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第12章 −伝えたい言葉−
70 月のない空の下
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治療院を飛び出したロティルは目的もなしに外を歩き回り、結局森へと足を運び集中出来ない採取をしながら、遅い時間までそこに留まっていた。
真っ暗だな
今日は新月だから月がないのか⋯⋯
2人で見た月⋯⋯
もう あの月夜には 戻れない
指先で口唇に触れると、数時間前カヤミに無理矢理した口づけが鮮明に蘇る。同意も何もない奪う行為。甘さなど皆無の、ただの欲にまみれた自分よがりのキス。
⋯⋯媚薬が入ってた時の方が よっぽどだったな
少なくとも俺を求めてもらえてた
カヤミの信頼を裏切った
恋愛感情を持っていることが最大の裏切りだ
月のない星空を見ながら森の出口へと向かって歩く。カヤミを1度だけ連れて来たことのあるこの場所。また行こうと約束をしたのが随分昔のことのように感じられる。
応急手当だって⋯⋯理解してるつもりで
カヤミの医者としての知識に俺だって散々助けてもらってるんだ
そういうところも全部含めて好きになったのに
人工呼吸をしないでほしかった なんて
他の人の命は見殺しにしろと言っているのと変わらない
どうしようもないワガママ 醜い嫉妬⋯⋯
いつ帰るかポーラにも何も言わないまま、勢いで出てきた。現状 治療院には戻れないので自宅のある町へとロティルは帰った。
近いせいもあるためか自然と足は町外れのルシーとカペラの店へと向いていく。
1人で考えてもどうしたらいいのか わからず、話を聞いてもらいたかったのも根底にはあったのかもしれない。
以前1人で来訪したロティルだが、その時は媚薬の入った酒の件を問い質すため、まくし立てるように喋っていた。
今回、口数の少なさと、閉店間際のかなり遅い時間に再び1人で訪れたこと、その時点でルシーには、すぐ勘付かれてしまう。
「バッカじゃないの」
閉店後、客のいなくなった店内。早速、何があったのかと聞かれ、隠して溜め込んでおいてもどうしようもないので、事のあらまし、しでかした事を説明したロティル。するとルシーから開口一番、強めの その一言が浴びせられた。
「⋯⋯」
テーブル席で座って項垂れるロティルは何も返せる言葉がない。馬鹿な事をしたと自分自身が最も痛感している。
「カヤミは人魚じゃないんだからさ~⋯⋯
そういう救助方法があったのは知ってたでしょ?」
「そうだけど⋯⋯あんなの目の前で⋯⋯」
「そもそもカヤミだって、我慢してない とは限らないのに~」
「え⋯⋯ カヤミが⋯⋯?」
カペラの〝 我慢 〟という言葉にロティルが顔を上げ、小さく反応を示した。
「変わったことしたらロティルカレアに変な目で見られるかも~?
ホントは やりたくないこともある⋯⋯けど、
自分は医者で、もちろん命を助けるのが最優先だから、迷っちゃいけない⋯⋯とかねぇ」
「⋯⋯口に出せないだけって⋯⋯?」
そんな風に考えることなどしなかった。自分が傷ついたことばかり主張して。ロティルの胸の奥にズキリと重たい痛みが生じる。
「そういう覚悟で選んでいる仕事なんだろうけど」
「⋯⋯選んではいるけど⋯⋯ カヤミは⋯⋯」
カヤミが医師になったのは、親からその道を選べと強制されたようなもので、初めから本人の意思ではない。
きっかけはともかく、出会ってから医者としての仕事を嫌がっている様子はなく、むしろ一生懸命に診察、治療をし、日々患者を助けている⋯⋯ロティルの見ている限りでは。
「⋯⋯まさか、そこまでは」
「ないかもしれない⋯⋯でも、ありえなくもない。
まぁ想像だから わからないけど~?」
カペラの考察にカヤミの言葉が思い出される。
『ロティルなら⋯⋯わかってくれるんじゃないかと思ってたのに⋯⋯』
騎士を経て、旅人をしながら納品や採取の仕事をしているロティル。騎士時代も現在も働くこと自体は楽しく出来ていたが、悩みがひとつもなかったかと言われたら、そんなことは決してない。
カヤミは叱ったりはするけど愚痴は言わない⋯⋯
「確実なのは、頑張って人の命を救ったのにロティルカレアに否定されてしまった事だよね」
「!」
「キスだのなんだのって散々文句言われて? 挙げ句の果てに⋯⋯そんな告白、ハッキリ言って最低最悪」
「⋯⋯本当、最低最悪だな⋯⋯俺」
レンデュラとのことにイラついて言い合いをしてしまったが、カヤミが何も悪くないのは重々承知で、ロティルは自分を責めることしか出来ない。
「こっちに来てカヤミが一番頼りたい相手のはずなのに。ずっと守るって自分で言ってたじゃない。それなのに追い詰めて、信頼を裏切ってちゃダメよねぇ⋯⋯」
「ロティルカレアがそんな考えじゃカヤミが可哀想だ⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯っ⋯⋯」
ロティルは目を閉じて苦悶の表情になり、握った拳を震えさせた。自身への怒りのが右眼に疼きを発生させる。
「カヤミが医者だから助かったこと、助けられたこと。
ロティルカレアなんてケガすること多いんだから、いっぱいあったんじゃないの?」
「そんなの、わかってる⋯⋯!」
ルシーからの指摘に若干声を荒げるロティル。カヤミと初めて会ったその日に、腕のケガの治療をしてもらっている。それから、ずっと⋯⋯今に至るまでカヤミの〝青い治癒〟にも癒されて。
「立場は違うけど、尊敬して、ちゃんと感謝してるレンデュラの方が、よっぽど理解があるかもな⋯⋯」
「⋯⋯レンデュラ⋯⋯が」
いつも軽くあしらっているロティルだが、カヤミがレンデュラをどう思っているのかなど聞いたことはないので何もわからない。
アイツが一方的に⋯⋯なんて思っていたけど
俺と違って臆したりしないでカヤミ対する気持ちを
いつも伝えてる⋯⋯
それで⋯⋯カヤミの心境が変化する可能性だってある
「人魚ではないけど絵本の話みたいに自分の前から消えてしまっても後悔しないわけ? 一生⋯⋯」
「!」
俺から 離れて 本当に 誰かと
「けど⋯⋯カヤミは、俺の側に いたいなんて⋯⋯思ってないよ⋯⋯」
「本人にそう言われたの? ちゃんと伝えて確認しないと、わからないでしょ」
「⋯⋯⋯⋯」
ロティルは手袋を取って手をジッと見つめる。右眼の呪力を治すために、カヤミがいつも握ってくれている手。
俺のために 頑張ってくれる
泣いている俺に手を差し伸べてくれる
笑顔で隣にいてくれる
『ロティルの声は 全部、俺が聞くよ』
側にいるのが当たり前なんかじゃない
この世界で出会ったのだって奇跡みたいなものだ
いなくなるなんて考えられない
前にもそう思っていたはずだろう
⋯⋯カヤミが いなきゃ⋯⋯俺は もう息も できなくなる
「⋯⋯カヤミ⋯⋯」
「明日ここに連れてきなよ。カヤミを」
「⋯⋯連れてくる⋯⋯?」
ルシーがカウンターに両手をつき、真剣な顔でロティルに伝えた。
「それで⋯⋯自分で決めて。どうしたいのか。もちろんカヤミの話を きちんと聞かないとダメだからね」
「⋯⋯うん」
ロティルの瞳に僅かに光が戻る。その様子を見て、顔を見合わせて笑うルシーとカペラの2人。ここに来た直後は呆れを感じてもいたが無下には出来ず、仕方ないと結局世話を焼いてしまう。
「ロティルカレアのこういう特性みたいのにカヤミも甘えさせちゃうのかねぇ」
「な、何だよ⋯⋯その言い方」
「まぁ今夜は~ とりあえず家で 一晩頭を冷やすことね。そんで、明日の朝イチでカヤミを迎えに行ってらっしゃい」
「料理の残り物で良かったら持って行っていいよ。どうせ食べてないんじゃないの~」
「⋯⋯まぁ⋯⋯うん じゃあ、もらっていくかな⋯⋯」
ルシーがロティルのための持ち帰り用に小さなカゴに食材等々を詰めている間、カペラが疑問を呈した。
「レンデュラって人、もう流石に目を覚ましてるんじゃない? カヤミは大丈夫なの~?」
「⋯⋯! ⋯⋯ 一応ジゼたちも、いるから⋯⋯」
