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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
36.恋人特攻スキル
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現在ゴズメルが所有するスターメダルは13枚。
初回配布の10枚とペーパーテスト後にもらった3枚だ。
100-13=87、あと87枚も集めなければならないというのである。
ゴズメルはアイテムボックスから書類を出して、冒険者協会が用意した特別任務を確認した。
どれも任務というより能力テストのようなものだ。
受けた任務の戦績と、本人のエントリーシートを元にして面談が行われるらしい。
「へっ、足りない頭で考えてやがる」
カウンターに置いた書類とにらめっこするゴズメルに、キースはニヤニヤしながら肘を寄せてきた。
「なにを受けるつもりなんだよ」
「ンン……。この『ガチ試合・超級』ってやつがメダルを三十枚ももらえる。三回やれば終わるな」
「バカだなあ! それは一日がかりのトーナメントだ。参加費もかかるし、優勝しないと損するだけだぞ」
「えーっ!」
「やれやれ、これだから初心者はダメなんだ」
「じゃ、キースは初めてじゃないんだね」
「まぁな。ポップルに来るのはこれが三度目だ。だいたいの攻略法はわかってる」
「へー。そんなに受けてても出世できないもんなんだねえ」
「あっ? やんのかコラ!」
ゴズメルは素直に驚いただけなのだが、キースはダンッとビールジョッキをカウンターに叩きつけて怒った。
そのまま文句を言って立ち去るのかと思いきや、座ったままぐびぐびと酒を飲み、バリバリとフライドポテトをむさぼり食っている。
ゴズメルは、はてなと思いつつ尋ねた。
「ブランカのことは、解決したのかい?」
「……フンッ。おまえには関係ない」
ギロッと睨まれたゴズメルは「へえっ」と目を丸くした。
「良かったじゃないか。そう言うってことは、ブランカから良い返事をもらえたんだね!」
「エッ」
「だって、もし返事をもらえてなかったら、あんたはあたしに『本当に渡したのか、彼女の様子はどうだった、俺にまだ脈はあるかなあ』ってしつこく聞いてくるはずだもの」
「エッ、エッ」
「おめでとう! そういうことなら一杯奢ってやるよ」
キースは、言い当てられてよほど驚いたのだろう。
ゴズメルが片手を挙げてバーテンダーに注文する横で、彼は小鳥のように震えていた。
新しいジョッキを受け取ってやっと「だからおまえに関係ないだろ!」と、顔を真っ赤にして怒る。
「アハハ、カンパーイ!」
ゴズメルはかまわずグラスをぶつけたが、勢いがつきすぎたようだ。キースは頭からビールを浴びる。
「てめえっ、この牛女!」
椅子を蹴って立ち上がったキースに、その時、ハンカチを向ける手があった。
「良かったらお使いになって?」
「えっ」
声を上げたのは、頭からポタポタとビールを垂らしているキースではなく、座ったままのゴズメルの方だった。
(バイコーン女……!)
二人の前に立っているのは、ゴズメルに角をぶつけてきたバイコーン族の女だった。
「あらあら、かわいそうにね。顔も、胸も……ふふっ。こんなところまで、ぐっしょり濡らして……」
「は、はわわわわ」
ハンカチで優しくあちこちの輪郭をなぞられたキースのしっぽは、ピーンと直立している。女の浮かべる妖しげな笑みに、ゴズメルは警戒心を持った。
「おい、ちょっと……」
その時、キースが最敬礼した。ゴズメルはぎょっとする。
「マリア副会長! お目にかかれて光栄です!」
深々と頭を下げたキースに、バイコーン女、もとい冒険者協会副会長のマリアは悠然とほほえんだ。
「あら、もうバレちゃった。いい子ね。ちゃんと役員の顔を憶えているの」
「はいっ! 自分はっ、アルティカ支部からまいりました、キースです! 事務職志望ですっ」
「ふぅん……内勤志望の冒険者は珍しいわね」
キースはさらに自己PRしようとしたようだったが、マリアに人差し指でトンと唇をふさがれてしまった。
「うふふ、狼族の男の子が受付に来てくれるなんて、頼もしいわ……」
