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序・童貞喪失精子ゲット編
5.満月の夜
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月が満ちた。
ねぐらの窓から差し込む月光がまぶしい。ゴズメルはむっつりと窓に布の覆いをかけた。
起き上がると、またぐらに生えた長大なモノがごろんと腿に当たった。
うんざりだ。
扱いに慣れていないせいで、たまに便所で用を足すのも失敗する。
おまけに生えている間は体の調子が狂って、立つことさえ億劫になるのだった。
(……今日、リリィは本当に来るのかなあ)
リリィとは冒険者協会の受付仕事を終えてからここへ来る約束になっている。
(来てもらったって、どうせなんにもならないだろうな)
体調が悪いせいか、ゴズメルは悲観的だった。
この満月の夜に『童貞喪失精子』を手に入らなければ、次の昇格審査はまず通らない。
リリィとも気まずくなるうえ、シラヌイに土下座する羽目になってしまうだろう。
(もう、冒険者なんてやめちまって、別の仕事を探すべきか……)
ゴズメルは十五歳でミノタウロスの里を出た。それから十年以上冒険者一筋だ。
ほかの道など考えたこともなかったが、いま強制的に岐路に立たされている。
同期のキースだって、結婚して子供ができた。
冗談交じりではあるが内勤に変えてもらおうかなどと口にしていた。
みんなちゃんと前に進んで、将来のことも考えているのに、ゴズメルはいつまで経っても二の足を踏んでいる。
(それもこれも『童貞喪失精子』のせいで……いや、グズグズとノロマなあたしが悪いのか……)
いよいよ落ち込み始めた時、戸口を叩く音がした。
「ゴズメル、こんばんは。リリィよ」
「……開いてるよ。勝手に入んな」
いろんな意味で起きる気力がない。寝たまま声を張り上げると、ドアノブがゆっくりと回った。
ゴズメルは、びっくりした。
ドアを開けて入ってきたリリィが、とても愛らしかったからだ。
思わず自分の部屋に変なところがないか見まわしてしまった。
この部屋に客が来ることは少ない。ゴズメルが、ひとに用があったら自分から出向くタイプだからだ。
「素敵なお部屋ね、ゴズメル」
フード付きのローブをまとったリリィに褒められ、ゴズメルは恐縮した。
「いや、なんもない、狭い部屋で……」
「あら。私にとってはずいぶん広いわ。それに造りもしっかりしているみたい」
「ああ、うん……」
少し古いが、体の大きい種族向けの集合住宅だ。ゴズメルはなんだか夢心地だった。
小柄なリリィがそこにいると、まるで花びらが舞い込んできたように感じるのだ。
「寝たままでごめん。おもてなししないとね……」
「いいのよ。気分が悪いんでしょう。そこにいてちょうだい」
起きようとするゴズメルを、リリィはそっと押しとどめた。
リリィの小さな手が、ゴズメルの頬を心配そうに撫でる。
「……体温が低いのね。やっぱり、魔力の巡りが良くないのだわ」
「へ……?」
「すこし説明してからと思ったけど、先に見てもらったほうが早いかもしれない」
リリィはそう言ってローブを脱いだ。
終業後、着替えてから来たようだ。
彼女はいつもの制服ではなく、白いレースのワンピースを身につけていた。
かわいらしいが肩と背中が空きすぎていて、ゴズメルの目にはほとんど下着みたいに見える。
「ちょ、ちょっと待ってよリリィ、そんないきなり……」
たじたじになるゴズメルにかまわず、リリィは髪をほどき、ベッドに乗ってきた。
「ごめんなさいね、ゴズメル。背中の留め具を外してくださる?」
「えっ……ええっ?」
くるりと背を向けられたゴズメルは、リリィの肩甲骨のあたりに目をとめた。
留め具は、胸当てともアクセサリーともつかない金属製の飾りにつながっている。
