159 / 190
最終章EX 星の英雄
156.火星戦線(1)
しおりを挟む※
ゼンは、火星上空から、ヴォイドの大体の着陸地点を目指して降下している。
何か、不思議な既視感(デジャヴュ)を覚える。
前に、一回同じ事をした様な?
何故かイラっとする。
「どうしたのじゃ、ゼン」
ゼンの様子がおかしいのは、ジークと同様にリンクしているので、アルティエールには当然伝わる。
「いや、なんだろう……。直前に、悪い夢でも見たような……」
「何をおかしな事を。お主はずっと起きて、ジークを操縦していたではないか」
まったくもってその通りだ。居眠り運転などしていない。
「うん……。多分、気のせいだ。それより、火星の大気圏に入るよ」
火星の大気は、重力が弱いせいもあって、層が薄い。
ゼンは、充分減速して火星への降下を続ける。
と同時に、昨夜従魔達から言われた話を思い出す。
従魔達からは、自分達のスキルも、ヴォイドとの戦闘に役立てて欲しい、と言われていた。
確かに、ゼンがジークの機体で『流水』が強化された形で使える様に、従魔達のスキルも、ジークの力で強化されたものが使える理屈になる筈だ。
それらは、確かにヴォイドとの戦闘に有効だろう。
今までの魔物との戦闘では、修行の為や、自分の力ではないから、と遠慮して、リャンカの治癒スキル以外、余り使う機会がなかった。
彼等を実体化させた時は、当然個々に使っていると思うが、それと中にいて、主(あるじ)に自分のスキルを使ってもらうのとでは意味合いが大きく違う。
それに、この戦いではなりふり構わず行かなければ、全てを失う事になる、後の事など考えられない、瀬戸際の戦いなのだ。手段など選んでいる場合ではない。
ゼンはその事を胆に命じ、アルに頼れ、と言われた事も合わせ、従魔達にも頼ろうと、考えを改め直したのだ。(……ルフは問題外だが)
「ここが、ヴォイドの着陸した場所?」
何もない、単なる荒地だ。
火星の酸化鉄を多く含んだ土地は、そのせいで星全体が赤く見える程に主要な成分だ。
火星は、荒野か砂漠が主で、緑などまるで見当たらない。海もない。川もない。
【……この様に、水の少ないこの地では、生物が生きて、進化、発展する要素が少なく、文明など、出来る以前の問題なのじゃ】
【それはそれとして、着陸の痕跡も、何もにないな。足跡など残す様な生物ではないかもしれんが……】
あるいはあったとしても、風で全て消されてしまったのかもしれない。
だが、漠然としたヴォイドの気配のようなものはある。
先の戦いで、小さな粒子まで分裂したヴォイドの集団に囲まれた時のような、どこにいるのか、ハッキリと特定出来ないのだが、着陸した瞬間から見張られ、監視でもされている様な、ジトっと湿った感触がある。
まさか、分裂して大気にでも溶け込んで、こちらを囲んでいる?
だがそれに、何の意味があると言うのか。火星の薄く偏った大気からでは、大したエネルギーは得られない筈だ。
全てを吸収して、この地を真空にしたとしても、その大気に頼っている訳ではないゼン達には影響がない。
現地生物には大問題だろうが、ジークは小動(こゆるぎ)もしないだろう。
途方に暮れて、周囲を見回していると、地響きがした。
ゼンは、近くにある砂漠に目を走らせながら問う。
「ここって、砂虫(サンドワーム)のような魔獣がいるんですか?」
【その可能性は否定せんが、あれの様に巨大になったりはせんぞ。水も栄養も、何もかも足りんのじゃからな】
ミーミルが言っているのは、ゼンの師匠(ラザン)が倒した、グランド・サンドワームの事だろう。
それ以下の敵しかいないのなら、ジークには、本当に虫程度の相手に過ぎない。
地響きが、真下から近づいて来るのを察知した。
ゼンが、反射的にジークを後方に飛び退らせると、地面の中から、赤黒い、細長い巨体が地面を突き破って現れた。
「なんだ?竜、なのか?いや、首が長いから、東方に生息するという龍?」
ゼンは、更にジークを『流歩』で下がらせながら、相手の全貌を掴もうとする。
「かなりデカイのう。何故赤黒いのじゃ?あれは、溶岩かや?火炎系はわしの専売特許じゃのにのう」
龍と見紛う物が、口を開け、赤い光弾を放った。
ゼンはすかさず避けるが、避けた場所の地面は溶けてえぐれた状態となった。
「火がどうのって熱量じゃないみたいだよ……」
炎の精霊王の加護があっても、あれを受けて無傷ではいられないだろう。
ジークの耐熱障壁(シールド)でも、どこまでもつか分からない。
素直に受けるつもりもないが。
(しかし、あれがヴォイドなのか?確かに、その気配は感じるが、まだ広範囲に広がった気配も、感じるままなんだけど……)
すると、地面のそこかしこから、まったく同じな溶岩の龍が次々と現れ、ジークに向かって光弾を一斉斉射して来た。
「地面に潜って、火山流でも吸収して来たんですかね?」
ゼンはほとんどを躱し、当たりそうな物のみ『流水』で逸らした。
【火山は、なくはないが、どうにもそれだけとは思えんのじゃが】
確かに、火山の一つや二つなら、ジークで丸ごと吹き飛ばせるだろう。
そう考える間にも、溶岩の龍は刻一刻と増え続け、不気味な様相を呈して来た。
(うっとおしいな……)
ゼンは早速、従魔のスキルを使ってみる事にした。
<ゾート、行くぞ!>
<了解だ!>
「『雷の咆哮』!」
Uoooooooon!!!