マリアは艶めかしい肢体をくねらせて、キースに体をすり寄せた。
「ポップルには、怖~い冒険者に困らされている受付嬢がたくさんいるのよ? あなたのようなキバの生えた男の子が守ってくれたら、私も安心できるわ……」
「ふぇっ、あっ、自分は、支部の移動は、考えておりませんで」
「あら、そう?」
マリアの角が、キースの喉元に食い込んでいた。
キースは後ずさればいいだけなのに、一枚の板のように固まっている。なんらかのスキルを使われているのだろうか。
ゴズメルは立ってキースの襟首を掴んだ。後ろの壁に叩きつける。
離れていくキースに、マリアが口惜しそうに「あん」と声を漏らす。
ゴズメルは声を固くして説明した。
「悪いがコイツは所帯持ちでね。アルティカにお腹の大きい奥さんがいるのにポップルで働けないだろ」
「ふふっ。知ってるわ」
床でノビているキースの席にマリアは腰を下ろしてしまった。
眉間にしわを寄せるゴズメルを、カウンターに頬杖をついて誘う。
「どうかした? ここは酒場よ。お酒を飲まなくちゃ」
「……一体、なんのつもりだい」
「まぁ、そんなに怯えて……! うふふ、許してちょうだい。怖がらせるつもりはなかったの」
「怖いんじゃない、気味悪いってんだよ!」
ゴズメルには、マリアの瞳が揺れたように見えた。だが、薄暗い照明のせいだったのだろう。瞬きのあと、彼女は嫣然とほほえんでいた。
「種族の固有スキルよ。バイコーン……貞節を喰う獣、ね」
「は?」
「うふふ。あなたって、なぁんにも知らないのね……」
「……っ」
「お座りなさい、ゴズメル。教えてあげるわ」
それは副会長としての命令だった。
ゴズメルが不承不承腰を下ろすと、マリアはぐいっと体を押し付けてくる。恋人のような距離感に、ゴズメルは「おいっ」と声を荒げたが、それは彼女をますます喜ばせるだけだった。
「あぁ、あなたって、なんて甘い匂いがするのかしら」
「嗅ぐなっ! 気色悪い!」
「砂糖菓子みたいに可愛い恋人を、大切に想っているひとの匂いだわ」
ゴズメルはぎくっと体を緊張させた。リリィとの関係は、冒険者協会の誰も知らないはずだ。
マリアは言った。
「隠しても、だめよ。バイコーンは、うふふ……恋人特攻スキルを持っているの」
恋人特攻。
聞いたことのないスキルに目をシロクロさせるゴズメルに、マリアは囁いた。
「既婚者に、恋人、愛人……片思いの匂いもわかるわ。ほら、私に触られると、体が痺れるでしょう?」
確かに、ゴズメルの指先はかすかに震えていた。
マリアはうっとりと「一番、効果を発揮するのは妻帯者よ」と言った。
キースが動けなくなるわけだ、とゴズメルは思った。別居中とはいえブランカと思いを通わせたばかりなのだ。
「……冒険じゃ役に立たなそうなスキルだね」
「あぁ! ミノタウロスの目にはそう映るのでしょうね。ダンジョンでステータスが倍加するのでしょう? 親戚がいるなら、ぜひ冒険者協会に紹介していただきたいものだけど……」
「無理だね。あんな脳筋連中を雇ったら冒険者協会はおしまいだよ」
ゴズメルは一蹴した。力こそすべて、自分たちは最強だと自負しているミノタウロス族は、他種族と共存することができない。彼らからすれば、里を出たゴズメルは弱者とつるみたがる異端なのだ。
「あら、それは残念。同じ角持ちとして、バイコーンの仕事ぶりを見てほしかったわ」
いつの間に注文していたのだろう。マリアはウィスキーのロックを、くいっと飲んだ。丸くて大きなロックアイスが涼やかな音を立てる。
「冒険ではいざ知らず、人間関係を掌握できるこのスキルはとても有用よ。こうやって……」
こつんと自分の黒い角をゴズメルの角に当てて、摺り寄せる。
「弱みを握って、優秀な人材を私の手元に引き寄せることができるのだもの」
「……それで、副会長様が田舎者二人をからかいに来たわけ」
「あん、もう」
身をひくゴズメルに、マリアが子供のように頬を膨らませる。やり口はともかく、自分とそう年も変わらないように見える彼女が副会長まで務めているのは大したものだとゴズメルは思った。
「せっかちなのね。私はあなたを助けてあげようと思っているのに」
「何? どういうこと」
黒い角を生やした女に『助ける』と言われても、信用できない。だが、棄権させてもらえるというなら、喜んで受けるところだった。
