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第十八話
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ジャニスは確信犯で、疑いようもなく意図的だった。
男の家で裸になって服を乾かす。
これほど明確な意思表示はない。
今日だけでなく、最近のジャニスは露骨に思えることがあった。
ジャニスと俺は接する機会も多い。
出会いからして、危ないところを守ったカタチになっている。
好意を持たれるのは理解できるし、俺だって悪い気はしない。
出会った頃とちがって、単純な欲でいえば、いますぐに行って手を出したい。
しかし……
村人になるつもりはない、少なくとも今は。
その気はあっても、手を出しにくい。
ジャックがさんざん『村に来い』と言うのを断っている俺なのだ。
「男の家でそんなことをして、ジャックに怒られるぞ」
「フフッ、おかしいこと言うのね。兄さんなんて、どこにいるの?」
逃げの一言は一笑に付された。
「村からじゃこの小屋のことは見えないし、誰にも知られないわよ。知りようもないでしょう。私かウッドが、わざわざ教えればべつだけど」
「遅くなると怒られる」
「……すごい雨の音ね。世界がここだけ、隠してるみたい」
屋根を叩く雨音は、段々と大きくなっていた。
それなのに二人の会話は成立している。
座り込んだままの俺に、ジャニスから近づいてきているからだ。
振り向かずとも、湿りを帯びた体温が感じられた。
「ねえ、外では村に帰る道なんて川になってるわ。泊まってくれたほうが安全だって、兄も思うんじゃなくて?」
——別の意味では危ないと思うが……——
真後ろで、床が軋み、俺は唾を飲んだ。
雨音がうるさいはずなのに、なぜかその音がジャニスに聞こえてしまうような気がした。
やがて背中にぬくみが触れ、温かくしっとりした重みが背中にぴたっと張り付く。
湿った息を首筋に感じた。
「あったかい、背中」
「着ればいい」
「濡れてるもの」
そのまま時間が過ぎて行く。
それが長いのか、短いのか、よくわからない。
止まったままだったジャニスが動いた。
両腕が伸びて、俺を包み込んだ。
指先で俺をなぞる。
頭から額へ、額から左目。
眉を何度かこするようにして、それは鼻筋へと落ちて行く。
唇に触れ、差し込み、指で挟む。
もう限界だった。
ここまでされて止めるなどできない。
悪戯する指先を引き込み、ジャニスを引き寄せる。
そのまま唇を奪った。
何度も何度も、何度も。
ついには床へと押し倒して、見つめ合う。
「やっと一緒になれるのね」
「ああ」
「ね、二人で暮らしましょう」
「ああ」
「いまなら空いてるの、いい場所が」
——村で、か——
しぜんと手が止まった。
「どうしたの?」
「村には行かない」
「でも一緒にって」
「ここで、だ」
追手の危険については、じつのところ、ほとんど無いように思う。
だが、それでも……
余所者がいきなりやって来て、村の女を奪う。
俺が村へ行けば、村の連中はそう見るだろう。
そんなことを誰もが心良く思うはずがない。
そうなれば悪意が生まれる。
それとて俺だけが悪し様に言われるだけなら、一向に構わない。
だが、それだけでは済まないだろう。
年頃のジャニスだ。
彼女へ想いを寄せる男も、村にはきっといるだろう。
はじめは小娘だと馬鹿にしていた俺でも、結局はこうして押し倒している。
それに懸念は男だけではない。
小さな村だ。
見知らぬ流れ者を自分たちの村へと連れてくるジャニスを、はしたない女だと嫌う女や年寄りもいるはずだ。
「ねえ、何を考えてるの?」
——俺は、どうすればいい?
このままここにいるべきなのか?
国へ戻ることを目指すべきなのか?
誘いに応じて、村へ行くべきなのか?——
ジャックとジャニスに世話になった。
いったい何を返すべきなのだろうか?
このまま抱けば、いつか傷つけることに、裏切ることに、後悔させることになる。
そんな気がした。
そのとき、背中に冷たいものが垂れた。
男の家で裸になって服を乾かす。
これほど明確な意思表示はない。
今日だけでなく、最近のジャニスは露骨に思えることがあった。
ジャニスと俺は接する機会も多い。
出会いからして、危ないところを守ったカタチになっている。
好意を持たれるのは理解できるし、俺だって悪い気はしない。
出会った頃とちがって、単純な欲でいえば、いますぐに行って手を出したい。
しかし……
村人になるつもりはない、少なくとも今は。
その気はあっても、手を出しにくい。
ジャックがさんざん『村に来い』と言うのを断っている俺なのだ。
「男の家でそんなことをして、ジャックに怒られるぞ」
「フフッ、おかしいこと言うのね。兄さんなんて、どこにいるの?」
逃げの一言は一笑に付された。
「村からじゃこの小屋のことは見えないし、誰にも知られないわよ。知りようもないでしょう。私かウッドが、わざわざ教えればべつだけど」
「遅くなると怒られる」
「……すごい雨の音ね。世界がここだけ、隠してるみたい」
屋根を叩く雨音は、段々と大きくなっていた。
それなのに二人の会話は成立している。
座り込んだままの俺に、ジャニスから近づいてきているからだ。
振り向かずとも、湿りを帯びた体温が感じられた。
「ねえ、外では村に帰る道なんて川になってるわ。泊まってくれたほうが安全だって、兄も思うんじゃなくて?」
——別の意味では危ないと思うが……——
真後ろで、床が軋み、俺は唾を飲んだ。
雨音がうるさいはずなのに、なぜかその音がジャニスに聞こえてしまうような気がした。
やがて背中にぬくみが触れ、温かくしっとりした重みが背中にぴたっと張り付く。
湿った息を首筋に感じた。
「あったかい、背中」
「着ればいい」
「濡れてるもの」
そのまま時間が過ぎて行く。
それが長いのか、短いのか、よくわからない。
止まったままだったジャニスが動いた。
両腕が伸びて、俺を包み込んだ。
指先で俺をなぞる。
頭から額へ、額から左目。
眉を何度かこするようにして、それは鼻筋へと落ちて行く。
唇に触れ、差し込み、指で挟む。
もう限界だった。
ここまでされて止めるなどできない。
悪戯する指先を引き込み、ジャニスを引き寄せる。
そのまま唇を奪った。
何度も何度も、何度も。
ついには床へと押し倒して、見つめ合う。
「やっと一緒になれるのね」
「ああ」
「ね、二人で暮らしましょう」
「ああ」
「いまなら空いてるの、いい場所が」
——村で、か——
しぜんと手が止まった。
「どうしたの?」
「村には行かない」
「でも一緒にって」
「ここで、だ」
追手の危険については、じつのところ、ほとんど無いように思う。
だが、それでも……
余所者がいきなりやって来て、村の女を奪う。
俺が村へ行けば、村の連中はそう見るだろう。
そんなことを誰もが心良く思うはずがない。
そうなれば悪意が生まれる。
それとて俺だけが悪し様に言われるだけなら、一向に構わない。
だが、それだけでは済まないだろう。
年頃のジャニスだ。
彼女へ想いを寄せる男も、村にはきっといるだろう。
はじめは小娘だと馬鹿にしていた俺でも、結局はこうして押し倒している。
それに懸念は男だけではない。
小さな村だ。
見知らぬ流れ者を自分たちの村へと連れてくるジャニスを、はしたない女だと嫌う女や年寄りもいるはずだ。
「ねえ、何を考えてるの?」
——俺は、どうすればいい?
このままここにいるべきなのか?
国へ戻ることを目指すべきなのか?
誘いに応じて、村へ行くべきなのか?——
ジャックとジャニスに世話になった。
いったい何を返すべきなのだろうか?
このまま抱けば、いつか傷つけることに、裏切ることに、後悔させることになる。
そんな気がした。
そのとき、背中に冷たいものが垂れた。
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