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第1章 アニマル☆サーカス
第4話 『友達』
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「フィーちゃん! 久しぶり……!」
フィーに連れられて入ったアニマルサーカスのテントの中。フィーの友達――ロコちゃんは水色のオーバーオールを着ていて、胸元には赤色の細いリボンが結んであった。
長めの髪の毛の色も淡い青色で、腰まで届きそうなぐらいの三つ編みにしている。
前髪もちょっと長めで、比較的整って切り揃えられている。
身長はフィーと同じ、135センチほどで、見た目もフィーと同じ十才ぐらいに見えた。
体つきも華奢で、まだまだ幼さを残す女の子だ。
長いまつげと、綺麗なエメラルド色の瞳を持った優しそうな目。
耳はフィーの様には尖っていない、普通の形をしていた。
「まさか、フィーちゃんに会えるなんて思ってなかった! 嬉しい、ほんとに嬉しいな……!」
ちょっとかすれた声でロコちゃんは言う。それほど甲高くない、落ち着いた声音。
「この辺りでロコちゃんのサーカスがやってるってお話を聞いて、来たんだ!」
「そうなんだ! ありがとう、フィーちゃん……!」
フィーとロコちゃんはぎゅっと抱き合って、声を掛け合っている。フィーはいつも以上に、とっても楽しそう。
ロコちゃんも本当に嬉しそうに笑っていて、二人が本当に仲が良いことが、これだけでも伝わってくる。
「……。そ、そちらの方はどなたですか……?」
すると、抱き合う手をそっと解いたロコちゃんが、フィーの背中に隠れる様にして、不安そうな上目遣いでそろっとこっちを見つめてきて。
「え、えっと」
ど、どうしよう……? 少し気弱で、おどおどしたロコちゃんの様子がフィーとは全然違って、かえって張り詰めた緊張が漂って、戸惑ってしまう。
「この子は、うさぎさんだよ。マジックショーのアシスタントをしてくれているの」
すぐに返事できずにいると、代わりにフィーがそう答えて。
「は、はい。そうです。よろしく、お願いします」
結局それに乗っかる感じで、慌てて頭を下げた。
「そ、そうなんですか。よろしくお願いしますね、うさぎさん」
ロコちゃんは、ちょっとだけ安心してくれたみたいで、ぺこりとお辞儀をした。
「わたしの名前は、ロコ、です。フィーちゃんとは、魔法学校の時から一番の友達で、ずっと一緒だったんですよ」
想像していたよりも、普通の子みたい。ちょっとだけほっとする。
少なくとも、フィーよりはまともそうだけど……。
「一年生の時からずっと、同じクラスだったんだよ! 入学式の日にロコちゃんが、話し掛けてくれたんだよね……!」
フィーがそう付け加えると、ロコちゃんの表情が和らいで、ほころぶ。
「うん! それで、魔法の実験の時も、休み時間も、お昼ごはんの時も、フィーちゃんとずっと二人一緒で……!」
「学校が終わったら、色んな場所に遊びに行ったりしたよね。ロコちゃんはとっても凄いんだよ! 二年生の遠足の時なんて――」
「だ、だめ、その話は恥ずかしいよ、フィーちゃん……!」
恥ずかしそうに頬を赤らめて、両手を振ってフィーを止めるロコちゃん。かわいいな……。そんな様子を見ていると、わたしまで、何だか緊張が少しだけほぐれて――。
「あっ、そうそう、実はね――」
だけど。フィーがふと、トランクを開けて。心臓が一気に、早鐘を打つ。
「はい、これ、ロコちゃんにプレゼント!」
フィーが取り出したのは、チョコレート。さっきの子を魔法で変えて作った、チョコレート……。
「ロコちゃん、甘いおかしが大好きだったよね!」
「わあ! フィーちゃん、ありがとう! 覚えててくれたんだ……!」
受け取るロコちゃんの方も、感動した表情をしていて。
「当たり前だよ。魔法学校に居る時は、ロコちゃんとおかし、いっぱい作ったもんね!」
「クッキーにケーキにキャンディに、色んなのを作って食べて……懐かしいね」