剣狼の固有スキル、雷の息吹(ブレス)だ。吠え声と一緒に出すので、咆哮と呼ばれている。極太の雷が、四方八方に出鱈目にバラ巻かれる。ゼンも、これを攻略するのに、ひどく苦労をさせられた。
威力がジークによって強化されているせいだろ。
目前で向日葵畑か何かの様に、気味が悪いぐらいに生えそろっていた龍の首は、全てが壊滅状態になった。
だが、まるで何事もなかったように、その瓦礫の下から、また次々と同じ物が生えて来る。
「まるでイタチごっこじゃのう。キリがないぞい」
<<次だ>>
「『光の息吹(プレス)』!」
ジークの口部分の手前から、また物凄く太い光線が発射される。
それは、ジークが向く向きによって目標を変え、全てを薙ぎ払う、光の聖剣の様だ。
(どちらかと言うとゴ〇ラじゃな)
ハイエルフはこっそりと思う。
放射状態が続き、ジークが向きを変える度に爆発が巻き起こり、もしこの場に生物が居合わせたら、阿鼻叫喚の坩堝となったのは間違いないだろう。
「……これは、怪獣大決戦か何かなのかや?」
アルティエールは呆れ返って、それ以上の言葉が出て来ないようだ。
ゼンも、自分の戦いの時とは規模が違い過ぎて、内心では苦笑を洩らしている。
それでも、敵は変わらず無尽蔵としか思えない勢いで生えて来る。
「……おかしいな。まるでダメージを与えた手応えがない。こちらもそれ程消耗していないけど、それにしても妙だ」
【火山や溶岩流をただ吸収しただけ、にしては確かにおかしいのう】
【あれは、幻影や中身のないハリボテではないのか?】
「いえ、それはないです。『流水』で受けた光弾には、確かな力を感じましたから」
「ふむう。この星に、神すら知らぬ、未知の供給源があるのじゃろうか……」
【それも考えにくい。この星にある物は、限られておるからのう】
「ともかく、仕切り直して、ちょっと考えましょう。俺に、荒唐無稽な考えがあるんですが、それがあいつ等に可能なのかどうか、俺には判断のしようがないので……」
ジークは、あの溶岩龍が生えて増えて来る度に移動していたので、もう最初の場所からかなり離れていた。
その為、何もない荒野に見えていたがこの地だが、チラホラ岩山等の高地なども視界に入って来るようになっていた。
ゼンは、またワサワサ生えて来る溶岩龍に向かって、一転その群れに突っ込む様子を見せた。
後ろや左右にばかり避けられていたので、龍達の吐き出す光弾は完全に狙いを外され、爆炎だけが巻き起こった。
ゼンは、奴等の密集した根本に出来た薄い影を狙って動いていた。
<ガエイ、頼む>
<了解です、主殿>
「『影転移』」
龍達は、自分達の死角に入ったジークが突然消えて、どこに行ったのか理解出来ず、しばらくしつこく捜し回っていたが、結局見つからずに、地中へと戻って行った。
そのジークは、近隣で見かけた岩山の影の中に潜んでいた。
本来、『影転移』は、スキル保持者本人以外は出来ない筈だったが、そのスキル保持者が従魔で、ジークがその力を増強している今の状況ならどうなるか、を試した結果、ジーク毎使用出来る事が判明し、早速使用したのだった。
もしかしたら、従魔の主である自分も、ジークなしの時でも使用出来るかもしれない、と従魔のスキルの新たな使用法を見出したゼンだった。
*******
オマケ
ゾ「フフン♪」(自慢げ)
ガ「任務だ……」(実は上機嫌)
ボ「次回以降、使ってもらえるらしいから」(いつもご機嫌)
セ「……ボクのは、戦闘向きじゃないんですよ……」(悲し気)
ル「ぶーぶー!なんで、るーにはつかってもらえう、すきるないのお?!」
ゾ「いや、その内、絶対便利で入用なスキル覚えるって」(汗
ガ「我慢肝心……」(困惑)
ボ「ルフは、大きくなったらゼン様乗せて、空飛べると思うよ」(通常)
セ「うんうん、きっとすぐだよ。それに、ミンシャやリャンカが決まったんだし、大きくなったらルフも、主様のお嫁さんに……」(あ、しまった)
ル「るー、それがあった!お嫁さん、やくそくした、ぜったいなるお!」
ゾ(馬鹿、余計な事を…)
ガ(知らぬ存ぜぬ…)
ボ「そうだね、大きくなったら、だね」(平常)
セ「あー、なんか、後で叱られそう……」
ル「~~♪♪」(凄くご機嫌)
0
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる