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第三十四話
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ジャニスは染め付けも得意にしているが、そもそも染め付ける前の工程、縫い物も上手だった。
こうして教えたり、難しい部分だけを代行したり、染めも併せてまるっと請け負ったりもしている。
「やっぱり女の子の方が、大人になるのは早いな」
「急にどうしたのよ、何かあった?」
「同じような年頃でも、大違いだって話さ。アリーは習い事にきてるのに、ガキどもは俺の鍛錬を冷やかしに来てるだけだ」
「教えてあげたらいいじゃない。独りでやってたら、小屋にいた頃と同じでしょ」
「遊びで怪我されちゃ困る。そっちみたいに指に針刺すぐらいじゃ済まないんだからな」
「子供だもの、すぐ治るわよ。あなたと違って」
「年寄り扱いかよ、きついな。まあ、親の手伝いをしろと説教したら、すぐ来なくなった。どうせその程度だ」
俺と話をしながらも、ジャニスはゆっくりととアリーに手本を見せている。
もっとも教えられている少女、アリーはといえば、話が気になるのかチラッと俺の方を何度か見てきた。
「縫い物は役に立つ。自分のためにも、嫁にいくにも、な。けど、剣を覚えてもなぁ。剣じゃ畑は耕せないし、草刈りもできない。木を切り倒して薪にするとしても、斧にはかなわない。この村で剣が上達しても、兵士にでも憧れて、あげくに村を捨てて流れ者になるだけだ」
「それは経験談かしら?」
「いや、べつにそういう意味じゃ……
まぁ、結果はそうかもな。俺では否定できんな。結果として村の労働力が減るようなことをしても、歓迎されない。それに、あれだ。腕を上げて将来この村で俺と同じことされても、稼ぎが減るぞ。ジャニスの働きで一生遊ばせてくれるなら、それもいいけどな」
「それは困るわね。そうならないように、アリーと一緒にこれ習ってみる?」
そう言って縫いかけの布切れをあげてみせた。
「あの!」
アリーが急に大きな声を上げた。
「ああ、すまない。邪魔をしたな」
「違うの、そうじゃなくて…… やっぱり、その、教えてもらうことはできないんですか?」
「俺が? アリーにか?」
少女が首を振ると、頭の左右で結んだ髪が揺れた。
——そりゃあそうか。アリーに、じゃないよな——
まだ十代になったばかりだと思われる少女には、兄弟でもいるのかもしれない。
「じゃあ、いったい誰に?」
「ともだちと、よく話してるんです、ウッドさんのこと。外から来て、ジャニス姉さんを手に入れられたのは、強いからだって。強いから魅力があるんだって」
「ふーん、そんなもんかな。そう言われてるらしいぞ、ジャニス」
「調子に乗らないで頂戴。兄さんみたいに浮気でもする気?」
「よせよ、俺はジャックじゃない。してもいない浮気で怒られたら、割りに合わないぜ」
「いまの話だと、私が美人で気立が良くて村中で人気あるって、そういう前提の話だと思うけど?」
「ああ、そうだろうな。ただし、ガキどもに、だろ」
「そんなことないわよ!」
ジャニスは怒ってそっぽを向いてしまった。
言い過ぎた。
あとでフォローしなきゃと覚悟したが、いまはアリーの話が先だろう。
「なあ、アリー。俺は強いことが大事なことだとは、じつは思ってない」
こうして教えたり、難しい部分だけを代行したり、染めも併せてまるっと請け負ったりもしている。
「やっぱり女の子の方が、大人になるのは早いな」
「急にどうしたのよ、何かあった?」
「同じような年頃でも、大違いだって話さ。アリーは習い事にきてるのに、ガキどもは俺の鍛錬を冷やかしに来てるだけだ」
「教えてあげたらいいじゃない。独りでやってたら、小屋にいた頃と同じでしょ」
「遊びで怪我されちゃ困る。そっちみたいに指に針刺すぐらいじゃ済まないんだからな」
「子供だもの、すぐ治るわよ。あなたと違って」
「年寄り扱いかよ、きついな。まあ、親の手伝いをしろと説教したら、すぐ来なくなった。どうせその程度だ」
俺と話をしながらも、ジャニスはゆっくりととアリーに手本を見せている。
もっとも教えられている少女、アリーはといえば、話が気になるのかチラッと俺の方を何度か見てきた。
「縫い物は役に立つ。自分のためにも、嫁にいくにも、な。けど、剣を覚えてもなぁ。剣じゃ畑は耕せないし、草刈りもできない。木を切り倒して薪にするとしても、斧にはかなわない。この村で剣が上達しても、兵士にでも憧れて、あげくに村を捨てて流れ者になるだけだ」
「それは経験談かしら?」
「いや、べつにそういう意味じゃ……
まぁ、結果はそうかもな。俺では否定できんな。結果として村の労働力が減るようなことをしても、歓迎されない。それに、あれだ。腕を上げて将来この村で俺と同じことされても、稼ぎが減るぞ。ジャニスの働きで一生遊ばせてくれるなら、それもいいけどな」
「それは困るわね。そうならないように、アリーと一緒にこれ習ってみる?」
そう言って縫いかけの布切れをあげてみせた。
「あの!」
アリーが急に大きな声を上げた。
「ああ、すまない。邪魔をしたな」
「違うの、そうじゃなくて…… やっぱり、その、教えてもらうことはできないんですか?」
「俺が? アリーにか?」
少女が首を振ると、頭の左右で結んだ髪が揺れた。
——そりゃあそうか。アリーに、じゃないよな——
まだ十代になったばかりだと思われる少女には、兄弟でもいるのかもしれない。
「じゃあ、いったい誰に?」
「ともだちと、よく話してるんです、ウッドさんのこと。外から来て、ジャニス姉さんを手に入れられたのは、強いからだって。強いから魅力があるんだって」
「ふーん、そんなもんかな。そう言われてるらしいぞ、ジャニス」
「調子に乗らないで頂戴。兄さんみたいに浮気でもする気?」
「よせよ、俺はジャックじゃない。してもいない浮気で怒られたら、割りに合わないぜ」
「いまの話だと、私が美人で気立が良くて村中で人気あるって、そういう前提の話だと思うけど?」
「ああ、そうだろうな。ただし、ガキどもに、だろ」
「そんなことないわよ!」
ジャニスは怒ってそっぽを向いてしまった。
言い過ぎた。
あとでフォローしなきゃと覚悟したが、いまはアリーの話が先だろう。
「なあ、アリー。俺は強いことが大事なことだとは、じつは思ってない」
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