14 / 36
第1章 アニマル☆サーカス
第13話 ロコのステージ
しおりを挟む
――この、アニマルサーカスの動物たちはみんな、本当は人間だったんだ。
それなのに『心の魔法』を掛けられて、姿だけじゃなくて心まで無理矢理動物に変えられちゃったんだ、だから本当はやりたくなんかないサーカスのステージを楽しんでいるように見えるんだ……。
――と、ずっと思っていた。
だけど。
エゼル団長と一緒にステージに上がる動物たちはみんな、本当に心からサーカスを楽しんでいるみたいで……。
……混乱する。
『心の魔法を使って仲良しになっても、その後でちゃんと相手のことを考えてないと、嫌われちゃうのは同じ』『楽しいって、このサーカスの団員で良かったって、本当の気持ちで思ってくれるように、もっと頑張らなきゃ――』
そんなロコちゃんの言葉を思い出す。それで余計に、分からなくなる。
楽しいって気持ちは、心の魔法で思わされているんじゃなくて、動物たちが本当に思っていること……? でも、その動物たちは元は人間で、心の魔法で心も動物にされちゃってるだけで……。でも、楽しい、悲しい、っていう気持ちは……動物になった心でも変わらない?
だから、嬉しそうな動物たちの気持ちは、心は、やっぱり本物……?
???
……一つ、はっきりしたことがある。
やっぱり、このサーカスの動物たちはみんな、昔は人間だったこと。多分、きっと、この世界に連れて来られて、無理矢理動物に変えられた上に、心の魔法まで掛けられたんだ……。
……。そして、もう一つ。
なのに気付けば、夢中になりかけている。拍手を送ろうとしている。失敗しそうになると、ヒヤッとなって、頑張って!って心の中で応援しちゃっている。そんな自分がいる。
どうしてだろう、だって、こんなサーカスが楽しいなんて、こんなのおかしいのに、変なのに。変。変だよね、こんなの……。だって始まる前、ほんの数時間前までは、見たくなんてなかったはずなのに、嫌だったはずなのに……!
それは、きっと……フィーのマジックショーとは違って、人間を変えるショーじゃないから? きっとそうだ、って思っても、心の中はもやもやし続けていて……。
「――さて、夜も更けて、いよいよ最後の一演目を残すのみとなりました。この度アニマルサーカスのフィナーレを飾るのは――」
暗がりの中で輝くカードの声に、意識が引き戻される。あれ、今の声って……。
パチッ。
スポットライトが灯る。
ステージの真ん中に立っていたのは。
ロコちゃん。
初めて、ステージの上でロコちゃんを見る。
淡い青色の髪を、さっきまでは長い三つ編みにしていたけれど。
今は全てほどいていて。かすかな風に、髪の先が揺れている。
服は、さっきの水色のオーバーオールから着替えていた。
黒と白の模様を基調にした、動きやすそうなパーティードレス。スカートも、白と黒のチェックの柄。
胸元の赤いリボンが、良いアクセントになっている。両手には、深い紺色の長めの手袋。
「……」
客席をまっすぐに見つめるロコちゃんの表情からは、緊張が伝わってくる。
「……ロコちゃん」
隣の席のフィーが、体を前に乗り出して。
「がんばれ、ロコちゃん……!」
ぽつりと呟いた。
わたしも息をのんで、ステージに再び注目する。
「……」
ロコちゃんは、ふうっと、小さく息をつくと。
右手で空中に、何かを放る様な仕草をした。
次の瞬間、ロコちゃんの頭上には握りこぶしぐらいの大きさの、白色のボールが現れて。
とすん、とまっすぐロコちゃんの左手に落ちてきた。
「……」
一呼吸置いて、ロコちゃんが左手のボールを投げる。
するとボールは頂点に来て、たった今から落下しようとするところで、空中で同じ大きさのもの二つに分裂する。そして二つとも、右手にしっかりと落ちてきた。