ロティルに生じる不安。こんな時こそ側にいるべきなのに⋯⋯それを出来ていない自分が情けなく思えてくる。
明日カヤミを迎えに行って⋯⋯まず謝って
それから ── 俺の気持ちを全部伝える
真っ暗だな
今日は新月だから月がないのか⋯⋯
2人で見た月⋯⋯
もう あの月夜には 戻れない
指先で口唇に触れると、数時間前カヤミに無理矢理した口づけが鮮明に蘇る。同意も何もない奪う行為。甘さなど皆無の、ただの欲にまみれた自分よがりのキス。
⋯⋯媚薬が入ってた時の方が よっぽどだったな
少なくとも俺を求めてもらえてた
カヤミの信頼を裏切った
恋愛感情を持っていることが最大の裏切りだ
月のない星空を見ながら森の出口へと向かって歩く。カヤミを1度だけ連れて来たことのあるこの場所。また行こうと約束をしたのが随分昔のことのように感じられる。
応急手当だって⋯⋯理解してるつもりで
カヤミの医者としての知識に俺だって散々助けてもらってるんだ
そういうところも全部含めて好きになったのに
人工呼吸をしないでほしかった なんて
他の人の命は見殺しにしろと言っているのと変わらない
どうしようもないワガママ 醜い嫉妬⋯⋯
いつ帰るかポーラにも何も言わないまま、勢いで出てきた。現状 治療院には戻れないので自宅のある町へとロティルは帰った。
近いせいもあるためか自然と足は町外れのルシーとカペラの店へと向いていく。
1人で考えてもどうしたらいいのか わからず、話を聞いてもらいたかったのも根底にはあったのかもしれない。
以前1人で来訪したロティルだが、その時は媚薬の入った酒の件を問い質すため、まくし立てるように喋っていた。
今回、口数の少なさと、閉店間際のかなり遅い時間に再び1人で訪れたこと、その時点でルシーには、すぐ勘付かれてしまう。
「バッカじゃないの」
閉店後、客のいなくなった店内。早速、何があったのかと聞かれ、隠して溜め込んでおいてもどうしようもないので、事のあらまし、しでかした事を説明したロティル。するとルシーから開口一番、強めの その一言が浴びせられた。
「⋯⋯」
テーブル席で座って項垂れるロティルは何も返せる言葉がない。馬鹿な事をしたと自分自身が最も痛感している。
「カヤミは人魚じゃないんだからさ~⋯⋯
そういう救助方法があったのは知ってたでしょ?」
「そうだけど⋯⋯あんなの目の前で⋯⋯」
「そもそもカヤミだって、我慢してない とは限らないのに~」
「え⋯⋯ カヤミが⋯⋯?」
カペラの〝 我慢 〟という言葉にロティルが顔を上げ、小さく反応を示した。
「変わったことしたらロティルカレアに変な目で見られるかも~?
ホントは やりたくないこともある⋯⋯けど、
自分は医者で、もちろん命を助けるのが最優先だから、迷っちゃいけない⋯⋯とかねぇ」
「⋯⋯口に出せないだけって⋯⋯?」
そんな風に考えることなどしなかった。自分が傷ついたことばかり主張して。ロティルの胸の奥にズキリと重たい痛みが生じる。
「そういう覚悟で選んでいる仕事なんだろうけど」
「⋯⋯選んではいるけど⋯⋯ カヤミは⋯⋯」
カヤミが医師になったのは、親からその道を選べと強制されたようなもので、初めから本人の意思ではない。
きっかけはともかく、出会ってから医者としての仕事を嫌がっている様子はなく、むしろ一生懸命に診察、治療をし、日々患者を助けている⋯⋯ロティルの見ている限りでは。
「⋯⋯まさか、そこまでは」
「ないかもしれない⋯⋯でも、ありえなくもない。
まぁ想像だから わからないけど~?」
カペラの考察にカヤミの言葉が思い出される。
『ロティルなら⋯⋯わかってくれるんじゃないかと思ってたのに⋯⋯』
騎士を経て、旅人をしながら納品や採取の仕事をしているロティル。騎士時代も現在も働くこと自体は楽しく出来ていたが、悩みがひとつもなかったかと言われたら、そんなことは決してない。
カヤミは叱ったりはするけど愚痴は言わない⋯⋯
「確実なのは、頑張って人の命を救ったのにロティルカレアに否定されてしまった事だよね」
「!」
