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23.見えざるピンクのユニコーン
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「あ、あの、ゴズメル……」
寝床で、手鏡を持って固まっているゴズメルに、リリィはそっと声をかけた。
「私はとってもステキだと思うわ……そのピンクの……角……」
ピンクの角。
鏡に映るものが現実であると理解したゴズメルは、片手で左角を確かめる。折られた白い根本から、ピンク色の、鱗粉に染まった角が生えている。鱗粉同様、角度を変えるとグリッター入りのネイルみたいにキラキラする。
「……。……。……!!!」
生えたての角は根本よりも滑らかな触り心地だった。分厚い本のページみたいに柔らかくて、ぬめりさえ感じる。
(こ、これが、ステキ……!?)
センスのいいリリィがそう言うならそうなのかもしれない。たとえば町で若い女の子がこんなふうに片角を飾っているのを見たら、ゴズメルだってオシャレに感じそうではある。・・・自分が真似したいとは微塵も思わないだろうけれど。
ゴズメルは正直に駄々をこねた。
「ヤダァ! 片方だけピンクなんて、恥ずかしくて人前に出られないよー!」
「ゴズメル、大丈夫よ。角はまた伸びるわ!」
前髪を切りすぎた女子みたいに騒ぐゴズメルを、リリィは励ました。
「鱗粉を通して魔力を吸収したから、一時的に影響が出ているだけ。きっとしばらくしたら元通りの色に戻るわ」
「ほ、ほんとか……?」
「ええ、そのはずよ……かわいそうなゴズメル。早く戻るように私が角にブラシをかけてあげましょうね」
「!」
「ごめんね、私の鱗粉のせいで……」
リリィは申し訳なさそうに謝ったが、ブラッシングしてもらえるゴズメルは(ラッキー!)と思っていた。こんな素敵な特典が付くなら、ピンクの角も悪くない気がしてくる。リリィの翅とお揃いでもあるし。
ゴズメルは念のため、もう一度聞いてみた。
「……ね、真剣に答えておくれ。この角って本当に素敵だと思う? 好きかい?」
「とっても素敵だわ。私はあなたの角が大好きよ!」
そんなわけですっかり気を良くしたゴズメルは、ピンク色の角をぴかぴかさせて寝床を出たのだった。
逃げ延びたミノタウロス族が暮らす地下アジトは、暗くて広々としていた。芋の穴から掘り進めてたどりついた水場を中心に、それぞれの住まいとなる横穴を形成している。横穴の近くでは常に火が焚かれているが、地下空間は広大で、そのすべてを照らすことはできていない。
「なんだかずっと夜みたいだねえ」
「そうね……」
リリィは光る苔の入った小瓶を、ゴズメルに見せた。
「ここの土はクメミ山と違うようで、この光る苔が定着しないの。とても暗くて寂しいところだわ。まるで神様から忘れられてしまった場所のよう……」
日の光と連動する苔は、朝の白い光を放っている。寝起きのミノタウロス族が横穴から続々と出てきて、焚火のまわりに集まる。何をするのかと思えば体操だった。
「運動不足でいると気持ちが落ち込むもの。うまく喋れなくても体操はできるし、イライラして殴り合うよりよっぽど平和だわ!」
「うーん、殴り合いになったんだね……」
この閉鎖空間でミノタウロス族を仕切るのは色々と大変だったようだ。ぐっぐっと体側を伸ばすリリィは、小さいけれどたくましかった。ゴズメルはリリィの真似をしながら、火を囲む同族を見回した。
(ざっと三十人ってところか。オッ、あっちで子供に囲まれてるのがオズヌで……向こうにいるのがミギワかな?)
ゴズメルは、ダマキの横で体操する男を見ていた。からだを動かしてはいるが、眉間にずっとシワが寄っている。焚火を挟んでもイラついているのが伝わってきて、ゴズメルは挨拶しに行くのが一気に嫌になった。向こうも同じ気持ちになったようだ。ゴズメルを見ると、グワッと顎を引いて、思い切り顔を逸らした。
(なんだあいつ! 失礼な!)