長年冒険者をやっているゴズメルは、それがなんなのかを知っていた。
「これは『魔封じのアミュレット』じゃないか。どうしてあんたがこんなものを……」
魔力を抑制する装置だ。犯罪者を移送する際などに使われることが多い。
そんなものを、冒険者協会の受付嬢であるリリィがなぜつけているのだろう。
「……外せばわかるわ」
リリィにそう言われて、ゴズメルはおずおずと留め具に指をかけた。
カチャ、と軽い音を立てて留め具がベッドに落ちる。
次の瞬間、なにか大きくてひんやりしたものがゴズメルの頬をかすめた。
翅、だ。
ドレスの大きく空いた背中から、蝶のような四枚の翅が出現していた。
翅は透けていて触れないのに、手を出すと薄桃色の鱗粉がべっとりとまといつく。
「お、驚いた……」
ゴズメルの口から感嘆の声が漏れる。
「リリィ、あんた、妖精族だったのか……!」
光と水と風でできた、鱗粉を放つ翅。
とっくに絶滅したと言われている妖精族を目の前にして、ゴズメルは驚いていた。
リリィは申し訳なさそうにゴズメルのほうを向いた。
「会長は知っているのだけど、みんなには秘密にしているの。驚かせてしまうし、この翅もね。ちょっと派手なだけで、冒険の役に立つわけじゃないから……」
「えーっ、いや、そんなバカな……」
妖精の翅が放つ鱗粉は、昔からバフ効果の宝庫と言われている。
自動ヒールや経験値アップ、シールド効果など、妖精ひとりひとり効果は違うが、パーティーにひとりいるだけで恩恵が受けられるのだという。
噂によれば、妖精族が滅んでしまった今でも翅はマニアの間で高値で取引されているらしい。
だが、リリィは静かに首を横に振った。
「残念だけど、私の翅は本当に戦闘の役に立たないの。……だけど、あなたにとっては有益かもしれない」
開閉する翅が、ぽふぽふと鱗粉を振りまいている。
急にめまいの発作がきて、ゴズメルはくらっとした。
「……う、ぁっ……?」
「効いてきたかしら。ゴズメル。私の鱗粉には、催淫効果があるの」
「……!!!」
リリィの囁きは、蜜のように甘かった。
ねぐらの窓から差し込む月光がまぶしい。ゴズメルはむっつりと窓に布の覆いをかけた。
起き上がると、またぐらに生えた長大なモノがごろんと腿に当たった。
うんざりだ。
扱いに慣れていないせいで、たまに便所で用を足すのも失敗する。
おまけに生えている間は体の調子が狂って、立つことさえ億劫になるのだった。
(……今日、リリィは本当に来るのかなあ)
リリィとは冒険者協会の受付仕事を終えてからここへ来る約束になっている。
(来てもらったって、どうせなんにもならないだろうな)
体調が悪いせいか、ゴズメルは悲観的だった。
この満月の夜に『童貞喪失精子』を手に入らなければ、次の昇格審査はまず通らない。
リリィとも気まずくなるうえ、シラヌイに土下座する羽目になってしまうだろう。
(もう、冒険者なんてやめちまって、別の仕事を探すべきか……)
ゴズメルは十五歳でミノタウロスの里を出た。それから十年以上冒険者一筋だ。
ほかの道など考えたこともなかったが、いま強制的に岐路に立たされている。
同期のキースだって、結婚して子供ができた。
冗談交じりではあるが内勤に変えてもらおうかなどと口にしていた。
みんなちゃんと前に進んで、将来のことも考えているのに、ゴズメルはいつまで経っても二の足を踏んでいる。
(それもこれも『童貞喪失精子』のせいで……いや、グズグズとノロマなあたしが悪いのか……)
いよいよ落ち込み始めた時、戸口を叩く音がした。
「ゴズメル、こんばんは。リリィよ」
「……開いてるよ。勝手に入んな」
いろんな意味で起きる気力がない。寝たまま声を張り上げると、ドアノブがゆっくりと回った。
ゴズメルは、びっくりした。
ドアを開けて入ってきたリリィが、とても愛らしかったからだ。