「ねえねえ、ちょっと食べてみて! フィー、ちゃんと魔法上手くなってるか、ロコちゃんに確かめて欲しいの!」
「うん! 良いよ……!」
ロコちゃんがそっと箱を開けて、船の形のチョコレートを一つ食べてみる。
「おいしい! やっぱりフィーちゃんのチョコレートが一番おいしい……!」
えへへ、とほがらかにロコちゃんは笑っている。やっぱり、この子もフィーと同じなんだ……。と、泣きそうになって、何とかこらえる、こらえなきゃ……。
「あ、そう言えば――」
するとロコちゃんが、何かを思い出した様にはっとする。
「実は、フィーちゃんに一つ、頼みたいことが有るんだ」
「うん。どうしたの?」
フィーに、頼みごと? 嫌な予感がする。
「もう一人、女の子を出して欲しいんだけど……」
「勿論だよ! えいっ!」
すぐにフィーはステッキを振るって、自分より少し年下ほどの女の子をその場にぽん!と召喚した。今度は茶髪でショートヘア―の、ちょっと気の強そうな子だ。
「ここ、どこ?」
きょろきょろと辺りを見回していた女の子と、ぱちっと目が合う。
「――?」
そしてその子は、さっきの女の子と同じ様に、びくっと震えて。
「う、うさぎ? おばけうさぎ……?」
そんな声が聞こえてきて。女の子の瞳は、恐怖で揺らいでいて。驚かれても仕方ないって分かってるのに、でも、こんなに怖がられるなんて。悲しくなるのを堪えようと、俯いていると。
「大丈夫。うさぎさんはとっても良い子なんだよ!」
と、フィーが明るく女の子に話し掛けた。
「う、うさぎ、さん?」
「その通り、それからね、この子はサーカス団のロコちゃん! フィーはね、マジシャンのフィーって名前なの! そしてよろしくね!」
フィーが自分とロコちゃんを紹介する。
屈託のないフィーの笑顔に安心した……してしまったのか、女の子は少し落ち着いた様に、こくりと頷いて。
「う、うん。あたしは、ゆうねっていうの。それでね」
けれどすぐに、女の子はまた、辺りを不思議そうに見て、こう言った。
「ののはちゃん、どこに行っちゃったのかな? いっしょにあそんでたのに、おうちにかえっちゃったのかな?」
「あっ……」
『ののはちゃん』。女の子――ゆうねちゃんのその言葉に、うっかり声が漏れる。ののはちゃんって、もしかして。
「ののはちゃんって、ゆうねちゃんと同い年ぐらいの、長い黒髪の女の子のことかな?」
同じことにすぐに気が付いたフィーが、女の子に尋ねる。
「うん。おねえちゃんたち、しらない?」
「それなら、ののはちゃんはここにいるよ!」
フィーが、ロコちゃんの持っていたチョコレートの箱を指差した。
……!
「チョコレート? なにいってるの、おねえちゃん?」
「えへへ、ののはちゃんは、不思議な魔法でさっき、みんな大好きなチョコレートに変身しちゃったんだ! 甘いお砂糖でみんなを喜ばせる、ふわふわチョコレートに!」
「え、え、ののはちゃんが、チョコレートに……?」
信じられない、という風に目を見張るゆうねちゃん。
「そ、そんな、ののはちゃんが、ののはちゃんがチョコレートになるなんて、うそだ……」
「? うそじゃないよ?」
「う、うそだ、うそ……う、うううっ」
言葉の上では否定しているけれど、フィーが嘘を言っていないって伝わってしまったみたいで、ゆうねちゃんは声を上げて、ぽろぽろと泣き始めてしまった。
「あ、あれ? どうして、どうして泣いてるの?」
「だ、だって、だって……」
「あ! もしかして、チョコレートは好きじゃないのかな?」
「ちがう! ののはちゃんは、チョコレートじゃないよお!」
「それなら、別のおかしならどう? キャンディーでもアイスクリームでもケーキでも、何でも変えることができるよ! ゆうねちゃんの好きなおかしに変えてあげるよ!」
「やだ! ののはちゃんは、おかしじゃない!」
「ご、ごめんね。フィーはね、なぐさめようとしたんだけど……」
珍しくフィーが困って、慌ててる。今の、なだめているつもりだったの……?
「あ、あの……ロコ、さん」
静かに見ていればいいのに。気が付けばわたしは、ロコちゃんに話しかけてしまっていた。
友達がお菓子にされちゃっただけじゃない。
フィーの魔法で呼び出された、ゆうねちゃんもきっと、きっと。
「どうしましたか、うさぎさん?」
「ゆうねちゃんを、どうするつもりですか……?」
きっと泣いているゆうねちゃんに、魔法を掛けるんだ。で、でも、もしかしたらロコちゃんはそんなことしないのかも……。
「実は、今日の演目に参加する予定だった動物さんが一人、風邪を引いてお休みになってしまって……」
だけど、ロコちゃんはそう答えると、ののはちゃんを戻してっ!と訴えるゆうねちゃんのそばに寄って、ひざを曲げて目の高さを合わせた。
「あの……大丈夫、ですか?」
「ひ、ひどいよ、ののはちゃんは、わたしの、ともだちなのにっ!」
「そうですか……ごめんなさい」
「はやくっ、も、もどしてっていってるでしょ、ののはちゃんを!」
「で、でも、わたしたちの魔法だと、もう戻せなくて……」
ロコちゃんがおどおどしながら、ゆうねちゃんにそう言うと。
「うっ、ううううっ」
じわりじわりと、ゆうねちゃんはもっともっと涙を浮かべて。
「や、やだ! 早く、早くもとに戻して!!」
とうとう、ゆうねちゃんは大きな声で泣き始めてしまった。
でも、戻らない、本当にもう戻らないんだ、ののはちゃんは。ぎゅっと、胸が締め付けられる。
……助けてあげたい。なのに、何にもできない、怖いから、自分がおかしにされるのが怖いから、わたしは何にもできないんだ。いつもこうだ、ずっと見ているだけなんだ……。
「え、えっと、どうしましょう……」
痛くはないみたいだけど、戸惑うロコちゃん。目線を悩む様にさまよわせて、悲しそうな顔をして……。だけどすぐに、ハッとして、またゆうねちゃんの方を向いて。
「……ののはちゃんは、動物は好きですか?」
「えっ? ど、どうぶつ?」
いきなりのロコちゃんの質問に、ゆうねちゃんがぴたっと叩く手を止める。
動物? しかも、ゆうねちゃんじゃなくて、ののはちゃんが動物が好きだったかって……どうして、そんなことを訊くの?