ゴズメルはピンクの角にケチをつけられたような気がした。向こうを貶したいあまり(フン、この角の良さがわかんないなんて、あたしの兄貴はセンスのないやつなんだな!)などと心の中で角を擁護しさえする。
プリプリと怒りながら体操を続けていると、すみの方で年とった雑種が何か作業しているのが目に入った。体操しているミノタウロス族に、何やら石板をかざしている。その石板は、天女をかたどった木彫りの像とコードでつながっていて、像は同じように焚火の根本とつながっている。
その禿げ頭の『おじさま』が、ジーニョだった。
「あれは一体なにをしてたんだい?」
体操を終えたゴズメルが、タオルで汗を拭きつつ尋ねると、彼はフンと鼻を鳴らした。
「火の精霊へのお供えだ。体操を舞踊に見立てて捧げている」
「あ……?」
「出張版のホコラホステルよ。ゴズメル」
リリィが優しく説明した。
「ジーニョおじさまが、ここに火の精霊を呼んでくださったの。希望に見合ったお供えをすれば、精霊がホステルを提供してくれるわ。そのおかげで私たちは燃料の心配をせずに、地下で暖かく過ごせているのよ」
「はえー……あんたって、すごいんだねえ。ありがとう、おじさま!」
素直にお礼を言われると、ジーニョは照れ臭いらしい。十五連符みたいな咳払いをする。
「別にっ! もともと適性のあった場所に魔物を噛ませとるだけだ。前までの仕事に比べればこんなのは小指を動かすくらいのものだ」
「前?」
「ゴズメル。おじさまは、もともと冒険者協会の研究所に勤めておられたんですって」
「えぇっ!?」
「……どうやら本当に記憶を白紙に戻されたらしいな。いや……それも俺のせいか……」
深いため息をついたジーニョは、天女像にすがるようにして地べたに腰を下ろした。
「座りなさい。ゴズメル、おまえには色々と話さなければならない」
寝床で、手鏡を持って固まっているゴズメルに、リリィはそっと声をかけた。
「私はとってもステキだと思うわ……そのピンクの……角……」
ピンクの角。
鏡に映るものが現実であると理解したゴズメルは、片手で左角を確かめる。折られた白い根本から、ピンク色の、鱗粉に染まった角が生えている。鱗粉同様、角度を変えるとグリッター入りのネイルみたいにキラキラする。
「……。……。……!!!」
生えたての角は根本よりも滑らかな触り心地だった。分厚い本のページみたいに柔らかくて、ぬめりさえ感じる。
(こ、これが、ステキ……!?)
センスのいいリリィがそう言うならそうなのかもしれない。たとえば町で若い女の子がこんなふうに片角を飾っているのを見たら、ゴズメルだってオシャレに感じそうではある。・・・自分が真似したいとは微塵も思わないだろうけれど。
ゴズメルは正直に駄々をこねた。
「ヤダァ! 片方だけピンクなんて、恥ずかしくて人前に出られないよー!」
「ゴズメル、大丈夫よ。角はまた伸びるわ!」
前髪を切りすぎた女子みたいに騒ぐゴズメルを、リリィは励ました。
「鱗粉を通して魔力を吸収したから、一時的に影響が出ているだけ。きっとしばらくしたら元通りの色に戻るわ」
「ほ、ほんとか……?」
「ええ、そのはずよ……かわいそうなゴズメル。早く戻るように私が角にブラシをかけてあげましょうね」
「!」
「ごめんね、私の鱗粉のせいで……」
リリィは申し訳なさそうに謝ったが、ブラッシングしてもらえるゴズメルは(ラッキー!)と思っていた。こんな素敵な特典が付くなら、ピンクの角も悪くない気がしてくる。リリィの翅とお揃いでもあるし。
ゴズメルは念のため、もう一度聞いてみた。
「……ね、真剣に答えておくれ。この角って本当に素敵だと思う? 好きかい?」
「とっても素敵だわ。私はあなたの角が大好きよ!」
そんなわけですっかり気を良くしたゴズメルは、ピンク色の角をぴかぴかさせて寝床を出たのだった。
逃げ延びたミノタウロス族が暮らす地下アジトは、暗くて広々としていた。芋の穴から掘り進めてたどりついた水場を中心に、それぞれの住まいとなる横穴を形成している。横穴の近くでは常に火が焚かれているが、地下空間は広大で、そのすべてを照らすことはできていない。
「なんだかずっと夜みたいだねえ」
「そうね……」
リリィは光る苔の入った小瓶を、ゴズメルに見せた。
「ここの土はクメミ山と違うようで、この光る苔が定着しないの。とても暗くて寂しいところだわ。まるで神様から忘れられてしまった場所のよう……」
日の光と連動する苔は、朝の白い光を放っている。寝起きのミノタウロス族が横穴から続々と出てきて、焚火のまわりに集まる。何をするのかと思えば体操だった。
「運動不足でいると気持ちが落ち込むもの。うまく喋れなくても体操はできるし、イライラして殴り合うよりよっぽど平和だわ!」
「うーん、殴り合いになったんだね……」
この閉鎖空間でミノタウロス族を仕切るのは色々と大変だったようだ。ぐっぐっと体側を伸ばすリリィは、小さいけれどたくましかった。ゴズメルはリリィの真似をしながら、火を囲む同族を見回した。
(ざっと三十人ってところか。オッ、あっちで子供に囲まれてるのがオズヌで……向こうにいるのがミギワかな?)
ゴズメルは、ダマキの横で体操する男を見ていた。からだを動かしてはいるが、眉間にずっとシワが寄っている。焚火を挟んでもイラついているのが伝わってきて、ゴズメルは挨拶しに行くのが一気に嫌になった。向こうも同じ気持ちになったようだ。ゴズメルを見ると、グワッと顎を引いて、思い切り顔を逸らした。
(なんだあいつ! 失礼な!)
ゴズメルはピンクの角にケチをつけられたような気がした。向こうを貶したいあまり(フン、この角の良さがわかんないなんて、あたしの兄貴はセンスのないやつなんだな!)などと心の中で角を擁護しさえする。
プリプリと怒りながら体操を続けていると、すみの方で年とった雑種が何か作業しているのが目に入った。体操しているミノタウロス族に、何やら石板をかざしている。その石板は、天女をかたどった木彫りの像とコードでつながっていて、像は同じように焚火の根本とつながっている。
その禿げ頭の『おじさま』が、ジーニョだった。
「あれは一体なにをしてたんだい?」
体操を終えたゴズメルが、タオルで汗を拭きつつ尋ねると、彼はフンと鼻を鳴らした。
「火の精霊へのお供えだ。体操を舞踊に見立てて捧げている」
「あ……?」
「出張版のホコラホステルよ。ゴズメル」
リリィが優しく説明した。
「ジーニョおじさまが、ここに火の精霊を呼んでくださったの。希望に見合ったお供えをすれば、精霊がホステルを提供してくれるわ。そのおかげで私たちは燃料の心配をせずに、地下で暖かく過ごせているのよ」
「はえー……あんたって、すごいんだねえ。ありがとう、おじさま!」
素直にお礼を言われると、ジーニョは照れ臭いらしい。十五連符みたいな咳払いをする。
「別にっ! もともと適性のあった場所に魔物を噛ませとるだけだ。前までの仕事に比べればこんなのは小指を動かすくらいのものだ」
「前?」
「ゴズメル。おじさまは、もともと冒険者協会の研究所に勤めておられたんですって」
「えぇっ!?」
「……どうやら本当に記憶を白紙に戻されたらしいな。いや……それも俺のせいか……」
深いため息をついたジーニョは、天女像にすがるようにして地べたに腰を下ろした。
「座りなさい。ゴズメル、おまえには色々と話さなければならない」
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