1 / 2
崩れた日常
しおりを挟む───私が世界で一番不幸な奴だ。
そう思うようになったのは入社して3ヶ月が経った頃かな。
最初に不幸を感じたのは、同期は皆同じ部署に配属になったのに何故か私だけが中年の男性しか居ない部署に配属されたこと。皆同じタイミングで休憩を取れるし話も合う。けど私は業務自体違うし話はついていけないし、会わないで1日終わるなんて時もある。完全に孤立してた。
それから先輩は理不尽極まりない人だった。忙しい週になるとイライラし始めて、私の教育係なので分からない事は聞かなければならないのだけど、態度が凄いことになって聞きに行くのも怖かった。それでいて間違えしまうと怒鳴る、責める、とにかくうるさい。
そんなこんなが毎日続くと人はどんどん崩れていく。家族に愚痴るしかはけ口はなかった。
「今日先輩がさ......」って口にした途端、食事中の両親は顔色をあからさまに変えた。そして、必ず口にする呪文がある。
「どの会社にも嫌な奴は必ずいて、そんな事で根を上げてたら何処いっても上手くいかない。」
分かってる。そんなの自分がよく分かってる。学生の頃、必ずクラスに1人は苦手な人が居たように会社に合わない人なんて1人はいた。
それでも分かって欲しかった、「嫌な奴だなぁ、ムカつくなぁ」って言って欲しかった。多分解決なんて出来ないのは分かってるけど、その場だけでも自分の辛さを埋めて欲しかった。
それがきっと自分の救いになるはずだったんだよ。でも家族はその機会を与えてくれなかった。面倒臭い、我慢しろよ、って言われてるようだった。
───なんか、帰りたいな......何処に?
そのうち、家にいるのに帰りたくなった。ここは自分の家だけど居場所なんてなくて。まるで水中に潜ってるみたいに息が苦しくてもがいてる感じだった。
家に居場所がなくなると今度は自分の彼にも当たるようになった。
仕事終わりに食事しにいく、その度に私は彼に愚痴ってしまう。そして、彼の職場の環境と比較して羨んで当たってしまう。
「辛いのは分かるけど、そんな事言われても俺は何もしてあげられないよ。辞めるしか......」
「そんな事言って欲しいんじゃない!!なんで分かってくれないの!?」
このやりとり何回目?って感じだった。
理不尽な事で怒ってる私が1番悪い。それはいつも分かってた。
助けて欲しい、あの家から連れ出して欲しい。職場からも......。虚しいし何言ってんだ、って事を思ってるのにいつも内心訴えてた。分かってもらえるわけないのに。
数ヶ月後、彼からのメールで距離を置きたい。会うのがしんどくなったって連絡が来た。終わった......って思った。
高校の頃からの付き合いで、何でも一緒にやって来て、離れたことなんかなかったのに、彼はいつも私を思って言葉を掛けてくれていたのに、私は自分を優先して身勝手な言い分で責め立てた。当然の結果だ。
肺に水が溜まる。もう息も出来ない。
彼を失えば私は本当に終わる。でも嫌だなんて言えない。だから、震える手で分かったよ、ごめんねと打ち送信した。
完全に海の底に沈んだ状態だった。何も聴こえない。何も見えない。まだ19年しか生きていないのに、まるで世界の終わりに直面したみたいな絶望感だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる