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第8章 −2年前・騎士時代−
54 好きな人を自宅へ
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「ものすごい数だな⋯⋯! 棚が全部埋まってる」
「これでも厳選してるんだけどね」
到着して早々、瞳を輝かせ薬草に興味津々なカヤミの様子を見て、家に呼ぶことが出来て良かったとロティルは心底思う。
海辺の町から徒歩で約1時間はかかる町にあるロティルの自宅。約束をして2日後、早速カヤミを連れて来た。
「よく見るのは治療院にいっぱいあるから置いてない。知らないのが大半だと思うよ。自由に見ていいから」
「へぇ⋯⋯」
中身が何か問いかけながら棚の一番上の容器に手を伸ばしたカヤミだが、爪がギリギリ触れるのみで取ることが できない。爪先で立ち背伸びをして、じれったそうに白い指先を蓋に引っ掛けようとする。
「これ?」
「あ」
さり気なくロティルが背後からカヤミの肩に手をやり、いとも簡単に容器を取ると手渡した。
「はい」
「! ありがと⋯⋯」
「これはユコンていう植物の仲間で、前に二日酔い対策で薬を⋯⋯ まぁ、それは 今は いいか⋯⋯」
ロティルは言葉を濁すと肩に触れていた手をパッと離す。忘れようにも忘れられない自分の中にだけ留めている秘め事は、定期的に脳裏をよぎる。
カヤミは、取ってもらったという行為に感謝と⋯⋯恥ずかしさ、そんな感情が混在した表情をしていた。予想以上に耳に近い距離で、不意に聞こえたロティルの声に顔が熱くなっていたためだ。
「ホントに薬草ばっかり。あと数えられるくらいの家具って⋯⋯生活感全くないのな」
「寝る為か着替え取りにくるだけだし⋯⋯宿屋を使うか治療院にいる事の方が多いから。一応ここの管理を頼んでる人はいる」
大きく場所を取る薬草の棚。シーツの整えられた小綺麗なベッド、書き物をする為の机と椅子、タンス。大きな物はそれぐらいしかないが、滞在が少ないので特に困ることもない。金銭や細かい貴重品はまとめて治療院の部屋に保管している。
「ロティルは、昔から、ここで暮らしてるのか?」
「この町には ずっといるけど⋯⋯ここは、城を辞めてから住み始めた俺個人の家で。家族で暮らしてた建物は、もう残ってない。城の宿舎に入って俺は家を出て⋯⋯その後、両親も亡くなったから」
「そっか⋯⋯ 2年くらい経つんだっけ⋯⋯?」
薬草の容器を顔の近くで持ち上げ、中身の底の方を観察しながらカヤミが尋ねるが、側にいるロティルからは返答がない。代わりに再び肩に触れられる。少し振り返ったカヤミが見上げた その顔は不安げで、俯きながら静かな口調で伝えてきた。
「カヤミ⋯⋯勉強する前にさ、話 聞いてもらっても
いい⋯⋯?」
「⋯⋯ ん、いいよ」
肩に置かれた手に、大丈夫 と でも言うように自分の手を重ねるとカヤミは薄く微笑む。改まって言うロティルの声と表情で、話の見当は おおよそ ついているようだった。
ロティルは、それなりの良い家柄に生まれ、適正年齢には普通の学び舎に通っていた。薬草についての授業が特に好きで、基礎はこの頃身についている。
護身術として父から軽く習った剣術を独学で磨き、13歳で簡単な魔獣討伐をこなせる程度にまでなっていた。
そんな少年がいると噂を聞いた城の関係者に将来を有望視され、是非に と兵学校へ入ったのが15歳。その後、勧められた士官学校へは進学せず、18歳で兵士になる。他を圧倒する腕前と討伐回数ですぐに騎士へ昇格。この時には既に家を出ていて宿舎にて生活をしていた。
「相手の動きが何となく、ゆっくりに見える時がある」
「ロティルは動体視力がいいのかもしれないな⋯⋯」
「おかしな右眼のせいだ って言われてたけどね」
「⋯⋯そういうのって、周りが言うのか⋯⋯?」
椅子に座るカヤミが、ベッドに腰掛けているロティルへ不機嫌そうな声で問いかける。
過去の話とはいえ、陰口を叩いていた人間に対して腹を立てているらしい。ロティルは、それだけでも救われる思いがして、若干の笑みを見せた。
「まぁ出どころは毎回同じ。俺を鬱陶しく思ってた人もいるから⋯⋯ でも、いいヤツらの方が多かったし騎士時代も楽しくやってたよ」
「全員と気が合うなんて不可能だろ⋯⋯」
机に頬杖をついて、カヤミは口をとがらせる。
「うん⋯⋯ 右眼もさ、今みたいな状態じゃなかった。イラついた時に ほんの一瞬チクッとするくらいで⋯⋯特に問題なかったんだけど
2年前 ⋯⋯あの日から急に」
「⋯⋯城を辞めた時か?」
「俺が、仲間を ──人を斬った日」
「これでも厳選してるんだけどね」
到着して早々、瞳を輝かせ薬草に興味津々なカヤミの様子を見て、家に呼ぶことが出来て良かったとロティルは心底思う。
海辺の町から徒歩で約1時間はかかる町にあるロティルの自宅。約束をして2日後、早速カヤミを連れて来た。
「よく見るのは治療院にいっぱいあるから置いてない。知らないのが大半だと思うよ。自由に見ていいから」
「へぇ⋯⋯」
中身が何か問いかけながら棚の一番上の容器に手を伸ばしたカヤミだが、爪がギリギリ触れるのみで取ることが できない。爪先で立ち背伸びをして、じれったそうに白い指先を蓋に引っ掛けようとする。
「これ?」
「あ」
さり気なくロティルが背後からカヤミの肩に手をやり、いとも簡単に容器を取ると手渡した。
「はい」
「! ありがと⋯⋯」
「これはユコンていう植物の仲間で、前に二日酔い対策で薬を⋯⋯ まぁ、それは 今は いいか⋯⋯」
ロティルは言葉を濁すと肩に触れていた手をパッと離す。忘れようにも忘れられない自分の中にだけ留めている秘め事は、定期的に脳裏をよぎる。
カヤミは、取ってもらったという行為に感謝と⋯⋯恥ずかしさ、そんな感情が混在した表情をしていた。予想以上に耳に近い距離で、不意に聞こえたロティルの声に顔が熱くなっていたためだ。
「ホントに薬草ばっかり。あと数えられるくらいの家具って⋯⋯生活感全くないのな」
「寝る為か着替え取りにくるだけだし⋯⋯宿屋を使うか治療院にいる事の方が多いから。一応ここの管理を頼んでる人はいる」
大きく場所を取る薬草の棚。シーツの整えられた小綺麗なベッド、書き物をする為の机と椅子、タンス。大きな物はそれぐらいしかないが、滞在が少ないので特に困ることもない。金銭や細かい貴重品はまとめて治療院の部屋に保管している。
「ロティルは、昔から、ここで暮らしてるのか?」
「この町には ずっといるけど⋯⋯ここは、城を辞めてから住み始めた俺個人の家で。家族で暮らしてた建物は、もう残ってない。城の宿舎に入って俺は家を出て⋯⋯その後、両親も亡くなったから」
「そっか⋯⋯ 2年くらい経つんだっけ⋯⋯?」
薬草の容器を顔の近くで持ち上げ、中身の底の方を観察しながらカヤミが尋ねるが、側にいるロティルからは返答がない。代わりに再び肩に触れられる。少し振り返ったカヤミが見上げた その顔は不安げで、俯きながら静かな口調で伝えてきた。
「カヤミ⋯⋯勉強する前にさ、話 聞いてもらっても
いい⋯⋯?」
「⋯⋯ ん、いいよ」
肩に置かれた手に、大丈夫 と でも言うように自分の手を重ねるとカヤミは薄く微笑む。改まって言うロティルの声と表情で、話の見当は おおよそ ついているようだった。
ロティルは、それなりの良い家柄に生まれ、適正年齢には普通の学び舎に通っていた。薬草についての授業が特に好きで、基礎はこの頃身についている。
護身術として父から軽く習った剣術を独学で磨き、13歳で簡単な魔獣討伐をこなせる程度にまでなっていた。
そんな少年がいると噂を聞いた城の関係者に将来を有望視され、是非に と兵学校へ入ったのが15歳。その後、勧められた士官学校へは進学せず、18歳で兵士になる。他を圧倒する腕前と討伐回数ですぐに騎士へ昇格。この時には既に家を出ていて宿舎にて生活をしていた。
「相手の動きが何となく、ゆっくりに見える時がある」
「ロティルは動体視力がいいのかもしれないな⋯⋯」
「おかしな右眼のせいだ って言われてたけどね」
「⋯⋯そういうのって、周りが言うのか⋯⋯?」
椅子に座るカヤミが、ベッドに腰掛けているロティルへ不機嫌そうな声で問いかける。
過去の話とはいえ、陰口を叩いていた人間に対して腹を立てているらしい。ロティルは、それだけでも救われる思いがして、若干の笑みを見せた。
「まぁ出どころは毎回同じ。俺を鬱陶しく思ってた人もいるから⋯⋯ でも、いいヤツらの方が多かったし騎士時代も楽しくやってたよ」
「全員と気が合うなんて不可能だろ⋯⋯」
机に頬杖をついて、カヤミは口をとがらせる。
「うん⋯⋯ 右眼もさ、今みたいな状態じゃなかった。イラついた時に ほんの一瞬チクッとするくらいで⋯⋯特に問題なかったんだけど
2年前 ⋯⋯あの日から急に」
「⋯⋯城を辞めた時か?」
「俺が、仲間を ──人を斬った日」
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