「キスだのなんだのって散々文句言われて? 挙げ句の果てに⋯⋯そんな告白、ハッキリ言って最低最悪」
「⋯⋯本当、最低最悪だな⋯⋯俺」
レンデュラとのことにイラついて言い合いをしてしまったが、カヤミが何も悪くないのは重々承知で、ロティルは自分を責めることしか出来ない。
「こっちに来てカヤミが一番頼りたい相手のはずなのに。ずっと守るって自分で言ってたじゃない。それなのに追い詰めて、信頼を裏切ってちゃダメよねぇ⋯⋯」
「ロティルカレアがそんな考えじゃカヤミが可哀想だ⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯っ⋯⋯」
ロティルは目を閉じて苦悶の表情になり、握った拳を震えさせた。自身への怒りのが右眼に疼きを発生させる。
「カヤミが医者だから助かったこと、助けられたこと。
ロティルカレアなんてケガすること多いんだから、いっぱいあったんじゃないの?」
「そんなの、わかってる⋯⋯!」
ルシーからの指摘に若干声を荒げるロティル。カヤミと初めて会ったその日に、腕のケガの治療をしてもらっている。それから、ずっと⋯⋯今に至るまでカヤミの〝青い治癒〟にも癒されて。
「立場は違うけど、尊敬して、ちゃんと感謝してるレンデュラの方が、よっぽど理解があるかもな⋯⋯」
「⋯⋯レンデュラ⋯⋯が」
いつも軽くあしらっているロティルだが、カヤミがレンデュラをどう思っているのかなど聞いたことはないので何もわからない。
アイツが一方的に⋯⋯なんて思っていたけど
俺と違って臆したりしないでカヤミ対する気持ちを
いつも伝えてる⋯⋯
それで⋯⋯カヤミの心境が変化する可能性だってある
「人魚ではないけど絵本の話みたいに自分の前から消えてしまっても後悔しないわけ? 一生⋯⋯」
「!」
俺から 離れて 本当に 誰かと
「けど⋯⋯カヤミは、俺の側に いたいなんて⋯⋯思ってないよ⋯⋯」
「本人にそう言われたの? ちゃんと伝えて確認しないと、わからないでしょ」
「⋯⋯⋯⋯」
ロティルは手袋を取って手をジッと見つめる。右眼の呪力を治すために、カヤミがいつも握ってくれている手。
俺のために 頑張ってくれる
泣いている俺に手を差し伸べてくれる
笑顔で隣にいてくれる
『ロティルの声は 全部、俺が聞くよ』
側にいるのが当たり前なんかじゃない
この世界で出会ったのだって奇跡みたいなものだ
いなくなるなんて考えられない
前にもそう思っていたはずだろう
⋯⋯カヤミが いなきゃ⋯⋯俺は もう息も できなくなる
「⋯⋯カヤミ⋯⋯」
「明日ここに連れてきなよ。カヤミを」
「⋯⋯連れてくる⋯⋯?」
ルシーがカウンターに両手をつき、真剣な顔でロティルに伝えた。
「それで⋯⋯自分で決めて。どうしたいのか。もちろんカヤミの話を きちんと聞かないとダメだからね」
「⋯⋯うん」
ロティルの瞳に僅かに光が戻る。その様子を見て、顔を見合わせて笑うルシーとカペラの2人。ここに来た直後は呆れを感じてもいたが無下には出来ず、仕方ないと結局世話を焼いてしまう。
「ロティルカレアのこういう特性みたいのにカヤミも甘えさせちゃうのかねぇ」
「な、何だよ⋯⋯その言い方」
「まぁ今夜は~ とりあえず家で 一晩頭を冷やすことね。そんで、明日の朝イチでカヤミを迎えに行ってらっしゃい」
「料理の残り物で良かったら持って行っていいよ。どうせ食べてないんじゃないの~」
「⋯⋯まぁ⋯⋯うん じゃあ、もらっていくかな⋯⋯」
ルシーがロティルのための持ち帰り用に小さなカゴに食材等々を詰めている間、カペラが疑問を呈した。
「レンデュラって人、もう流石に目を覚ましてるんじゃない? カヤミは大丈夫なの~?」
「⋯⋯! ⋯⋯ 一応ジゼたちも、いるから⋯⋯」
ロティルに生じる不安。こんな時こそ側にいるべきなのに⋯⋯それを出来ていない自分が情けなく思えてくる。
明日カヤミを迎えに行って⋯⋯まず謝って
それから ── 俺の気持ちを全部伝える
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