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第四十六話
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ここから遠く、海に臨む国、マルセデスという国がある。
そこに伝わる昔話。
『もっとも尊い勇気とは何か?』という話だ。
昔々、あるところに強大な国があった。
いくつもの国を力で従えた、偉大な国であった。
しかし、ある国では一つの問題が持ち上がっていた。
このところ、頻繁に大地が揺れていたのだ。
大きな被害はないものの、『不吉なことが起こる前触れではないか』と噂する者も多く、国中にだんだんと不安が広がりつつあった。
そこで王は万一の不吉に備え、勇者を求めることにした。
「一番の勇者には名誉と富を与える」と、国中に触れを掲げ、勇気ある者を募った。
やがて王の定めた日となり、国一番の勇者を一目見ようと、会場には多くの見物人が集まった。
「では、そなたの勇気を聞かせるがよい」
開会が宣言され、王がそう言うと、一人目の男が舞台に躍り出た。
見るからに筋肉自慢の大男は、自分が海で大クラゲと戦った話をした。
大クラゲは船を襲い、船員を喰らうと恐れられた怪物だ。
嵐の中、揺れる船の甲板で、大波を被りつつも文字通りの死闘。
男は無数の傷を負ったが、ついには敵を討ち果たした。
観客は口々に称え、このものこそ、一番の勇気ある者だろうと言った。
次の者が進み出た。
「では、そなたの勇気を聞かせるがよい」と、ふたたび王が言った。
次に登場した男は、これまた勇猛そうな男だ。
頭から爪先まで、全身を鎧で覆い、二本の大きな剣を腰に刺した男。
なんとこの者、もっとも神に近い存在であるはずのドラゴンを倒したと言うではないか。
果敢にも巣穴へと赴き、ドラゴンが大空を飛べるという強みを消したという。
これによって地を這う四つ足の大トカゲと化した竜を、見事、男は倒すことに成功したそうな。
観客は口々に、勇気に加えて知恵のある猛者だと称えた。
この二人の後では、誰も名乗り出るものはいなかった。
鍛えた者たちであふれていたはずの控えの間も、いつの間にやらもぬけのから。
それも当然だろう。
そんじょそこらの話では、とても先の二人に太刀打ちできそうにないのだ。
見物人たちのあいだでは、
「これ以上は到底無理だ」
「両者が戦って勝った方になるのではないか」
そんな予想がされていた。
しかし、これは国がはじめたこと。
二人しか参加者がいないとあっては、王権に傷がついてしまう。
王に仕える大臣たちは慌てだした。
そこで目につくところにいた兵士を捕まえ、無理矢理に引いて広場へ立たせることにした。
「では、そなたの勇気を聞かせるがよい」
王は三度、そう言った。
広場に引き出された男とは、王の寝所を警護する兵であったが、会場警護のために応援に駆り出されていたのだ。
男は、なかなか話そうとはしない。
それはそうだろう。
誰もが伝説の英雄のような経験をしているはずもない。
兵士は兵士にすぎない。
ましてや王城にて寝室の警護が務めの男だ。
いったいそんなところに、どんな倒すべき魔物や悪党がいるというのか?
危険に満ち、それを打ち破る勇気が必要な冒険譚など、一番安全である王城にあろうはずもない。
しかし、「恐れながら申し上げます」と、彼は話し始めた。
そこに伝わる昔話。
『もっとも尊い勇気とは何か?』という話だ。
昔々、あるところに強大な国があった。
いくつもの国を力で従えた、偉大な国であった。
しかし、ある国では一つの問題が持ち上がっていた。
このところ、頻繁に大地が揺れていたのだ。
大きな被害はないものの、『不吉なことが起こる前触れではないか』と噂する者も多く、国中にだんだんと不安が広がりつつあった。
そこで王は万一の不吉に備え、勇者を求めることにした。
「一番の勇者には名誉と富を与える」と、国中に触れを掲げ、勇気ある者を募った。
やがて王の定めた日となり、国一番の勇者を一目見ようと、会場には多くの見物人が集まった。
「では、そなたの勇気を聞かせるがよい」
開会が宣言され、王がそう言うと、一人目の男が舞台に躍り出た。
見るからに筋肉自慢の大男は、自分が海で大クラゲと戦った話をした。
大クラゲは船を襲い、船員を喰らうと恐れられた怪物だ。
嵐の中、揺れる船の甲板で、大波を被りつつも文字通りの死闘。
男は無数の傷を負ったが、ついには敵を討ち果たした。
観客は口々に称え、このものこそ、一番の勇気ある者だろうと言った。
次の者が進み出た。
「では、そなたの勇気を聞かせるがよい」と、ふたたび王が言った。
次に登場した男は、これまた勇猛そうな男だ。
頭から爪先まで、全身を鎧で覆い、二本の大きな剣を腰に刺した男。
なんとこの者、もっとも神に近い存在であるはずのドラゴンを倒したと言うではないか。
果敢にも巣穴へと赴き、ドラゴンが大空を飛べるという強みを消したという。
これによって地を這う四つ足の大トカゲと化した竜を、見事、男は倒すことに成功したそうな。
観客は口々に、勇気に加えて知恵のある猛者だと称えた。
この二人の後では、誰も名乗り出るものはいなかった。
鍛えた者たちであふれていたはずの控えの間も、いつの間にやらもぬけのから。
それも当然だろう。
そんじょそこらの話では、とても先の二人に太刀打ちできそうにないのだ。
見物人たちのあいだでは、
「これ以上は到底無理だ」
「両者が戦って勝った方になるのではないか」
そんな予想がされていた。
しかし、これは国がはじめたこと。
二人しか参加者がいないとあっては、王権に傷がついてしまう。
王に仕える大臣たちは慌てだした。
そこで目につくところにいた兵士を捕まえ、無理矢理に引いて広場へ立たせることにした。
「では、そなたの勇気を聞かせるがよい」
王は三度、そう言った。
広場に引き出された男とは、王の寝所を警護する兵であったが、会場警護のために応援に駆り出されていたのだ。
男は、なかなか話そうとはしない。
それはそうだろう。
誰もが伝説の英雄のような経験をしているはずもない。
兵士は兵士にすぎない。
ましてや王城にて寝室の警護が務めの男だ。
いったいそんなところに、どんな倒すべき魔物や悪党がいるというのか?
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しかし、「恐れながら申し上げます」と、彼は話し始めた。
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