REBIRTH〜国を追われ、名を捨てて〜

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最終話

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——……まさか、俺に期待しているというのか?——

『信じる者のために生きよ』
 俺は信じるものたちが苦しまぬよう、ここを離れるべきだと決断した。
 しかしそんな俺に、村長は残ることを期待している。

『信じる者のために生きよ』
 俺は間違っていたのかもしれない。
 過去をすべて明かした今、俺は誰かに隠すようなことなど、もうない。
 しかし……

「いや、俺は大国グランリオに無謀な喧嘩を売ろうという身だ」
「喧嘩? 大人と子供では、喧嘩はできんよ。せいぜいが遊びか、じゃれあう程度のこと。対等とは言わぬまでも、それに近い存在でなければ戦いにもならんであろう」
「それは、そうだが……、それに村長の後釜はジャックでは?」
 村長は目を丸くし、呵々と笑い出す。
「存外に、鈍い男だな。以前にも言ったはずだ。『やる気のないものに、やらせる。そのほうが問題だ』とな。肝心なところを勘違いしているようだが、あれはウッド、おまえのことよ。事実として村長になるなど、今の今まで想像したことも無かったようだな」
 あれは、俺の事……
 たしかに俺にはその気も覚悟もなかった。
 そして今も……
「ここから目指せばいい。ここシャーウッドに、おまえの旗を立てろ。そう言っている」
 それはたしかに、いままで一度も想像もしなかったことだ。
——俺が、いまさら王として立つと?——
「俺の個人的な戦いに、村のみんなを巻き込むなど……」
「たしかにそうだ、その通り。それだけでは勝手な話よな。だったらこの村にも、我々の命にも責任を持て。干渉してくるならば、領主を退けよ。苦しむ村がほかにあるなら、ここで我らにおまえがしたように、手を差し伸べてやればいいではないか。
 そもそもだ、その程度のことができないウッドでは、グランリオと喧嘩など笑い話にもならんのではないかな? ましてや勝利など、望むべくもないこと」
「……そんな大事なことは、俺と村長だけで決めることではない。村の者たちには村の者たちの意見もあるだろう。いますぐ答えを出すような話では——」
「——まだ逃げるかッ!」
「……逃げる、だと?」
「ウッドよ、いや、オーウェン。そなたが落ちぶれた理由、田舎住まいの老いぼれでさえもわかるわ。それを今、教えてやろう。
 おぬしに決定的に欠けているもの、それはな、『俺について来い』という姿勢よ。上に立つ者には、必ずそれがなければならん。それを持たぬおまえが転落したは必然。これほどの勝利を得た今日でも負け犬のままなら、もう一生変われん。ならばそのような者に、この村の未来を託すことはできん」
 吐き捨てるように言い放つと、話は終わったとばかりに村長は腰を浮かせた。
 思わず腕が伸び、痩せた肩を押さえて引き止めた。
「待ってくれ! 俺がたてば、皆はついてくると思うか?」
「『思うか?』だと? フッ、それではな」
 思えば俺は、ロデリックが現れてからずっと死についてだけを考えていた。
 死すべき運命から逃れられないと思い、賊と戦い死ぬか、グランリオに喧嘩を売って死ぬかについて思い悩んでいた。
 いや、それだけではない。
 俺以外の人々、ジャニスやジャック、セスや村長、村の住人たちについても、巻き込まぬように、死なせないようにと、そればかりを考えていた。
 だから『どう生きるか』という方へ、未来へ、俺の考えはついぞ向いたことがなかった。

 かつてグランリオで身を引いたときも、そうだ。
 実子が見つかったときから人々を想い、国を割らぬように、血が流れぬようにと、そればかり考えていた。
 考えに考え抜き、これが最良であると身を引くことを決断したはずだった。
 だがその『最後の決断』とは、愚かな自分の思い込みに過ぎなかった。
 はじめから自覚せぬままに、自分が逃げることだけを考えていたのだろう。
 後ろ盾の得られぬ困難な状況の中でも、『どう立ち続けるか』とは、俺は考えていなかった。
 領主兵と村側の緊張が高まり、戦いも止む無しの場面になって、はじめて俺は最後まで立ち続けようとしたのだ。
 責任を引き受けてみんなを生かすため、俺が俺であると宣言したのではなかったか。
 それなのにまた投げ出してここを去るというのは、あきらかに矛盾している。
 今またここを去れば、村長の言うように俺はもう変われないかも……、いや、変われない。
 俺を信じる者たちを裏切り続ける人生になる。
 そんなのはもう、ゴメンだった。
 だいたいジャニスやフィルを連れ出し、俺は何をしようとしていたのか?
 復讐といえば聞こえはいいが、ようは死ぬ場所を探しに行こうとしていただけではないか。
 たった三人で勝利をつかむなど、いまさら村長に言われるまでもなく、無理だと理解していたのではなかったか。

「そろそろ離してくれんか。当てが外れたなら、次を考えねばならん。先の短い老いぼれには、わずかな時間も惜しいんでな」
「……やめておけ。下手な考えは休むに似たりというぞ」
 俺は村長が立つことを許さない。
 そして、代わりに俺が立ち上がった。
「最高の答えは、ここにある。シャーウッドの未来を考えるのは、今から俺の仕事よ」



 数ヶ月後。

 俺は村に残ることになった。
 いや、村を、人々を、率いることになった。
 ジャニスやジャック、フィルやセスと共に。
 ロデリックを討ってから、完全に流れは変わった。
 近隣の集落や村に独立の意思を通達すると、数人がシャーウッドにやって来た。
 それぞれが小さな村や、小規模の集落の代表である。
 話を聞けば、ロデリック率いる賊に、半ば寄生される形で搾取されていたらしいのだ。
 彼らは感謝を述べ、シャーウッドに合流したいという意思を示した。
 彼らの移住は少しずつ、確実に進んでいる。
 ジャニスのときの賊に次いで、ロデリックの撃退。
 これは相当にインパクトのあることらしかった。
 大きな村のいくつかでも、やはり領主の無責任に愛想を尽かしているところがいくつかあり、連携をとることで話ができつつあった。

 村長の言う通り、旗を立てたことで大きく動き出した。
 俺の未来がどこにあるのか?
 それはわからない。
 グランリオまで至るのかどうかもわからない。
 しかし、人々の命を守っていくという、大きな責任が生まれた。
 いつしか身元を明かした俺の元に、生き残っていたかつての配下も戻りつつあった。
 数は多くないが、それぞれが大事な仲間だ。

 そして今日、めでたいことが起きた。
 ジャックとクリスに子供が生まれたのだ。
 そしてさらに、ジャニスと自分の子供まで、もうじき生まれようとしている。
『信じる者のために生きよ』
 いま、それをすべき時だ。

 俺は自分の場所を、自分の力でつかみ、得た。
 ここ、シャーウッドで立つ。
 グランリオのことは、未来の俺が決めることだ。
 いまは放っておけばいい
 ここシャーウッドで生まれた、新しいうねりの中で、俺は俺の人生を生きていく。
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