「の、ののはちゃんは、どうぶつ、とっても好きだった、けど……」
わたしと同じで、質問の意図が掴めないんだろう、ゆうねちゃんはぱちぱちと瞬きをする。
「良かった、わたしも動物、大好きなんです。それで、ののはちゃんは、どんな動物が好きか、分かりますか?」
「ぐすっ、の、ののはちゃんは、ののはちゃんは、ねこやいぬやきつねや……」
ゆうねちゃんは一瞬、こっちをちらっと見る。
「うさぎみたいな、かわいいどうぶつが、だいすきだったの……」
「ねこ、いぬ、きつね、うさぎですか……。……」
答えを聞いたロコちゃんは、目を閉じて小首を傾げる。何か考えている様に。
「……そうですね、それなら」
だけどそれからすぐに目を開けて、ほっとして息をついて。
「そんなのいいから、はやく――」
「えいっ!」
再びロコちゃんに訴えようとしたゆうねちゃんに向かって、指を振る。
「きゃっ!」
ぽんっ! すぐにゆうねちゃんは、もこもこした水色の煙に包まれて――。
フィーに連れられて入ったアニマルサーカスのテントの中。フィーの友達――ロコちゃんは水色のオーバーオールを着ていて、胸元には赤色の細いリボンが結んであった。
長めの髪の毛の色も淡い青色で、腰まで届きそうなぐらいの三つ編みにしている。
前髪もちょっと長めで、比較的整って切り揃えられている。
身長はフィーと同じ、135センチほどで、見た目もフィーと同じ十才ぐらいに見えた。
体つきも華奢で、まだまだ幼さを残す女の子だ。
長いまつげと、綺麗なエメラルド色の瞳を持った優しそうな目。
耳はフィーの様には尖っていない、普通の形をしていた。
「まさか、フィーちゃんに会えるなんて思ってなかった! 嬉しい、ほんとに嬉しいな……!」
ちょっとかすれた声でロコちゃんは言う。それほど甲高くない、落ち着いた声音。
「この辺りでロコちゃんのサーカスがやってるってお話を聞いて、来たんだ!」
「そうなんだ! ありがとう、フィーちゃん……!」
フィーとロコちゃんはぎゅっと抱き合って、声を掛け合っている。フィーはいつも以上に、とっても楽しそう。
ロコちゃんも本当に嬉しそうに笑っていて、二人が本当に仲が良いことが、これだけでも伝わってくる。
「……。そ、そちらの方はどなたですか……?」
すると、抱き合う手をそっと解いたロコちゃんが、フィーの背中に隠れる様にして、不安そうな上目遣いでそろっとこっちを見つめてきて。
「え、えっと」
ど、どうしよう……? 少し気弱で、おどおどしたロコちゃんの様子がフィーとは全然違って、かえって張り詰めた緊張が漂って、戸惑ってしまう。
「この子は、うさぎさんだよ。マジックショーのアシスタントをしてくれているの」
すぐに返事できずにいると、代わりにフィーがそう答えて。
「は、はい。そうです。よろしく、お願いします」
結局それに乗っかる感じで、慌てて頭を下げた。
「そ、そうなんですか。よろしくお願いしますね、うさぎさん」
ロコちゃんは、ちょっとだけ安心してくれたみたいで、ぺこりとお辞儀をした。
「わたしの名前は、ロコ、です。フィーちゃんとは、魔法学校の時から一番の友達で、ずっと一緒だったんですよ」
想像していたよりも、普通の子みたい。ちょっとだけほっとする。
少なくとも、フィーよりはまともそうだけど……。
「一年生の時からずっと、同じクラスだったんだよ! 入学式の日にロコちゃんが、話し掛けてくれたんだよね……!」
フィーがそう付け加えると、ロコちゃんの表情が和らいで、ほころぶ。
「うん! それで、魔法の実験の時も、休み時間も、お昼ごはんの時も、フィーちゃんとずっと二人一緒で……!」
「学校が終わったら、色んな場所に遊びに行ったりしたよね。ロコちゃんはとっても凄いんだよ! 二年生の遠足の時なんて――」
「だ、だめ、その話は恥ずかしいよ、フィーちゃん……!」
恥ずかしそうに頬を赤らめて、両手を振ってフィーを止めるロコちゃん。かわいいな……。そんな様子を見ていると、わたしまで、何だか緊張が少しだけほぐれて――。
「あっ、そうそう、実はね――」
だけど。フィーがふと、トランクを開けて。心臓が一気に、早鐘を打つ。
「はい、これ、ロコちゃんにプレゼント!」
フィーが取り出したのは、チョコレート。さっきの子を魔法で変えて作った、チョコレート……。
「ロコちゃん、甘いおかしが大好きだったよね!」
