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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
34.そのころリリィは
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「リリィ!」
リリィがハッと顔をあげると、そこにはイーユンがいた。リリィはびっくりして周囲を見回す。
そこは冒険者協会の図書室だった。二人は大きな書架の間でハタキを持って立っていた。
(そうだわ。私、イーユンの手伝いをしていたのに、なんだかボーッとして……)
イーユンは手にしたハタキの柄で自分の肩をトントンと叩いて言った。
「やれやれ、長いこと掃除して、あたしゃ疲れちまったよ。リリィ、お茶を淹れてくれないかね」
「……ええ、わかったわ。イーユン」
イーユンが、ぼんやりしている自分に気を遣ってくれたのか、それとも本当に休みたいだけなのか、リリィにはわからなかった。
だが、休憩をとったほうがいいのは確かだ。リリィはまったく掃除に集中できておらず、さっきから同じ棚にはたきをかけ続けている。
図書室には司書の休憩室がある。リリィにはなじみのない畳張りの四畳半で、真ん中にはちゃぶ台、はしにはイーユンが座ったり寝たりするための座布団が山と積んである。
「うーん」と体を伸ばしながら座布団でごろごろするイーユンの脇で、リリィは緑色のお茶を淹れた。
そのうち、イーユンがおせんべいをパリパリとかじりながら、こんなことを言った。
「リリィ、ゴズメルのことどう思う」
「えっ!」
危うくリリィは熱いお茶をこぼしてしまうところだった。ちょうどゴズメルのことを考えていたのだ。
からだの大きい彼女だったら、こういう狭い部屋でゴロゴロするのは難しいだろう、脚も長いから、きっと立ち上がるたびにちゃぶ台に膝をひっかけてしまうに違いない……でも、食べるのは好きだからこういう米菓子とお茶は好みに合うかも……などと、あれこれと思いを巡らせていた。
だが、イーユンはごろっと寝返りを打って「だってポップルに行ったって聞いたよ」と言った。
「いったいどういう風の吹き回しなんだろうか? 出世になんて興味ないって感じだったのに、こないだは図書室に顔を出すしさ。今にがっぽり稼ぐようになるんだろうな。あたしは老体に鞭打ってあくせく働いてるというのに」
「まぁ、イーユンったら」
ごろ寝しておせんべいをかじりながら吐くせりふではない。リリィが「喉に詰まるわよ」と言ってお茶を差し出すと、イーユンは起きてきちんと正座した。ずずっと音を立てて啜る姿はいかにも年寄りらしい。
リリィは優しく言った。
「……あのひとも大変なのよ。純種だからって期待されちゃって、本当はとてものんびりした性格なのにあれこれと走りまわされてるんだから」
「フーン。そうなの?」
「そうよ。……優しすぎるんでしょうね。かわいそうに、きっと今ごろ疲れてしょんぼりしてるわ」
そういう時のゴズメルを、リリィは知っていた。ゴズメルは体ほどには心が強くないのだ。
ひとから何かちょっときついことを言われると、すぐ落ち込んでしまう。魔物退治は好きでも、ひとと争うことはむしろ避ける性格だ。良いポストを奪い合う昇格審査なんて向いているわけがない。
リリィはそんなゴズメルのそばにいるのが好きだった。枯れかけた植物のように自信を失っていた彼女は、リリィが優しく話しかけるだけでシャキッと復活するのだ。
そして、おもむろにもじもじとしはじめて、リリィを物陰にひっぱっていく。
誰からも見えないところで、リリィを抱きしめてスリスリと頬ずりするためだ。小さな子どもがお気に入りの人形にそうするように。
リリィは、ゴズメルがそういう時にキスしたり体に触れたりしてくれるのは、てっきり自分の機嫌をとるためなのだと思っていた。満月の夜以外に、ゴズメルに性欲はないと思っていたからだ。
だが、本当はあるらしい! 少なくとも自慰で発散するくらいには!
