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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
7.時よ止まれ、おまえは・・・
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「いまブランカは実家にいる。連絡もないし帰ってくる気があるのかは知らん」
つまらなさそうに言うキースに、ゴズメルはため息をついた。
「……全然知らなかった。あんたも大変だったんだね、キース」
「ふん……別に。せいせいしたよ。こうなってみると、腹にいるのが俺の子かどうかも怪しいしな」
いくらなんでもそれは考えすぎだ、とゴズメルは思った。キースはすっかり不貞腐れてしまっているらしい。
ベンチに座った膝に頬杖をついて「結婚なんかしなきゃよかったんだ」と呟く。
声の深刻さに、ゴズメルは息を詰めた。この世界では「結婚=子供を持つ」という認識だ。
種族にもよるが、基本的には祈願を済ませた後に結婚式を開くのが一般的だ。ゴズメルもキースとブランカの式に出席した。緊張でカチンコチンになったキースの横には白いドレスに身を包んだブランカがいた。
きっとおとぎ話みたいにいつまでも幸せに暮らすんだろうなぁと、ゴズメルは漠然とそう思っていたのだが。
キースは言った。
「別に恋人として付き合ってるだけで十分だったのに、なんで子供なんて欲しがったんだろう? あの祈願の面倒さが曲者だよな。なにがなんでもやり遂げてやるって気になっちまう」
「……そんなふうに言ったら、生まれてくる赤ちゃんがかわいそうだ。キース」
「だから、どうせ俺の子じゃないって……」
「あんたの子じゃないわけあるか? ブランカと一緒に祈願したんだろう」
「ううー……」
キースは貝が口をとざすかのようにフカフカ耳を引っ張って顔を覆っている。ゴズメルは我慢強く諭した。
「ちゃんとブランカと話をしたほうがいいよ。あんただって本当はそうすべきだってわかってるはずだ」
まったくどの口がキースに説教できるのだろう。言っていてゴズメルは自分でもうんざりした。
問題を先送りしているのはゴズメルも一緒なのだ。現実から目を逸らしたい気持ちはよくわかる。
恋人ができて、好感度を上げて、子供をくださいとアジリニ神に祈願して……それで終わりではないのだ。
ゴズメルは深い水の中であっぷあっぷともがいている自分を想像した。溺れないようにもがくのが精いっぱいなのに、流れがどんどん急になって、しまいには滝から落ちてしまう。
そんなふうに、自分を取り巻く何もかもが急に変わってしまったら。なんだかとても恐ろしい。
実際に産むかたちに肉体が変化しているブランカはもっと不安だろう。きっと、リリィも。
キースは「フン」と鼻を鳴らしてベンチから立ち上がった。
「牛女のせいで、とんだ時間の無駄をしちまった。俺は行くぜ、可愛いリリィに相手してもらうんだ」
「キース!」
「うるさいっ。これは俺とブランカの問題だ。おまえには関係ないだろう」
ゴズメルは聞き捨てならなかった。二人の問題だと言うならなおさらリリィを巻き込むなという話だ。
キースがふんふんと下手な鼻歌交じりに裏口へ向かうのを、大股で追いかける。
「あんたいい加減にしな。リリィが迷惑してるってわからないのか」
「ケッ。何様のつもりだよ、ゴズメル。なーんでリリィの気持ちをおまえが決めるわけ」
「そりゃ、だって……」
自分の彼女だから、とゴズメルは言えなかった。同性同士で付き合うことは一般的ではないうえ、二人は体に秘密を持っていた。
ゴズメルは月イチで生える体質だし、リリィは催淫バフ持ちだ。ひとの恋愛沙汰に首を突っ込みたがる人間は多い。もしも秘密が明るみに出たら?
ゴズメルは恥ずかしい思いをするだけかもしれないが、リリィは危険に晒される危険がある。
だが、口ごもったゴズメルに、キースは耳を疑うようなことを言った。
「つーかリリィは本当に俺に気があるからな。おまえがあくせく働いている間に俺らはそれなりに進展したのだ」
「は……っ?」
「まぁリリィも仕事ばっかじゃ寂しいんだろうな~」
勘違いも大概にしろ、とゴズメルは怒鳴りそうになる。
礼節のあるリリィが、妻帯者のキースになびくなんてありえない――。
そう思っていたのに。
廊下を抜け、窓口に到着したゴズメルは背筋がぞくっと粟立った。窓口に列ができている。
それ自体はよくあることなのだが、なんというか、列に並んでいる冒険者の雰囲気がおかしかった。男ばかりなのだが妙にそわそわとして落ち着かず、手櫛で髪を整えたり、ぶつぶつと独り言を言っている。
そして有名人のサイン会じみた列の先にいるのが、なんとリリィなのだった。
呆然とするゴズメルの横で、キースが喚いた。
「あっ、あいつ、どさくさに紛れて手を握ってやがる!」
その通りだった。列の先頭に立つ男が、「おっとぉ」などと言いつつ、書類の受け渡しに乗じてリリィの手を握ったのだ。
こんな時、リリィはいつも上手くかわす。
『大事な書類を悪ふざけに使わないで』とやんわり断ったり、無言でピシャリと定規を使ったりと、方法は様々だが、相手を調子づかせはしない。自分が軽く扱われることを許せば、ほかの受付嬢たちを危険にさらすことになるからだ。
ところが、今のリリィはそうではなかった。
なんだかぽーっとしていて、握られた手を不思議そうに見る。やがて花が色づくように頬を赤らめた。
「いやよ……やめて。離してちょうだい」
その囁きにこもった色気と言ったら、列の最後尾にいる冒険者さえクラッと来るほどだった。
単に嫌がられているだけなのに、そう言われると、なぜかますます手を握りたくなってしまうのだ!
