゼン自身が身の危険を感じた事は、ほとんどないと言っていい。
それなのに、あんなに沢山お金もらっちゃって、いいんだろうか?などと思うゼンには、普通の常識が余りない。スラムの住人なのだから、それは当然だった。
だから、最初は少し迷惑そうだった『西風旅団』の四人が、何故だかすぐにゼンを受け入れてくれて、ありがたがる様になったので、とても嬉しかった。
顔には出ていなかったが。
四人がまだ十代半ばと年若く、ゼンと近い年代だったのも、打ち解けるのが早くなった要因なのだろう。
ポーターとして、普通以上に優秀で役立っている事が歓迎されたと、まるで気づいていないゼンの自己評価の低さは、この頃からずっと、ほとんど変わっていない。
フェルズでは、商店街等でも話題になり、自分も意識していた、有名な(一部で)冒険者のパーティーで働く事になるとは、思ってもみなかった。
「あ、ゼン君来た来た~!おはよ~~」
白銀の髪のアリシアが、早朝だというのに大きな声をあげて、走って来たゼンを目ざとく見つける。
ギルド前の広場は、すでに冒険者がチラホラとたむろしている。
「おはよう…ござい、ます」
「息斬らせてまで挨拶しなくていいぞ。おはようさん」
「よ、おはよ。朝からそんなに走って来て、元気だな」
「……おはよう。シアはそんなにはしゃがないの」
旅団の四人は、それぞれ挨拶をしてゼンを出迎える。
剣士のリュウ、スカウトのラルク、魔術師のサリサ、神術士のアリシアが、ゼンがポーターをしている冒険者パーティー『西風旅団』の四人だった。
「俺……遅、かった?……です、か」
「ん?ああ、いや遅くないぞ。俺達は、ギルドで依頼を受けるから、早めに行って取って来たんだ。今日は早めに取れたから、先にいただけど」
「時間前だしな」
「ゼン君、心配しなくても、少し遅れたぐらいで怒る人、いないから~~」
「……時々寝坊する人いるから、ね」
そう言うサリサも欠伸をしている。
「女性陣は朝、弱いからな」
リーダーのリュウは苦笑している。
何気ないひと時、何気ない日常。
急に訪れた幸福は、余りにも馴染みのない物だったのに、いつのまにか、それが当り前みたいになって、それを守りたい、と思いだしたのは、いつだったのか、よく覚えていない。
最初からだった気もするし、途中からだった気もする。
自分以外の全てが眩しくて、輝いていた。
かけがえのない、失えない物が、そこには………
※
「―――ン。おい、ゼン!」
「え?え?……」
突如、大声で起こされて、ゼンはびっくりして目を覚ました。
アルティエールが、後部座席から、傾けた座席で眠っていたゼンに覆い被さるようにして、こちらを睨んでいた。
「腹が減った。朝食を出してくれんか?」
「……あ、夢だったのか。今の現実と乖離し過ぎてる状況で、現実逃避したくなった……」
「ゼン、メシ~~」
今、ここは宇宙で、古代文明の、巨大人型兵器の中で、同行者が、この傍若無人なハイエルフである事が、たまらなく悲しくなるゼンだった。
*******
オマケ
総合千点越えた記念?に、昔の無口なゼン君を書きたいなあ、とか思ったのが運の月。
すみません、書きにくくて時間かかるわ、なんか内容に納得もいかないのですが、とりあえず更新しておきます。
(多分、後日、その内、いつか、書き直したいと思います。)
ゼンは、今日も早めに起きて、粗末な朝食を大急ぎでかき込むと、荷物を確認する。
今一番大事なのは、ゴウセルに借りている、魔術のかかったポーチ(腰につける収納具)に、短剣。
貯まってきたお金は、アジトの水がめの下に、二重に掘った穴の底(一段目に囮の小銅貨二十枚程入れた箱がある)に。後、外の、自分だけが分る印のついた瓦礫の下に、数カ所分散して隠している。
全部が同時に見つかったりする事はない筈だ。
ゴウセルに借りた物は、常に肌身離さず持っているし、お金もある程度同様にして持っている。それらは、例え、殺されても奪われたくない物ばかりだ。
殺されたら取られるだろうけど、比喩として……。
服を、洗濯した順に、かなり普通に見える服を選び、着替えたら、スラムの端を大回りして市民街の方に出て、目的地へ急ぐ。
金回りが良くなると、スラムの暴力系な輩が鋭い嗅覚で嗅ぎつけて来て、襲われる危険性がある。スラムの真ん中を普通には通って行きたくない。
ゼンが今持っている服は、自分で古着屋で買った物もあるが、ゴウセルが他の商会の従業員の身体が大きくなって着れなくなった物だ、と言ってくれた。
多分、嘘だ。
商会の従業員に、ゼン程に背の低い、小さな者はいないし、ゼン同様スラム出で雇われた孤児には支給された作業服のみを着ている者が多い。
だから、その一応着古された風の服は、ゼンに与える用に、何回か洗濯して着古された風に見える様になっているだけの、ほぼ新品の服なのだ。
何故ゴウセルが、こんなに自分に良くしてくれるのか、ゼンには分からない。