ゴズメルに『あたしも禁欲する!』と言われた時のことを思い出して、リリィはぽっと頬を赤らめた。
キスもハグも、それ以外のことも、ゴズメルが自分から望んでしてくれたのだと思うとリリィは恥ずかしく、それ以上に嬉しかった。
一度、ゴズメルは市場通りの狭い路地裏でリリィを抱きしめてくれたことがあった。
壁に押し付けるみたいに抱きしめてキスされると、リリィは幸せな気持ちになる。目を開けられず、身動きもとれず、ゴズメルの匂いと熱に包み込まれる。
心臓が高鳴り、衣擦れが立ち、唇と舌を交わす音が鼓膜が破れそうに大きく聞こえた。
『……好き?』
口づけの合間に、ゴズメルが尋ねる。
キスのことか、ゴズメルのことか、何について聞かれているかはわからなくとも、リリィの返事は決まっていた。
すき、すき、と夢中で返事をすると、ゴズメルの匂いがいっそう濃くなる。それから、ゴズメルはリリィをますます悦ばせようとするかのように、大きな手で、リリィの、胸を……。
「おーい、戻ってこーい」
ぽーっと物思いに耽るリリィの顔の前で、イーユンが手を振っている。リリィは「きゃあっ」と叫んで、今度こそ持っていた湯呑をひっくり返した。
熱いお茶が制服のスカートをぐっしょりと濡らす。慌てたのはイーユンだった。
「なにやってんだ、早く脱ぎな。ヤケドしちゃうよ!」
「だ、だいじょうぶよ。そんなに熱くないみたい」
「嘘、本当に!?」
湯気は立っているが、熱さを感じなかった。リリィは渡された布巾をスカートに当てたが、自分の下着が違う理由で濡れていることに気づいてもいた。頭が痺れて、うまく働かない。
(私って、なんていやらしい、だめな女なんだろう)
リリィは、なぜだか無性に悲しくなってきた。
(今は、ほかの誰でもない私がゴズメルを疲れさせているんだわ。私のせいであのひとは偽卵を作りに行ったり、昇格試験を受けなきゃいけなくなった)
いや昇格審査を受けることになったのはシラヌイのせいだよ、とゴズメルが聞いていたらツッコんでいるところだっただろうが、リリィの心の声を聞く者は誰もいなかった。
「いったいどうしちゃったんだろうね、この子は。体の調子でも悪いんじゃないのか」
リリィの異常な様子に、いつもマイペースなイーユンも珍しくおろおろしていた。おせんべいを放り出して、何か着替えがないかと休憩室をひっかきまわしているのだが、ワタの出た半纏しか出てこない。
「しょうがない、冒険者協会の方へ行って、なんか着替えがないか聞いてきてあげようね。リリィ、あんたはそこで……」
そう言って休憩室を出ようとしたイーユンは、背後でドサッと嫌な音を聞いた。振り向くと、座っていたリリィが畳に倒れ伏している。顔に脂汗をかき、両手で苦しそうに下腹部を押さえていた。
リリィがハッと顔をあげると、そこにはイーユンがいた。リリィはびっくりして周囲を見回す。
そこは冒険者協会の図書室だった。二人は大きな書架の間でハタキを持って立っていた。
(そうだわ。私、イーユンの手伝いをしていたのに、なんだかボーッとして……)
イーユンは手にしたハタキの柄で自分の肩をトントンと叩いて言った。
「やれやれ、長いこと掃除して、あたしゃ疲れちまったよ。リリィ、お茶を淹れてくれないかね」
「……ええ、わかったわ。イーユン」
イーユンが、ぼんやりしている自分に気を遣ってくれたのか、それとも本当に休みたいだけなのか、リリィにはわからなかった。
だが、休憩をとったほうがいいのは確かだ。リリィはまったく掃除に集中できておらず、さっきから同じ棚にはたきをかけ続けている。
図書室には司書の休憩室がある。リリィにはなじみのない畳張りの四畳半で、真ん中にはちゃぶ台、はしにはイーユンが座ったり寝たりするための座布団が山と積んである。
「うーん」と体を伸ばしながら座布団でごろごろするイーユンの脇で、リリィは緑色のお茶を淹れた。
そのうち、イーユンがおせんべいをパリパリとかじりながら、こんなことを言った。
「リリィ、ゴズメルのことどう思う」
「えっ!」
危うくリリィは熱いお茶をこぼしてしまうところだった。ちょうどゴズメルのことを考えていたのだ。
からだの大きい彼女だったら、こういう狭い部屋でゴロゴロするのは難しいだろう、脚も長いから、きっと立ち上がるたびにちゃぶ台に膝をひっかけてしまうに違いない……でも、食べるのは好きだからこういう米菓子とお茶は好みに合うかも……などと、あれこれと思いを巡らせていた。
だが、イーユンはごろっと寝返りを打って「だってポップルに行ったって聞いたよ」と言った。
