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第1章 魔の森編
002. 修行の日々(1)
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―――――――――
――――――
―――
ヒュッヒュッ!
風切る音と共に、小石が何発も飛んでくる。
ゼンはそれを、なるべく手にした木剣ではたき落とすが、どうしても落とせない物は身を捻って躱す。
「おらおら、全部剣で落とせ、っつーただろうが。避ける動きが出来る様な余裕あるなら、剣の方を動かせ!当たっても大して痛みはないぞ」
ラザンが、ひよいひよいと続けて小石を投げる。
その様子は、確かに軽く投げている様にしか見えないのだが、手首のスナップだけで投げ、飛んでくる小石の速度は尋常のものではなく、当たれば非常に痛かった。
「……ック」
それでもゼンは、言われた通りに剣で小石を落とす事に集中する。すると自然に、反応出来なかった小石が身体や手足に当たる様になる。
ハッキリ言って、目茶苦茶痛くて仕方がなかった。
その痛みのせいで、剣で落とす小石の量が減れば、また当たる小石の量が増える。
当然の成り行きだったが、それでもラザンの小石を投げる手の動きはまるで変わらず、非常に冷徹に機械的に、決まったテンポで小石を投げて来る。
終いにゼンは、木剣を盾にして、ただ小石を防ぐだけになっていた。
小一時間、汗だく、痣だらけになって、やっとその訓練は終わった。
ラザンはゼンに、ポーションを一瓶投げると、すぐに次の訓練の準備を始める……。
ラザンとゼンが、迷宮都市フェルズを離れて旅に出て、最初の2ヵ月ばかりは、主にゼンの体力作りや、下半身よりは劣る上半身、そして腕の力を鍛える事に重きが置かれた。
それと、剣術の基礎中の基礎。構えや振り、足運び等々。
リュウ達にも指摘された、上半身の力不足。それを補う為にゼンは、通常の鍛錬が終わった後にも、腹筋背筋、腕立て伏せ、素振り等、寝る間も惜しんで繰り返した。
それらを。師匠であるラザンは、別に止めもしなかった。
ただニヤニヤと、それを見守り酒盛りのツマミにして楽しんでいただけだった。
だが、体力作りの、肝心要の食事の方は、と言うと、ホレ、と固いパンに干し肉、それと、何やら怪しげな錠剤二粒。
「……師匠、何ですか、これ?」
「ああ、そりゃあ、ギルドで開発された、食事で必要な栄養分を全てまとめて圧縮保存された、『栄養丸(えいようがん)』って奴だ。結構高くて、しかも上級の冒険者にしか売ってもらえん代物だ。
迷宮(ダンジョン)の奥深くまで潜る時には、荷物は少ない方がいいし、それは保存も効く。一粒で一食分、充分なんだが、お前さんには栄養を充分取って、身体を作ってもらわにゃならんからな。
それで二粒だ。ただ、こいつでは、余り腹は膨れん。満腹感がないんだ。それで、パンと干し肉、って訳だ。後は水でも飲んで誤魔化せ」
との仰せだった。
「……あの、さっき狩った魔物の肉は、食わないんですか?煮たり焼いたりして」
ゼンにしてみれば、食材がいくらでもあるのに、何故それを食べないのか、不思議でしかない。肉だけで不満なら、ある程度、他に野菜や乾燥させたキノコの類いもあった。
そして、味付けの為の、数種の塩胡椒等の香辛料も持って来ている。
「ん~~~~?俺は、そういう方面、からっきしでな。面倒だし、別にこれらでも食ってれば、飢え死にする事もないしな。お前が食いたいなら、好きに……。
いや、そうか!お前さんは、俺の従者だったな。じゃあ、俺の分も作ってくれよ」
と顔を輝かせて言い出す始末。
「……いいですけど……」
ゼンは、ラザンとの旅に同行する様になって、この最強剣士の、それ以外はまったく何もやらず、やろうとはせず、物事に徹底的に無頓着無関心な、ぐうたら男である事が、分かって来てしまった。
だからと言って、彼が最高の剣術家であり、最強の剣士である事に変わりはなく、その点で言えば、尊敬に値する素晴らしい師匠ではあるのだが、普通に見ると、仕事以外はまったくしない、駄目亭主、駄目人間であるのだった。
それは、旅に出てから分かった事ではあったが、何となく騙された気がしないでもないゼンであった。
※
旅に出てから、ゼンが、完全に素人で、剣についても習い始めたばかりと改めて知り、ラザンは意外にも、その根本の基礎から丁寧に教えてくれた。
剣を持ち、それを振るう事の意味、覚悟。
命を奪う戦士の、苛烈さと残酷さ、その心構え。一瞬の躊躇や迷いが自分の命を奪いかねない、危うい戦場の厳しさ等を。
それは魔物でも人でも変わりはしない。むしろ、人は人にこそ、刃を向ける事にためらいを覚える。それは常識的な反応ではあるのだが、こと戦場においては、致命的な隙を生みかねない、やってはならないミスに繋がるのだ。
そうした事を、食事時に酒を飲みながら、ゼンに言い聞かせる。
もっとも、ゼンには最初から、その覚悟や心構えは、ある程度出来ている様であった。
ゼンは、スラムで人を殺(あや)めた事があった。相手は、奴隷商に仕える、下っ端のチンピラ。
それは、その時たまたまゼンが刃物を持っていたのと、そのチンピラの迂闊さ、それらの偶然が折り重なって、ゼンを追いかけ、逃げ惑う足の早いゼンを、幸運(不運?)にも袋小路に追い詰めた。
チンピラはその時、すばしっこいゼンの機動力を奪おうと、無防備に近づき、短剣を脚に振るおうとした、その時、自衛として持っていたナイフもどきの刃物が、チンピラの喉元を深く切り裂き、チンピラはのけ反り倒れた。
ゼンはまたとない絶好の機会に、近くにあった煉瓦の欠片で、チンピラの頭を何回も叩き、それは男の反応がなくなるまで、しつこく続けられた。
ゼンは、その事に対して、何の罪悪感も覚えなかったし、いけない事をしたとも思わなかった。
相手に捕まれば、ゼンは死ぬよりも酷い運命が待っていたのだ。正義だ悪だ、の以前に、自分の生存を優先した、当然の行動だった。
だが、それでも、ゼンの中で何かが確実に変わってしまった時でもあった。
ゼンはその夜になって、死体を前にしても無反応だったのに、急に胃にある少ない消化物を吐き出し、その苦痛に涙した。決して、自分の行為を後悔した訳ではなく、それでも起こる生理現象の苦痛に涙したのだ。
その夜、ゼンは一睡も出来なかった。
それから、ゼンの危機管理は前よりもいっそう用心深く、慎重になっていた……・
必要であれば、相手を殺すが、その必要がない状況に、なるべくおちいらない様に心がける様になったのだった。
※
なので、ラザンは、ゼンがある程度戦える様になったある日、山道で、数名の野盗が潜んでいる事に気付いた時、ゼンの対人戦の有り様を見る為に、あえて相手を近づけさせ、その襲撃を受けた。
ゼンは、気配を消して、相手の背後を周り、少しの遠慮もなく、野盗4人の内、3人を躊躇なく仕留めた。
もう一人は無謀にもラザンに挑んで来たので、仕方なく斬り捨てた。
「うむ。文句なく合格点、と言いたい所なんだが、ちと駄目な所があるな」
ラザンは、無精髭の生えた顎を、ポリポリと困った顔をして掻く。
ゼンは何が駄目なのか分からないので、殊勝に師匠の面前で身を縮込ませた。
「ゼン。お前さんが目指しているのは何だ?剣士だろ?その為に、俺と稽古をし、素振りを何千、何万回を振って来たんだ。
なのに、何故、相手の喉を掻き切る様な、暗殺者(アサシン)めいた事をするんだ?
別に、気配を消して相手の意表をつくのは悪くない。相手の喉を掻き切るのも、最小限の力を使っての対処法として考えると、悪いものではないんだが、行動の基本にそれを持って来るのは、剣士とは言えんだろう」
ゼンは、神妙な顔をして、大人しくそのお説教に耳を傾ける。
「お前さんが、まだ幼い、力が足りないのは分かるが、そういう手段を戦術の基本に据えるのなら、それは剣士ではない方向を目指している事になる。
剣士なら、首を切り飛ばせ。相手の急所を刺し貫き、腹を斬って臓物をぶちまけさせろ。
剣を有効に使えないのなら、裏の暗殺者組合(アサシンギルド)を紹介するぞ。お前なら、裏の世界でも一人前になれるだろうさ。
ただし、表の道に戻る事は出来んだろうがな」
表の世界との決別。
それは、自動的に冒険者の道を諦め、フェルズへの帰還も諦める事になる。
そんな事の為にフェルズを離れた訳ではない。
「……それは、遠慮させて下さい」
ゼンは、少し青い顔をして、ラザンの提案を断る。
「おう。なら、その癖を直せ。旅の間に矯正するぞ」
ラザンは鷹揚に頷き、宣言する。
「はい、分かりました、師匠!」
暗殺者組合(アサシンギルド)に放り込まれでもしたら、折角の修行の旅が台無しになる。
ゼンの返事は切実だった……。
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オマケ劇場
ミ「……ミンシャの出番、まだですの?」
リ「まだですよ!ある程度、主様がお強くなってからでしょうに」
ミ「待ち切れないですの!ようやく来た、ミンシャとご主人様の運命の出会いの日!
それが実況中継されるんですの!」
リ「………別に、中継じゃないと思いますけど」
ル「るーはぁ?るーは、まだぁ?お?」
リ「はいはいルフは結構、旅の後の方ですよ」
セ「……なんだか緊張して来ました。ボクの時だけ端折ってくれないかな……」
ゾ「珍しい事、言ってるな。あの二人にどやされるぞ?」
ボ「懐かしいね嬉しいね。ゼン様と出会った時の話、するなんて」
ガ「……同意」
ゾ「俺は、一番後だから気楽だな。……しかし、全員分、やるのかね。
一人一話でも、7人いるんだぜ」
セ「随分長くかかりそうですよね。だから、ボクに分は…」
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