思わず自分の部屋に変なところがないか見まわしてしまった。
この部屋に客が来ることは少ない。ゴズメルが、ひとに用があったら自分から出向くタイプだからだ。
「素敵なお部屋ね、ゴズメル」
フード付きのローブをまとったリリィに褒められ、ゴズメルは恐縮した。
「いや、なんもない、狭い部屋で……」
「あら。私にとってはずいぶん広いわ。それに造りもしっかりしているみたい」
「ああ、うん……」
少し古いが、体の大きい種族向けの集合住宅だ。ゴズメルはなんだか夢心地だった。
小柄なリリィがそこにいると、まるで花びらが舞い込んできたように感じるのだ。
「寝たままでごめん。おもてなししないとね……」
「いいのよ。気分が悪いんでしょう。そこにいてちょうだい」
起きようとするゴズメルを、リリィはそっと押しとどめた。
リリィの小さな手が、ゴズメルの頬を心配そうに撫でる。
「……体温が低いのね。やっぱり、魔力の巡りが良くないのだわ」
「へ……?」
「すこし説明してからと思ったけど、先に見てもらったほうが早いかもしれない」
リリィはそう言ってローブを脱いだ。
終業後、着替えてから来たようだ。
彼女はいつもの制服ではなく、白いレースのワンピースを身につけていた。
かわいらしいが肩と背中が空きすぎていて、ゴズメルの目にはほとんど下着みたいに見える。
「ちょ、ちょっと待ってよリリィ、そんないきなり……」
たじたじになるゴズメルにかまわず、リリィは髪をほどき、ベッドに乗ってきた。
「ごめんなさいね、ゴズメル。背中の留め具を外してくださる?」
「えっ……ええっ?」
くるりと背を向けられたゴズメルは、リリィの肩甲骨のあたりに目をとめた。
留め具は、胸当てともアクセサリーともつかない金属製の飾りにつながっている。
長年冒険者をやっているゴズメルは、それがなんなのかを知っていた。
「これは『魔封じのアミュレット』じゃないか。どうしてあんたがこんなものを……」
魔力を抑制する装置だ。犯罪者を移送する際などに使われることが多い。
そんなものを、冒険者協会の受付嬢であるリリィがなぜつけているのだろう。
「……外せばわかるわ」
リリィにそう言われて、ゴズメルはおずおずと留め具に指をかけた。
カチャ、と軽い音を立てて留め具がベッドに落ちる。
次の瞬間、なにか大きくてひんやりしたものがゴズメルの頬をかすめた。
翅、だ。
ドレスの大きく空いた背中から、蝶のような四枚の翅が出現していた。
翅は透けていて触れないのに、手を出すと薄桃色の鱗粉がべっとりとまといつく。
「お、驚いた……」
ゴズメルの口から感嘆の声が漏れる。
「リリィ、あんた、妖精族だったのか……!」
光と水と風でできた、鱗粉を放つ翅。
とっくに絶滅したと言われている妖精族を目の前にして、ゴズメルは驚いていた。
リリィは申し訳なさそうにゴズメルのほうを向いた。
「会長は知っているのだけど、みんなには秘密にしているの。驚かせてしまうし、この翅もね。ちょっと派手なだけで、冒険の役に立つわけじゃないから……」
「えーっ、いや、そんなバカな……」
妖精の翅が放つ鱗粉は、昔からバフ効果の宝庫と言われている。
自動ヒールや経験値アップ、シールド効果など、妖精ひとりひとり効果は違うが、パーティーにひとりいるだけで恩恵が受けられるのだという。
噂によれば、妖精族が滅んでしまった今でも翅はマニアの間で高値で取引されているらしい。
だが、リリィは静かに首を横に振った。
「残念だけど、私の翅は本当に戦闘の役に立たないの。……だけど、あなたにとっては有益かもしれない」
開閉する翅が、ぽふぽふと鱗粉を振りまいている。
急にめまいの発作がきて、ゴズメルはくらっとした。
「……う、ぁっ……?」
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