「わあ! フィーちゃん、ありがとう! 覚えててくれたんだ……!」
受け取るロコちゃんの方も、感動した表情をしていて。
「当たり前だよ。魔法学校に居る時は、ロコちゃんとおかし、いっぱい作ったもんね!」
「クッキーにケーキにキャンディに、色んなのを作って食べて……懐かしいね」
「ねえねえ、ちょっと食べてみて! フィー、ちゃんと魔法上手くなってるか、ロコちゃんに確かめて欲しいの!」
「うん! 良いよ……!」
ロコちゃんがそっと箱を開けて、船の形のチョコレートを一つ食べてみる。
「おいしい! やっぱりフィーちゃんのチョコレートが一番おいしい……!」
えへへ、とほがらかにロコちゃんは笑っている。やっぱり、この子もフィーと同じなんだ……。と、泣きそうになって、何とかこらえる、こらえなきゃ……。
「あ、そう言えば――」
するとロコちゃんが、何かを思い出した様にはっとする。
「実は、フィーちゃんに一つ、頼みたいことが有るんだ」
「うん。どうしたの?」
フィーに、頼みごと? 嫌な予感がする。
「もう一人、女の子を出して欲しいんだけど……」
「勿論だよ! えいっ!」
すぐにフィーはステッキを振るって、自分より少し年下ほどの女の子をその場にぽん!と召喚した。今度は茶髪でショートヘア―の、ちょっと気の強そうな子だ。
「ここ、どこ?」
きょろきょろと辺りを見回していた女の子と、ぱちっと目が合う。
「――?」
そしてその子は、さっきの女の子と同じ様に、びくっと震えて。
「う、うさぎ? おばけうさぎ……?」
そんな声が聞こえてきて。女の子の瞳は、恐怖で揺らいでいて。驚かれても仕方ないって分かってるのに、でも、こんなに怖がられるなんて。悲しくなるのを堪えようと、俯いていると。
「大丈夫。うさぎさんはとっても良い子なんだよ!」
と、フィーが明るく女の子に話し掛けた。
「う、うさぎ、さん?」
「その通り、それからね、この子はサーカス団のロコちゃん! フィーはね、マジシャンのフィーって名前なの! そしてよろしくね!」
フィーが自分とロコちゃんを紹介する。
屈託のないフィーの笑顔に安心した……してしまったのか、女の子は少し落ち着いた様に、こくりと頷いて。
「う、うん。あたしは、ゆうねっていうの。それでね」
けれどすぐに、女の子はまた、辺りを不思議そうに見て、こう言った。
「ののはちゃん、どこに行っちゃったのかな? いっしょにあそんでたのに、おうちにかえっちゃったのかな?」
「あっ……」
『ののはちゃん』。女の子――ゆうねちゃんのその言葉に、うっかり声が漏れる。ののはちゃんって、もしかして。
「ののはちゃんって、ゆうねちゃんと同い年ぐらいの、長い黒髪の女の子のことかな?」
同じことにすぐに気が付いたフィーが、女の子に尋ねる。
「うん。おねえちゃんたち、しらない?」
「それなら、ののはちゃんはここにいるよ!」
フィーが、ロコちゃんの持っていたチョコレートの箱を指差した。
……!
「チョコレート? なにいってるの、おねえちゃん?」
「えへへ、ののはちゃんは、不思議な魔法でさっき、みんな大好きなチョコレートに変身しちゃったんだ! 甘いお砂糖でみんなを喜ばせる、ふわふわチョコレートに!」
「え、え、ののはちゃんが、チョコレートに……?」
信じられない、という風に目を見張るゆうねちゃん。
「そ、そんな、ののはちゃんが、ののはちゃんがチョコレートになるなんて、うそだ……」
「? うそじゃないよ?」
「う、うそだ、うそ……う、うううっ」
言葉の上では否定しているけれど、フィーが嘘を言っていないって伝わってしまったみたいで、ゆうねちゃんは声を上げて、ぽろぽろと泣き始めてしまった。
「あ、あれ? どうして、どうして泣いてるの?」
「だ、だって、だって……」
「あ! もしかして、チョコレートは好きじゃないのかな?」
「ちがう! ののはちゃんは、チョコレートじゃないよお!」
「それなら、別のおかしならどう? キャンディーでもアイスクリームでもケーキでも、何でも変えることができるよ! ゆうねちゃんの好きなおかしに変えてあげるよ!」
「やだ! ののはちゃんは、おかしじゃない!」
「ご、ごめんね。フィーはね、なぐさめようとしたんだけど……」
珍しくフィーが困って、慌ててる。今の、なだめているつもりだったの……?