ロコちゃんはまたボールを放る。
二つ投げれば三つ、三つ投げれば四つ。ボールは結局、五つまで増えた。
「……」
そしてロコちゃんは、今度はその五つを順番に、空中に高く放って。それから落ちて来たのを手に取って、また投げる。
確か、ジャグリングって言うんだっけ、こういうの……。
「……」
そのままロコちゃんは淡々とそれを続けていく。手付きは正確で、ボールは狙ったところにちゃんと落ちてくる。だけど、特に変化は見られない、同じ動き。
……こんな風に思ったら、悪いって、分かってる。
だけど……エゼル団長や動物達の演目と比べると、今ひとつ、目立たないかも、しれない……。
「あっ……!」
フィーの小さな声。
ロコちゃんが初めて手元を滑らせて、ボールの一つが、大きく後ろに逸れて……。
会場全体が、どよめきに包まれる。
だけどそれは、ボールを落としてしまったからじゃない。
「きゅいっ!」
いつの間にかロコちゃんの後方の空中に現れた、緑色のカーバンクル――ルカちゃんが、後ろに逸れたボールをしっかりとキャッチしていたからだ。
「あの動物は……」「もしかして、カーバンクル?」「本当に居たんだ……!」「凄い! 私初めて見る!」「かわいい~!」
客席からはそんな声が聞こえてくる。やっぱり、この世界でもカーバンクルはとても珍しい動物らしくて、一気にお客さんの視線が集中する。
「ありがとう」
一旦ボールを全て受け止めたロコちゃんが、ふわふわと空に舞うロコちゃんの頭を撫でてあげる。
そして。
『それじゃあ――』
ロコちゃんが囁く。
『――はじめるよ』
ルカちゃんが元気に返事をして、右手を挙げた。
「ぴっ!」
それを見て、ロコちゃんはこくりと、一回頷く。
その表情は、決心と自信に満ち溢れていて。
再びボールを空中に放り投げる。
そしてロコちゃんが、そっと口を開いた。
どよめきが引いていく。
空気が、変わる。
それなのに『心の魔法』を掛けられて、姿だけじゃなくて心まで無理矢理動物に変えられちゃったんだ、だから本当はやりたくなんかないサーカスのステージを楽しんでいるように見えるんだ……。
――と、ずっと思っていた。
だけど。
エゼル団長と一緒にステージに上がる動物たちはみんな、本当に心からサーカスを楽しんでいるみたいで……。
……混乱する。
『心の魔法を使って仲良しになっても、その後でちゃんと相手のことを考えてないと、嫌われちゃうのは同じ』『楽しいって、このサーカスの団員で良かったって、本当の気持ちで思ってくれるように、もっと頑張らなきゃ――』
そんなロコちゃんの言葉を思い出す。それで余計に、分からなくなる。
楽しいって気持ちは、心の魔法で思わされているんじゃなくて、動物たちが本当に思っていること……? でも、その動物たちは元は人間で、心の魔法で心も動物にされちゃってるだけで……。でも、楽しい、悲しい、っていう気持ちは……動物になった心でも変わらない?
だから、嬉しそうな動物たちの気持ちは、心は、やっぱり本物……?
???
……一つ、はっきりしたことがある。
やっぱり、このサーカスの動物たちはみんな、昔は人間だったこと。多分、きっと、この世界に連れて来られて、無理矢理動物に変えられた上に、心の魔法まで掛けられたんだ……。
……。そして、もう一つ。
なのに気付けば、夢中になりかけている。拍手を送ろうとしている。失敗しそうになると、ヒヤッとなって、頑張って!って心の中で応援しちゃっている。そんな自分がいる。
どうしてだろう、だって、こんなサーカスが楽しいなんて、こんなのおかしいのに、変なのに。変。変だよね、こんなの……。だって始まる前、ほんの数時間前までは、見たくなんてなかったはずなのに、嫌だったはずなのに……!
