異世界からきた青年医師に恋した剣士が こじらせ片想いを成就させるまで     【恋煩い編】

素麺えす

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第7章 −剣士の右眼の秘密−

㊾右眼と怒りの感情

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 ロティルは正常な体勢でベッドに横になり、目には濡れたタオルが乗せられている。白衣姿のカヤミはロティルの右側へまわり、椅子に腰掛けながら腕の消毒等をしていた。

「⋯⋯前にさ、カヤミには必ず話すって約束したから。全部は、まだ話せないけど⋯⋯」
「うん⋯⋯いいよ。大丈夫」

 現在、体調不良の元になっているエメラルドグリーンの色をした右眼についてロティルが説明を始める。

「イラついたり、腹が立ったりするようなことがあると、右眼が疼いて⋯⋯それで怒りの感情が上手く制御出来なくなることがある⋯⋯たまに、だけど」
「怒りっぽい⋯⋯ってこと? ロティルが? あんまり想像できないな⋯⋯」
「子供の頃は大したことなかったんだけど、逆に大人になるにつれて抑えるのがキツく⋯⋯年々酷くなってさ⋯⋯生活に支障が出るような問題も起きた」
「⋯⋯あんまり力 入れないで。傷に良くない」

 ロティルが拳に力を込めると、カヤミがなだめるように、それを解かせた。

「どうしたらいいか、ずっと悩んでた。何でもいいからすがりたかったのか、たまたま話した占い師から『青い色が良い』って言われて⋯⋯」
「青?」

 ロティルが空いていた方の手で、自分の耳にしているピアスを指差す。

「このラピスの石のピアス、それがきっかけで付け始めたんだ。気休めかもしれないけど、その当時は ちょっと改善したように思えた」
「ラピスって幸運の石だって聞いたことある。へぇ⋯⋯これに、そんな理由があったのか」

 カヤミの指先がピアスと耳に触れると、視覚を遮られているロティルは驚き、思わず声を漏らして焦り出す。

「あっ⋯⋯  ちょっ⋯⋯いきなり触られると、びっくりするから⋯⋯!」
「あぁ、そっか。今 見えてないんだっけ。フフッ⋯⋯ごめんな」

 そのやり取りで聞こえてきたカヤミの笑い声が、耳と胸の奥に じんわり沁みて、ロティルを何とも心地良い気分にする。


笑った声 久しぶりに聞いた⋯⋯


「右眼の状態がここまで酷くなったのは、ここ数日で。前はあった目の青い色が段々薄くなっていったのは、1カ月前くらいかな⋯⋯カヤミと あんまり話さなくなってから⋯⋯」
「あの青い色と⋯⋯俺が、関係あるの?」

 ロティルは、カヤミと出会って関わりを持つようになってから右眼の症状が良い方へ変化してきたことを話した。
 以前のように、右眼が疼いてひどく怒りが収まらないことは起こらなくなり、嫌なことがあっても側にいてもらえると、それが溶かされるように消えて穏やかな気持ちになる。 

「一緒に居ると楽しいとか、落ち着くとか。居心地の良さも、もちろんあるとは思うよ⋯⋯けど、それだけじゃなくて」

 恋をしている相手でもあるから⋯⋯そんな心理的な癒しか何かだとロティルは思っていた。
 今回、いつもと違ったところは、カヤミと完全に離れていた日数の多さ。多少 話をする日もあったが、それだけでは効果はなかったようだ。
 
 前はあって、今回1カ月近くしなかった事⋯⋯

「手とか身体に⋯⋯触れるのが関係あるのかなって⋯⋯」
「触れる⋯⋯」
「前回の長期の旅でも、ほぼ1か月いなかったけど⋯⋯割と色んな場所で接触は あったでしょ⋯⋯少なくとも今よりは」
「⋯⋯まぁな」

 診察から始まり、看病、森の中での やり取り、抱擁、腕まくらでの添い寝等々、細かく挙げるとキリがない。そして口づけと、ロティルしか知らない秘め事⋯⋯

「上手く説明出来ないけど、中から悪いモノを浄化してもらってる感じで。こんなの⋯⋯信じられないか⋯⋯」

 ロティルも自信はない。しかし、実際そう感じる出来事は何度もあった。
 今までなら感情的になってカヤミの手を振り払うなど、あり得なかった。きっと悪化した故の行動で、放っておけば、恐らく これからも状態は悪くなっていく。


いくら俺が効果を感じると言ったところで
こんなの 理解出来るわけない⋯⋯意味わかんないよな


「信じるよ」
「! ⋯⋯本当に?」

 カヤミの口から信じるという言葉が出たことにロティルは、ただただ驚いてしまう。カヤミの反応は意外なもので⋯⋯

「いや⋯⋯タッチセラピーに近いのかな、とは思った」
「⋯⋯? 何それ⋯⋯?」
「え~と⋯⋯簡単に言うと、身体に優しく触れたり撫でたりすることで、痛みとか 嫌な気持ちや不安を和らげて、身体の調子が良くなったり心が落ち着いたりする⋯⋯っていうやつ」
「魔法⋯⋯みたい」

 カヤミの言う知らない用語、癒しの方法。それに対してロティルは子どものような感想を述べる。

「親が子ども にするのだって同じことだよ。頭撫でたり抱きしめたり、抱っこ だって。
確か、幸せや愛情を感じる物質が脳から出るとかいう」
「愛情⋯⋯」


愛情が込められてたら  それは嬉しい
あ⋯⋯でも親愛も愛情か
この間  気づいたばかりなのに


「今言ったの、カヤミが よくしてた事ばっかりだ」
「⋯⋯全然覚えてないけど、小さい頃にしてもらってたのかな」

 ロティルの耳に入ってきたカヤミの声は若干寂しそうな気がした。辛い過去の話はするが、そういう話は聞かせてもらったことがない。

 カヤミに対して自分には何が出来るかと考えていたのに、それどころかこんな有り様で、逆にまた世話をかけている。情けなくなると自分にも怒りの感情が湧いてきて⋯⋯右眼にズキンと鋭痛がくる。

「つ⋯⋯っ」
「痛む?」
「⋯⋯うん⋯⋯でも帰ってきた時より楽かもしれない。痛み止めも全然効かなかったのに」
「⋯⋯早く、言えばいいのに」
「だって⋯⋯  最近は⋯⋯ 」

 腕の包帯を巻き終えたカヤミがロティルの手を握った。

「それ は それ。 これ は これ⋯⋯関係ないよ。
俺にそんな能力があるとも思えないけど、ロティルが効果があって必要だって言うなら協力する」
「⋯⋯っ そう言ってもらえるなら⋯⋯」
「こうやって、手 握ってればいいか?」
「うん⋯⋯ ありがとう」

 ロティルから、その手が優しく握り返された。それを見つめながら、カヤミが小さな声で呟く。

「⋯⋯⋯⋯俺から⋯⋯離れ過ぎなんだよ」
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