「や・め・ろ!」
ゴズメルは先頭の冒険者に、どかんと体当たりした。解放されたリリィがはっと息を飲む。
つまらなさそうに言うキースに、ゴズメルはため息をついた。
「……全然知らなかった。あんたも大変だったんだね、キース」
「ふん……別に。せいせいしたよ。こうなってみると、腹にいるのが俺の子かどうかも怪しいしな」
いくらなんでもそれは考えすぎだ、とゴズメルは思った。キースはすっかり不貞腐れてしまっているらしい。
ベンチに座った膝に頬杖をついて「結婚なんかしなきゃよかったんだ」と呟く。
声の深刻さに、ゴズメルは息を詰めた。この世界では「結婚=子供を持つ」という認識だ。
種族にもよるが、基本的には祈願を済ませた後に結婚式を開くのが一般的だ。ゴズメルもキースとブランカの式に出席した。緊張でカチンコチンになったキースの横には白いドレスに身を包んだブランカがいた。
きっとおとぎ話みたいにいつまでも幸せに暮らすんだろうなぁと、ゴズメルは漠然とそう思っていたのだが。
キースは言った。
「別に恋人として付き合ってるだけで十分だったのに、なんで子供なんて欲しがったんだろう? あの祈願の面倒さが曲者だよな。なにがなんでもやり遂げてやるって気になっちまう」
「……そんなふうに言ったら、生まれてくる赤ちゃんがかわいそうだ。キース」
「だから、どうせ俺の子じゃないって……」
「あんたの子じゃないわけあるか? ブランカと一緒に祈願したんだろう」
「ううー……」
キースは貝が口をとざすかのようにフカフカ耳を引っ張って顔を覆っている。ゴズメルは我慢強く諭した。
「ちゃんとブランカと話をしたほうがいいよ。あんただって本当はそうすべきだってわかってるはずだ」
まったくどの口がキースに説教できるのだろう。言っていてゴズメルは自分でもうんざりした。
問題を先送りしているのはゴズメルも一緒なのだ。現実から目を逸らしたい気持ちはよくわかる。
恋人ができて、好感度を上げて、子供をくださいとアジリニ神に祈願して……それで終わりではないのだ。
ゴズメルは深い水の中であっぷあっぷともがいている自分を想像した。溺れないようにもがくのが精いっぱいなのに、流れがどんどん急になって、しまいには滝から落ちてしまう。
そんなふうに、自分を取り巻く何もかもが急に変わってしまったら。なんだかとても恐ろしい。
実際に産むかたちに肉体が変化しているブランカはもっと不安だろう。きっと、リリィも。
キースは「フン」と鼻を鳴らしてベンチから立ち上がった。
「牛女のせいで、とんだ時間の無駄をしちまった。俺は行くぜ、可愛いリリィに相手してもらうんだ」
「キース!」
「うるさいっ。これは俺とブランカの問題だ。おまえには関係ないだろう」
ゴズメルは聞き捨てならなかった。二人の問題だと言うならなおさらリリィを巻き込むなという話だ。
キースがふんふんと下手な鼻歌交じりに裏口へ向かうのを、大股で追いかける。
「あんたいい加減にしな。リリィが迷惑してるってわからないのか」
「ケッ。何様のつもりだよ、ゴズメル。なーんでリリィの気持ちをおまえが決めるわけ」
「そりゃ、だって……」
自分の彼女だから、とゴズメルは言えなかった。同性同士で付き合うことは一般的ではないうえ、二人は体に秘密を持っていた。
ゴズメルは月イチで生える体質だし、リリィは催淫バフ持ちだ。ひとの恋愛沙汰に首を突っ込みたがる人間は多い。もしも秘密が明るみに出たら?
ゴズメルは恥ずかしい思いをするだけかもしれないが、リリィは危険に晒される危険がある。
だが、口ごもったゴズメルに、キースは耳を疑うようなことを言った。
「つーかリリィは本当に俺に気があるからな。おまえがあくせく働いている間に俺らはそれなりに進展したのだ」
「は……っ?」
「まぁリリィも仕事ばっかじゃ寂しいんだろうな~」
勘違いも大概にしろ、とゴズメルは怒鳴りそうになる。
礼節のあるリリィが、妻帯者のキースになびくなんてありえない――。
そう思っていたのに。
廊下を抜け、窓口に到着したゴズメルは背筋がぞくっと粟立った。窓口に列ができている。
それ自体はよくあることなのだが、なんというか、列に並んでいる冒険者の雰囲気がおかしかった。男ばかりなのだが妙にそわそわとして落ち着かず、手櫛で髪を整えたり、ぶつぶつと独り言を言っている。
そして有名人のサイン会じみた列の先にいるのが、なんとリリィなのだった。
呆然とするゴズメルの横で、キースが喚いた。
「あっ、あいつ、どさくさに紛れて手を握ってやがる!」
その通りだった。列の先頭に立つ男が、「おっとぉ」などと言いつつ、書類の受け渡しに乗じてリリィの手を握ったのだ。
こんな時、リリィはいつも上手くかわす。
『大事な書類を悪ふざけに使わないで』とやんわり断ったり、無言でピシャリと定規を使ったりと、方法は様々だが、相手を調子づかせはしない。自分が軽く扱われることを許せば、ほかの受付嬢たちを危険にさらすことになるからだ。
ところが、今のリリィはそうではなかった。
なんだかぽーっとしていて、握られた手を不思議そうに見る。やがて花が色づくように頬を赤らめた。
「いやよ……やめて。離してちょうだい」
その囁きにこもった色気と言ったら、列の最後尾にいる冒険者さえクラッと来るほどだった。
単に嫌がられているだけなのに、そう言われると、なぜかますます手を握りたくなってしまうのだ!
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