「いったいどういう風の吹き回しなんだろうか? 出世になんて興味ないって感じだったのに、こないだは図書室に顔を出すしさ。今にがっぽり稼ぐようになるんだろうな。あたしは老体に鞭打ってあくせく働いてるというのに」
「まぁ、イーユンったら」
ごろ寝しておせんべいをかじりながら吐くせりふではない。リリィが「喉に詰まるわよ」と言ってお茶を差し出すと、イーユンは起きてきちんと正座した。ずずっと音を立てて啜る姿はいかにも年寄りらしい。
リリィは優しく言った。
「……あのひとも大変なのよ。純種だからって期待されちゃって、本当はとてものんびりした性格なのにあれこれと走りまわされてるんだから」
「フーン。そうなの?」
「そうよ。……優しすぎるんでしょうね。かわいそうに、きっと今ごろ疲れてしょんぼりしてるわ」
そういう時のゴズメルを、リリィは知っていた。ゴズメルは体ほどには心が強くないのだ。
ひとから何かちょっときついことを言われると、すぐ落ち込んでしまう。魔物退治は好きでも、ひとと争うことはむしろ避ける性格だ。良いポストを奪い合う昇格審査なんて向いているわけがない。
リリィはそんなゴズメルのそばにいるのが好きだった。枯れかけた植物のように自信を失っていた彼女は、リリィが優しく話しかけるだけでシャキッと復活するのだ。
そして、おもむろにもじもじとしはじめて、リリィを物陰にひっぱっていく。
誰からも見えないところで、リリィを抱きしめてスリスリと頬ずりするためだ。小さな子どもがお気に入りの人形にそうするように。
リリィは、ゴズメルがそういう時にキスしたり体に触れたりしてくれるのは、てっきり自分の機嫌をとるためなのだと思っていた。満月の夜以外に、ゴズメルに性欲はないと思っていたからだ。
だが、本当はあるらしい! 少なくとも自慰で発散するくらいには!
ゴズメルに『あたしも禁欲する!』と言われた時のことを思い出して、リリィはぽっと頬を赤らめた。
キスもハグも、それ以外のことも、ゴズメルが自分から望んでしてくれたのだと思うとリリィは恥ずかしく、それ以上に嬉しかった。
一度、ゴズメルは市場通りの狭い路地裏でリリィを抱きしめてくれたことがあった。
壁に押し付けるみたいに抱きしめてキスされると、リリィは幸せな気持ちになる。目を開けられず、身動きもとれず、ゴズメルの匂いと熱に包み込まれる。
心臓が高鳴り、衣擦れが立ち、唇と舌を交わす音が鼓膜が破れそうに大きく聞こえた。
『……好き?』
口づけの合間に、ゴズメルが尋ねる。
キスのことか、ゴズメルのことか、何について聞かれているかはわからなくとも、リリィの返事は決まっていた。
すき、すき、と夢中で返事をすると、ゴズメルの匂いがいっそう濃くなる。それから、ゴズメルはリリィをますます悦ばせようとするかのように、大きな手で、リリィの、胸を……。
「おーい、戻ってこーい」
ぽーっと物思いに耽るリリィの顔の前で、イーユンが手を振っている。リリィは「きゃあっ」と叫んで、今度こそ持っていた湯呑をひっくり返した。
熱いお茶が制服のスカートをぐっしょりと濡らす。慌てたのはイーユンだった。
「なにやってんだ、早く脱ぎな。ヤケドしちゃうよ!」
「だ、だいじょうぶよ。そんなに熱くないみたい」
「嘘、本当に!?」
湯気は立っているが、熱さを感じなかった。リリィは渡された布巾をスカートに当てたが、自分の下着が違う理由で濡れていることに気づいてもいた。頭が痺れて、うまく働かない。
(私って、なんていやらしい、だめな女なんだろう)
リリィは、なぜだか無性に悲しくなってきた。
(今は、ほかの誰でもない私がゴズメルを疲れさせているんだわ。私のせいであのひとは偽卵を作りに行ったり、昇格試験を受けなきゃいけなくなった)
いや昇格審査を受けることになったのはシラヌイのせいだよ、とゴズメルが聞いていたらツッコんでいるところだっただろうが、リリィの心の声を聞く者は誰もいなかった。
「いったいどうしちゃったんだろうね、この子は。体の調子でも悪いんじゃないのか」
リリィの異常な様子に、いつもマイペースなイーユンも珍しくおろおろしていた。おせんべいを放り出して、何か着替えがないかと休憩室をひっかきまわしているのだが、ワタの出た半纏しか出てこない。
「しょうがない、冒険者協会の方へ行って、なんか着替えがないか聞いてきてあげようね。リリィ、あんたはそこで……」
そう言って休憩室を出ようとしたイーユンは、背後でドサッと嫌な音を聞いた。振り向くと、座っていたリリィが畳に倒れ伏している。顔に脂汗をかき、両手で苦しそうに下腹部を押さえていた。
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