が、マリアが口にしたのは全く別のことだ。
「気づかなかった? あなたが棄権するだなんて言うから、今もメダルを狙っている冒険者が大勢いるのよ」
「えっ」
初回配布の10枚とペーパーテスト後にもらった3枚だ。
100-13=87、あと87枚も集めなければならないというのである。
ゴズメルはアイテムボックスから書類を出して、冒険者協会が用意した特別任務を確認した。
どれも任務というより能力テストのようなものだ。
受けた任務の戦績と、本人のエントリーシートを元にして面談が行われるらしい。
「へっ、足りない頭で考えてやがる」
カウンターに置いた書類とにらめっこするゴズメルに、キースはニヤニヤしながら肘を寄せてきた。
「なにを受けるつもりなんだよ」
「ンン……。この『ガチ試合・超級』ってやつがメダルを三十枚ももらえる。三回やれば終わるな」
「バカだなあ! それは一日がかりのトーナメントだ。参加費もかかるし、優勝しないと損するだけだぞ」
「えーっ!」
「やれやれ、これだから初心者はダメなんだ」
「じゃ、キースは初めてじゃないんだね」
「まぁな。ポップルに来るのはこれが三度目だ。だいたいの攻略法はわかってる」
「へー。そんなに受けてても出世できないもんなんだねえ」
「あっ? やんのかコラ!」
ゴズメルは素直に驚いただけなのだが、キースはダンッとビールジョッキをカウンターに叩きつけて怒った。
そのまま文句を言って立ち去るのかと思いきや、座ったままぐびぐびと酒を飲み、バリバリとフライドポテトをむさぼり食っている。
ゴズメルは、はてなと思いつつ尋ねた。
「ブランカのことは、解決したのかい?」
「……フンッ。おまえには関係ない」
ギロッと睨まれたゴズメルは「へえっ」と目を丸くした。
「良かったじゃないか。そう言うってことは、ブランカから良い返事をもらえたんだね!」
「エッ」
「だって、もし返事をもらえてなかったら、あんたはあたしに『本当に渡したのか、彼女の様子はどうだった、俺にまだ脈はあるかなあ』ってしつこく聞いてくるはずだもの」
「エッ、エッ」
「おめでとう! そういうことなら一杯奢ってやるよ」
キースは、言い当てられてよほど驚いたのだろう。
ゴズメルが片手を挙げてバーテンダーに注文する横で、彼は小鳥のように震えていた。
新しいジョッキを受け取ってやっと「だからおまえに関係ないだろ!」と、顔を真っ赤にして怒る。
「アハハ、カンパーイ!」
ゴズメルはかまわずグラスをぶつけたが、勢いがつきすぎたようだ。キースは頭からビールを浴びる。
「てめえっ、この牛女!」
椅子を蹴って立ち上がったキースに、その時、ハンカチを向ける手があった。
「良かったらお使いになって?」
「えっ」
声を上げたのは、頭からポタポタとビールを垂らしているキースではなく、座ったままのゴズメルの方だった。
(バイコーン女……!)
二人の前に立っているのは、ゴズメルに角をぶつけてきたバイコーン族の女だった。
「あらあら、かわいそうにね。顔も、胸も……ふふっ。こんなところまで、ぐっしょり濡らして……」
「は、はわわわわ」
ハンカチで優しくあちこちの輪郭をなぞられたキースのしっぽは、ピーンと直立している。女の浮かべる妖しげな笑みに、ゴズメルは警戒心を持った。
「おい、ちょっと……」
その時、キースが最敬礼した。ゴズメルはぎょっとする。
「マリア副会長! お目にかかれて光栄です!」
深々と頭を下げたキースに、バイコーン女、もとい冒険者協会副会長のマリアは悠然とほほえんだ。
「あら、もうバレちゃった。いい子ね。ちゃんと役員の顔を憶えているの」
「はいっ! 自分はっ、アルティカ支部からまいりました、キースです! 事務職志望ですっ」
「ふぅん……内勤志望の冒険者は珍しいわね」
キースはさらに自己PRしようとしたようだったが、マリアに人差し指でトンと唇をふさがれてしまった。
「うふふ、狼族の男の子が受付に来てくれるなんて、頼もしいわ……」
マリアは艶めかしい肢体をくねらせて、キースに体をすり寄せた。
「ポップルには、怖~い冒険者に困らされている受付嬢がたくさんいるのよ? あなたのようなキバの生えた男の子が守ってくれたら、私も安心できるわ……」