初めは見映え良く太らせてから、奴隷商に売り払うのか、と警戒したりもしたが、そもそもそこまで悪人な感じはしなかったので、念の為の警戒だった。
ゼンは、ゴウセルが何かくれたり褒めたりしてくれる度に、胸の中がポカポカして困る。
無表情が常となった表には、余り出ていないので、ほとんどの者が、ゼンが何を考えているか、余り分かっていない様だったが、ゼンの内面では、色々感情の起伏がそれなりにある。
本人も、色々酷い事続きで麻痺して、上手く表現出来ないようになっていたので、それが当り前になって、口下手で鉄面皮が板についてしまっていたが、元々はそうではなかった。
それが少しづつ回復しているのは、本人に自覚のない事だった。
最近では、新人冒険者を紹介され、そこのパーティーのポーターをしていたりする。
将来を考えると、冒険者を志すのがいいらしい。
いつ死ぬか分からないスラムの住人が、将来を考えるとか、非現実的だと思うのだけど。
それでも、商会の配達の仕事よりも実入りがいいのは確かだ。
配達でも、贅沢とかを考えなければ、それなりに生活が出来なくもない。そもそも、今まで収入などなくやっていたのだから。
それでも、蓄えを増やして、イザという時に備えるのは、悪い事ではないのだろう。
それに、迷宮(ダンジョン)で冒険、というのは、スラムで奴隷商に追いかけられるよりも、余程意味があって面白い。危険も、迷宮(ダンジョン)の方が大きいのだが、奴隷商に追いかけられた後には、疲労が残るだけで、手元には何も残らない。
迷宮(ダンジョン)なら、冒険者達の手伝いをして、魔石や戦利品を拾い集めるだけで仕事になるし、褒められる。
冒険者と一緒に、魔物に殺される危険性だってあるのは分っているが、その同行している冒険者達が、とても凄く強くて、ゼン自身が身の危険を感じた事は、ほとんどないと言っていい。
それなのに、あんなに沢山お金もらっちゃって、いいんだろうか?などと思うゼンには、普通の常識が余りない。スラムの住人なのだから、それは当然だった。
だから、最初は少し迷惑そうだった『西風旅団』の四人が、何故だかすぐにゼンを受け入れてくれて、ありがたがる様になったので、とても嬉しかった。
顔には出ていなかったが。
四人がまだ十代半ばと年若く、ゼンと近い年代だったのも、打ち解けるのが早くなった要因なのだろう。
ポーターとして、普通以上に優秀で役立っている事が歓迎されたと、まるで気づいていないゼンの自己評価の低さは、この頃からずっと、ほとんど変わっていない。
フェルズでは、商店街等でも話題になり、自分も意識していた、有名な(一部で)冒険者のパーティーで働く事になるとは、思ってもみなかった。
「あ、ゼン君来た来た~!おはよ~~」
白銀の髪のアリシアが、早朝だというのに大きな声をあげて、走って来たゼンを目ざとく見つける。
ギルド前の広場は、すでに冒険者がチラホラとたむろしている。
「おはよう…ござい、ます」
「息斬らせてまで挨拶しなくていいぞ。おはようさん」
「よ、おはよ。朝からそんなに走って来て、元気だな」
「……おはよう。シアはそんなにはしゃがないの」
旅団の四人は、それぞれ挨拶をしてゼンを出迎える。
剣士のリュウ、スカウトのラルク、魔術師のサリサ、神術士のアリシアが、ゼンがポーターをしている冒険者パーティー『西風旅団』の四人だった。
「俺……遅、かった?……です、か」
「ん?ああ、いや遅くないぞ。俺達は、ギルドで依頼を受けるから、早めに行って取って来たんだ。今日は早めに取れたから、先にいただけど」
「時間前だしな」
「ゼン君、心配しなくても、少し遅れたぐらいで怒る人、いないから~~」
「……時々寝坊する人いるから、ね」
そう言うサリサも欠伸をしている。
「女性陣は朝、弱いからな」
リーダーのリュウは苦笑している。
何気ないひと時、何気ない日常。
急に訪れた幸福は、余りにも馴染みのない物だったのに、いつのまにか、それが当り前みたいになって、それを守りたい、と思いだしたのは、いつだったのか、よく覚えていない。
最初からだった気もするし、途中からだった気もする。
自分以外の全てが眩しくて、輝いていた。
かけがえのない、失えない物が、そこには………
※
「―――ン。おい、ゼン!」
「え?え?……」
突如、大声で起こされて、ゼンはびっくりして目を覚ました。
アルティエールが、後部座席から、傾けた座席で眠っていたゼンに覆い被さるようにして、こちらを睨んでいた。
「腹が減った。朝食を出してくれんか?」
「……あ、夢だったのか。今の現実と乖離し過ぎてる状況で、現実逃避したくなった……」
「ゼン、メシ~~」
今、ここは宇宙で、古代文明の、巨大人型兵器の中で、同行者が、この傍若無人なハイエルフである事が、たまらなく悲しくなるゼンだった。
*******
オマケ
総合千点越えた記念?に、昔の無口なゼン君を書きたいなあ、とか思ったのが運の月。
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