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第1話
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*
時は一九三七年のころになるのだが、そのころから《妄想具現症》なる病は存在していたらしい。
《妄想具現症》を発症する患者に共通する症状は思考、行動、感情がまとまらなくなってしまうことであり、それは大脳の疲弊によって妄想が具現化するという病である。
妄想の具現化――それは《妄想具現症》の患者にしか見えない幻のヴィジョンであったり、幻の音だったりが聞こえてしまうことである……そんな病を僕は持っていた、らしい。
その病に対して僕は認めたくなかった。
そう、そんな妄想が具現化するような病を持っていたとしても、僕には信じていたい、なにかがあったのだ。
僕には妹がいた、ような気がする。
僕――神憑武尊には、たったひとりの妹である神憑桜舞が確かに存在していたんだ。
*
《妄想具現症》を発症したことが原因で、一年間まともに高校に通うことができなかった僕は留年して、もう一度、伝播町の高校であるI県立伝播高等学校に通い始めたのだった。
「見てください、兄さん。きれいな桜吹雪ですよ」
「おっ、そうだな」
「これから新しい学校生活が始まるんです。あんなことがありましたけど、元気出していきましょう、兄さん」
「ああ」
「悩んでいる暇なんかありませんよ。この、神憑桜舞が兄さんのサポートをするんですからね」
「ありがとう、桜舞。でも、僕は、そのうち中退するかもしれない。ちゃんと登校できるか、わからないんだ」
「いいえ、桜舞がいる限り、そんなことはありえません。ちゃんと最後まで学校生活を送ってもらいますよ」
「……だから――」と彼女は決意を僕に向ける。
「――兄さん」
「んっ?」
「一緒に、がんばりましょうね」
彼女の桜を思わせる桃色の髪が風になびく。
さくらんぼを思わせるような赤い眼は、なんだか僕をいけない気分にさせる。
「……ああ」
いけない気分になんてなっていない。
これから僕は前に進まなければいけないのだから。
*
病は気から、と言うが、僕が発症した《妄想具現症》なる病は、そんな気の持ちようでどうにかなるレベルではなかった。
僕が認識している、この日常が全部うそっぱちであるなんて思いたくないからだ。
病の進行は、すでに始まっていた。
僕の現実が、ほかの人にとって現実じゃないのは、もう、すでに確定していたのだから。
これは僕の妄想が具現化した《彼女》との《存在しない物語》である。
時は一九三七年のころになるのだが、そのころから《妄想具現症》なる病は存在していたらしい。
《妄想具現症》を発症する患者に共通する症状は思考、行動、感情がまとまらなくなってしまうことであり、それは大脳の疲弊によって妄想が具現化するという病である。
妄想の具現化――それは《妄想具現症》の患者にしか見えない幻のヴィジョンであったり、幻の音だったりが聞こえてしまうことである……そんな病を僕は持っていた、らしい。
その病に対して僕は認めたくなかった。
そう、そんな妄想が具現化するような病を持っていたとしても、僕には信じていたい、なにかがあったのだ。
僕には妹がいた、ような気がする。
僕――神憑武尊には、たったひとりの妹である神憑桜舞が確かに存在していたんだ。
*
《妄想具現症》を発症したことが原因で、一年間まともに高校に通うことができなかった僕は留年して、もう一度、伝播町の高校であるI県立伝播高等学校に通い始めたのだった。
「見てください、兄さん。きれいな桜吹雪ですよ」
「おっ、そうだな」
「これから新しい学校生活が始まるんです。あんなことがありましたけど、元気出していきましょう、兄さん」
「ああ」
「悩んでいる暇なんかありませんよ。この、神憑桜舞が兄さんのサポートをするんですからね」
「ありがとう、桜舞。でも、僕は、そのうち中退するかもしれない。ちゃんと登校できるか、わからないんだ」
「いいえ、桜舞がいる限り、そんなことはありえません。ちゃんと最後まで学校生活を送ってもらいますよ」
「……だから――」と彼女は決意を僕に向ける。
「――兄さん」
「んっ?」
「一緒に、がんばりましょうね」
彼女の桜を思わせる桃色の髪が風になびく。
さくらんぼを思わせるような赤い眼は、なんだか僕をいけない気分にさせる。
「……ああ」
いけない気分になんてなっていない。
これから僕は前に進まなければいけないのだから。
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病は気から、と言うが、僕が発症した《妄想具現症》なる病は、そんな気の持ちようでどうにかなるレベルではなかった。
僕が認識している、この日常が全部うそっぱちであるなんて思いたくないからだ。
病の進行は、すでに始まっていた。
僕の現実が、ほかの人にとって現実じゃないのは、もう、すでに確定していたのだから。
これは僕の妄想が具現化した《彼女》との《存在しない物語》である。
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