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第十六話
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「村長がな、おまえに会いたいと言っている」
「それは前にも言ったろう。俺は遠慮する」
この先どうするか?
この問いの答えを持たない俺が、村に住むために村長に会ってはおかしなことになる。
何度言われても、現状では答えは同じだ。
「いや、な。そうじゃないんだ。この前、あれを仕留めただろう」
「あれ?」
「奴だ、黒い怪物熊。その活躍を聞いてな、ウッド、おまえに会いたいと言っている」
あまりいい予感はしなかった。
俺がジャックと共に熊を倒した話を聞いて、会いたいと言う。
ならばそこには、『なにか同じ種類の面倒事がある』、そう考えるのが自然に思えたからだ。
まさかこんな村で、勲章の授与でもあるまい。
「いったい俺に何の用だ? 俺はシャーウッド村の一員じゃないんだ。来いと言われたからって、『はいそうですか』とお伺いする義理はない」
「まあそうなんだが、行ってみないか? 村に行けば、酒もあるぞ。そうだ、一回くらい俺と酒に付き合ってくれてもいいだろう? ジャニスに酌でもさせよう。なんなら別の女を呼んでもいい。どんな女がタイプだ?」
「酒も女も必要ない」
「つれないことを言うなよ。俺がこうして頭を下げてるんだ。頼む。な、ついでに泊まっていけよ。ジャニスが喜ぶぞ」
ジャックは俺の『何の用だ』について、答えるのを避けたように思えた。
それに答えずに、酒だの女だのと話の筋をそらしている。
どうやら面倒事らしいという俺の予感、やはり当たっているのだろう。
ジャックとジャニスのためならばいい、純粋にそれだけの用件ならいいのだ。
二人には世話になっている。
そうでないなら俺は、正直言って関わりたくなかった。
「一人の方がよく寝られる性質だ。悪いが遠慮させてもらう」
それでもしばらく、『ジャニスの夕飯が食えるぞ』、『いついつに行商人が来るから、剣や槍もあるかも知れないぞ』などと食い下がられた。
それでも俺の答えは同じだ。
ある日、ジャックは用があるとのことで、まだ陽が頂点に至らぬうち、一人で先に山を下りて帰った。
残ったジャニスは、ある果実を欲しがった。
食べるため、ではない。
それ自体は美味そうな赤みがかった色で、甘い匂いも漂う。
だが、鳥がそれをついばむこと決してない。
やはり人が食べても食あたりすることがあるというから、毒があるのだ。
では、そんなものを採ってどうするのか?
その目的は染付けだった。
それを桶に入れ、踏み潰した汁に浸けてやると、綺麗なグレーの色がつくらしい。
ちょうど今、彼女が着ているのがそれで染めたものだということだった。
もっと華やかな色や明るいが似合うと思うのだが、それはそれで問題があるらしい。
「鮮やかに染めると綺麗だけど、一瞬だけ。結局は汚れが目立ってダメなのよ」
ジャニスはそう俺に答えた。
小さな実を指でつまみ取り、籠に入れていく。
村の連中に分けてやる分もあるから、量が必要だった。
小さい実を摘み取るというのは、なんとういうか、ちまちました作業だ。
例によって、俺の得意ではない。
いくらもしないうち、はやくも飽きがきていた。
そんな俺には同じ時間でも、真面目なジャニスの半分くらいの作業量しかない。
ジャニスは俺とは対照的に、歌を口ずさみつつ、それに合わせるようにテンポよく摘み取っている。
彼女の歌声は、俺には好ましい。
城で吟遊詩人が歌い上げる大袈裟な英雄物語などより、よほど心地良く響く。
ジャニスは背丈より少し高い枝になる実を、上半身をすっくと伸ばして摘み取る。
腕を上げたその姿勢と腰紐の絞りもあり、うしろから盗み見ると身体の線がはっきりとわかる。
片手で寄せて抱いたなら、ちょうど良く思えた。
「いまどのくらい?」
急に振り向かれ、慌てて籠と顔を後ろへと下げた。
「ねえ、サボってるの?」
「それは前にも言ったろう。俺は遠慮する」
この先どうするか?
この問いの答えを持たない俺が、村に住むために村長に会ってはおかしなことになる。
何度言われても、現状では答えは同じだ。
「いや、な。そうじゃないんだ。この前、あれを仕留めただろう」
「あれ?」
「奴だ、黒い怪物熊。その活躍を聞いてな、ウッド、おまえに会いたいと言っている」
あまりいい予感はしなかった。
俺がジャックと共に熊を倒した話を聞いて、会いたいと言う。
ならばそこには、『なにか同じ種類の面倒事がある』、そう考えるのが自然に思えたからだ。
まさかこんな村で、勲章の授与でもあるまい。
「いったい俺に何の用だ? 俺はシャーウッド村の一員じゃないんだ。来いと言われたからって、『はいそうですか』とお伺いする義理はない」
「まあそうなんだが、行ってみないか? 村に行けば、酒もあるぞ。そうだ、一回くらい俺と酒に付き合ってくれてもいいだろう? ジャニスに酌でもさせよう。なんなら別の女を呼んでもいい。どんな女がタイプだ?」
「酒も女も必要ない」
「つれないことを言うなよ。俺がこうして頭を下げてるんだ。頼む。な、ついでに泊まっていけよ。ジャニスが喜ぶぞ」
ジャックは俺の『何の用だ』について、答えるのを避けたように思えた。
それに答えずに、酒だの女だのと話の筋をそらしている。
どうやら面倒事らしいという俺の予感、やはり当たっているのだろう。
ジャックとジャニスのためならばいい、純粋にそれだけの用件ならいいのだ。
二人には世話になっている。
そうでないなら俺は、正直言って関わりたくなかった。
「一人の方がよく寝られる性質だ。悪いが遠慮させてもらう」
それでもしばらく、『ジャニスの夕飯が食えるぞ』、『いついつに行商人が来るから、剣や槍もあるかも知れないぞ』などと食い下がられた。
それでも俺の答えは同じだ。
ある日、ジャックは用があるとのことで、まだ陽が頂点に至らぬうち、一人で先に山を下りて帰った。
残ったジャニスは、ある果実を欲しがった。
食べるため、ではない。
それ自体は美味そうな赤みがかった色で、甘い匂いも漂う。
だが、鳥がそれをついばむこと決してない。
やはり人が食べても食あたりすることがあるというから、毒があるのだ。
では、そんなものを採ってどうするのか?
その目的は染付けだった。
それを桶に入れ、踏み潰した汁に浸けてやると、綺麗なグレーの色がつくらしい。
ちょうど今、彼女が着ているのがそれで染めたものだということだった。
もっと華やかな色や明るいが似合うと思うのだが、それはそれで問題があるらしい。
「鮮やかに染めると綺麗だけど、一瞬だけ。結局は汚れが目立ってダメなのよ」
ジャニスはそう俺に答えた。
小さな実を指でつまみ取り、籠に入れていく。
村の連中に分けてやる分もあるから、量が必要だった。
小さい実を摘み取るというのは、なんとういうか、ちまちました作業だ。
例によって、俺の得意ではない。
いくらもしないうち、はやくも飽きがきていた。
そんな俺には同じ時間でも、真面目なジャニスの半分くらいの作業量しかない。
ジャニスは俺とは対照的に、歌を口ずさみつつ、それに合わせるようにテンポよく摘み取っている。
彼女の歌声は、俺には好ましい。
城で吟遊詩人が歌い上げる大袈裟な英雄物語などより、よほど心地良く響く。
ジャニスは背丈より少し高い枝になる実を、上半身をすっくと伸ばして摘み取る。
腕を上げたその姿勢と腰紐の絞りもあり、うしろから盗み見ると身体の線がはっきりとわかる。
片手で寄せて抱いたなら、ちょうど良く思えた。
「いまどのくらい?」
急に振り向かれ、慌てて籠と顔を後ろへと下げた。
「ねえ、サボってるの?」
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