「ふぇっ、あっ、自分は、支部の移動は、考えておりませんで」
「あら、そう?」
マリアの角が、キースの喉元に食い込んでいた。
キースは後ずさればいいだけなのに、一枚の板のように固まっている。なんらかのスキルを使われているのだろうか。
ゴズメルは立ってキースの襟首を掴んだ。後ろの壁に叩きつける。
離れていくキースに、マリアが口惜しそうに「あん」と声を漏らす。
ゴズメルは声を固くして説明した。
「悪いがコイツは所帯持ちでね。アルティカにお腹の大きい奥さんがいるのにポップルで働けないだろ」
「ふふっ。知ってるわ」
床でノビているキースの席にマリアは腰を下ろしてしまった。
眉間にしわを寄せるゴズメルを、カウンターに頬杖をついて誘う。
「どうかした? ここは酒場よ。お酒を飲まなくちゃ」
「……一体、なんのつもりだい」
「まぁ、そんなに怯えて……! うふふ、許してちょうだい。怖がらせるつもりはなかったの」
「怖いんじゃない、気味悪いってんだよ!」
ゴズメルには、マリアの瞳が揺れたように見えた。だが、薄暗い照明のせいだったのだろう。瞬きのあと、彼女は嫣然とほほえんでいた。
「種族の固有スキルよ。バイコーン……貞節を喰う獣、ね」
「は?」
「うふふ。あなたって、なぁんにも知らないのね……」
「……っ」
「お座りなさい、ゴズメル。教えてあげるわ」
それは副会長としての命令だった。
ゴズメルが不承不承腰を下ろすと、マリアはぐいっと体を押し付けてくる。恋人のような距離感に、ゴズメルは「おいっ」と声を荒げたが、それは彼女をますます喜ばせるだけだった。
「あぁ、あなたって、なんて甘い匂いがするのかしら」
「嗅ぐなっ! 気色悪い!」
「砂糖菓子みたいに可愛い恋人を、大切に想っているひとの匂いだわ」
ゴズメルはぎくっと体を緊張させた。リリィとの関係は、冒険者協会の誰も知らないはずだ。
マリアは言った。
「隠しても、だめよ。バイコーンは、うふふ……恋人特攻スキルを持っているの」
恋人特攻。
聞いたことのないスキルに目をシロクロさせるゴズメルに、マリアは囁いた。
「既婚者に、恋人、愛人……片思いの匂いもわかるわ。ほら、私に触られると、体が痺れるでしょう?」
確かに、ゴズメルの指先はかすかに震えていた。
マリアはうっとりと「一番、効果を発揮するのは妻帯者よ」と言った。
キースが動けなくなるわけだ、とゴズメルは思った。別居中とはいえブランカと思いを通わせたばかりなのだ。
「……冒険じゃ役に立たなそうなスキルだね」
「あぁ! ミノタウロスの目にはそう映るのでしょうね。ダンジョンでステータスが倍加するのでしょう? 親戚がいるなら、ぜひ冒険者協会に紹介していただきたいものだけど……」
「無理だね。あんな脳筋連中を雇ったら冒険者協会はおしまいだよ」
ゴズメルは一蹴した。力こそすべて、自分たちは最強だと自負しているミノタウロス族は、他種族と共存することができない。彼らからすれば、里を出たゴズメルは弱者とつるみたがる異端なのだ。
「あら、それは残念。同じ角持ちとして、バイコーンの仕事ぶりを見てほしかったわ」
いつの間に注文していたのだろう。マリアはウィスキーのロックを、くいっと飲んだ。丸くて大きなロックアイスが涼やかな音を立てる。
「冒険ではいざ知らず、人間関係を掌握できるこのスキルはとても有用よ。こうやって……」
こつんと自分の黒い角をゴズメルの角に当てて、摺り寄せる。
「弱みを握って、優秀な人材を私の手元に引き寄せることができるのだもの」
「……それで、副会長様が田舎者二人をからかいに来たわけ」
「あん、もう」
身をひくゴズメルに、マリアが子供のように頬を膨らませる。やり口はともかく、自分とそう年も変わらないように見える彼女が副会長まで務めているのは大したものだとゴズメルは思った。
「せっかちなのね。私はあなたを助けてあげようと思っているのに」
「何? どういうこと」
黒い角を生やした女に『助ける』と言われても、信用できない。だが、棄権させてもらえるというなら、喜んで受けるところだった。
が、マリアが口にしたのは全く別のことだ。
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