「あ、あの……ロコ、さん」
静かに見ていればいいのに。気が付けばわたしは、ロコちゃんに話しかけてしまっていた。
友達がお菓子にされちゃっただけじゃない。
フィーの魔法で呼び出された、ゆうねちゃんもきっと、きっと。
「どうしましたか、うさぎさん?」
「ゆうねちゃんを、どうするつもりですか……?」
きっと泣いているゆうねちゃんに、魔法を掛けるんだ。で、でも、もしかしたらロコちゃんはそんなことしないのかも……。
「実は、今日の演目に参加する予定だった動物さんが一人、風邪を引いてお休みになってしまって……」
だけど、ロコちゃんはそう答えると、ののはちゃんを戻してっ!と訴えるゆうねちゃんのそばに寄って、ひざを曲げて目の高さを合わせた。
「あの……大丈夫、ですか?」
「ひ、ひどいよ、ののはちゃんは、わたしの、ともだちなのにっ!」
「そうですか……ごめんなさい」
「はやくっ、も、もどしてっていってるでしょ、ののはちゃんを!」
「で、でも、わたしたちの魔法だと、もう戻せなくて……」
ロコちゃんがおどおどしながら、ゆうねちゃんにそう言うと。
「うっ、ううううっ」
じわりじわりと、ゆうねちゃんはもっともっと涙を浮かべて。
「や、やだ! 早く、早くもとに戻して!!」
とうとう、ゆうねちゃんは大きな声で泣き始めてしまった。
でも、戻らない、本当にもう戻らないんだ、ののはちゃんは。ぎゅっと、胸が締め付けられる。
……助けてあげたい。なのに、何にもできない、怖いから、自分がおかしにされるのが怖いから、わたしは何にもできないんだ。いつもこうだ、ずっと見ているだけなんだ……。
「え、えっと、どうしましょう……」
痛くはないみたいだけど、戸惑うロコちゃん。目線を悩む様にさまよわせて、悲しそうな顔をして……。だけどすぐに、ハッとして、またゆうねちゃんの方を向いて。
「……ののはちゃんは、動物は好きですか?」
「えっ? ど、どうぶつ?」
いきなりのロコちゃんの質問に、ゆうねちゃんがぴたっと叩く手を止める。
動物? しかも、ゆうねちゃんじゃなくて、ののはちゃんが動物が好きだったかって……どうして、そんなことを訊くの?
「の、ののはちゃんは、どうぶつ、とっても好きだった、けど……」
わたしと同じで、質問の意図が掴めないんだろう、ゆうねちゃんはぱちぱちと瞬きをする。
「良かった、わたしも動物、大好きなんです。それで、ののはちゃんは、どんな動物が好きか、分かりますか?」
「ぐすっ、の、ののはちゃんは、ののはちゃんは、ねこやいぬやきつねや……」
ゆうねちゃんは一瞬、こっちをちらっと見る。
「うさぎみたいな、かわいいどうぶつが、だいすきだったの……」
「ねこ、いぬ、きつね、うさぎですか……。……」
答えを聞いたロコちゃんは、目を閉じて小首を傾げる。何か考えている様に。
「……そうですね、それなら」
だけどそれからすぐに目を開けて、ほっとして息をついて。
「そんなのいいから、はやく――」
「えいっ!」
再びロコちゃんに訴えようとしたゆうねちゃんに向かって、指を振る。
「きゃっ!」
ぽんっ! すぐにゆうねちゃんは、もこもこした水色の煙に包まれて――。
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