それは、きっと……フィーのマジックショーとは違って、人間を変えるショーじゃないから? きっとそうだ、って思っても、心の中はもやもやし続けていて……。
「――さて、夜も更けて、いよいよ最後の一演目を残すのみとなりました。この度アニマルサーカスのフィナーレを飾るのは――」
暗がりの中で輝くカードの声に、意識が引き戻される。あれ、今の声って……。
パチッ。
スポットライトが灯る。
ステージの真ん中に立っていたのは。
ロコちゃん。
初めて、ステージの上でロコちゃんを見る。
淡い青色の髪を、さっきまでは長い三つ編みにしていたけれど。
今は全てほどいていて。かすかな風に、髪の先が揺れている。
服は、さっきの水色のオーバーオールから着替えていた。
黒と白の模様を基調にした、動きやすそうなパーティードレス。スカートも、白と黒のチェックの柄。
胸元の赤いリボンが、良いアクセントになっている。両手には、深い紺色の長めの手袋。
「……」
客席をまっすぐに見つめるロコちゃんの表情からは、緊張が伝わってくる。
「……ロコちゃん」
隣の席のフィーが、体を前に乗り出して。
「がんばれ、ロコちゃん……!」
ぽつりと呟いた。
わたしも息をのんで、ステージに再び注目する。
「……」
ロコちゃんは、ふうっと、小さく息をつくと。
右手で空中に、何かを放る様な仕草をした。
次の瞬間、ロコちゃんの頭上には握りこぶしぐらいの大きさの、白色のボールが現れて。
とすん、とまっすぐロコちゃんの左手に落ちてきた。
「……」
一呼吸置いて、ロコちゃんが左手のボールを投げる。
するとボールは頂点に来て、たった今から落下しようとするところで、空中で同じ大きさのもの二つに分裂する。そして二つとも、右手にしっかりと落ちてきた。
ロコちゃんはまたボールを放る。
二つ投げれば三つ、三つ投げれば四つ。ボールは結局、五つまで増えた。
「……」
そしてロコちゃんは、今度はその五つを順番に、空中に高く放って。それから落ちて来たのを手に取って、また投げる。
確か、ジャグリングって言うんだっけ、こういうの……。
「……」
そのままロコちゃんは淡々とそれを続けていく。手付きは正確で、ボールは狙ったところにちゃんと落ちてくる。だけど、特に変化は見られない、同じ動き。
……こんな風に思ったら、悪いって、分かってる。
だけど……エゼル団長や動物達の演目と比べると、今ひとつ、目立たないかも、しれない……。
「あっ……!」
フィーの小さな声。
ロコちゃんが初めて手元を滑らせて、ボールの一つが、大きく後ろに逸れて……。
会場全体が、どよめきに包まれる。
だけどそれは、ボールを落としてしまったからじゃない。
「きゅいっ!」
いつの間にかロコちゃんの後方の空中に現れた、緑色のカーバンクル――ルカちゃんが、後ろに逸れたボールをしっかりとキャッチしていたからだ。
「あの動物は……」「もしかして、カーバンクル?」「本当に居たんだ……!」「凄い! 私初めて見る!」「かわいい~!」
客席からはそんな声が聞こえてくる。やっぱり、この世界でもカーバンクルはとても珍しい動物らしくて、一気にお客さんの視線が集中する。
「ありがとう」
一旦ボールを全て受け止めたロコちゃんが、ふわふわと空に舞うロコちゃんの頭を撫でてあげる。
そして。
『それじゃあ――』
ロコちゃんが囁く。
『――はじめるよ』
ルカちゃんが元気に返事をして、右手を挙げた。
「ぴっ!」
それを見て、ロコちゃんはこくりと、一回頷く。
その表情は、決心と自信に満ち溢れていて。
再びボールを空中に放り投げる。
そしてロコちゃんが、そっと口を開いた。
どよめきが引いていく。
空気が、変わる。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
スーパーのビニール袋で竜を保護した
チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。
見つけ次第、討伐――のはずだった。
だが俺の前に現れたのは、
震える子竜と、役立たず扱いされたスキル――
「スーパーのビニール袋」。
剣でも炎でもない。
シャカシャカ鳴る、ただの袋。
なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。
討伐か、保護か。
世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。
これは――
ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる