病弱な悪役令息兄様のバッドエンドは僕が全力で回避します!

松原硝子

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第二部 プロローグ

プロローグ

「いいぞルイス! 最高に似合ってる!!」
ジェシーがクソデカボイスで叫ぶ。周囲の親子がぎょっとした顔で振り返るので恥ずかしい。
「今日からルイスもセントローズカレッジの生徒だ! こんなに嬉しいことはないよ!」
父上が興奮気味に叫ぶ。こっちも声が大きい。初日から悪目立ちはしたくないので勘弁してほしい。頼みの綱の母上は俺の願いなどまるで気づかずニコニコして父上に寄り添っている。
(はあ。アシュリーがここにいてくれたらなあ。きっと父上とジェシーを黙らせてくれるのに)
僕は大きなため息をついた。
残念ながら在校生のアシュリーは入学式には出席しない。
本来は両親だけが来場するはずの入学式に、なぜジェシーがいるのかは謎だ。もしかすると王立騎士団の副団長という立場をうまく利用して、どうにかしたのかもしれない。
だがとにかく目立ちたくないので、二人には静かにしてほしいのだが。
(よし、他人のふりをしよう)
僕大騒ぎする二人を置いて、早足で歩きだす。背後か叫びながらついてくる二人との距離を少しでも空けるため、競歩のようなスピードで会場のホールへ向かった。

『セントローズカレッジ』は魔法学の世界最高峰と言われる13歳から20歳までの寄宿学校だ。
入学試験も一定以上の魔力を持ち、かつ基礎的な魔力操作をできることが前提なのだが、最愛の推しこと義兄のアシュリーはもちろん、レイやルーク、ユーリも当然のように合格していた。今は4人とも中等部の3年生になっている。
僕にとっては身近な学校だったのだが、入学試験で受験者たちの血走った目を見たときは驚き、彼らに当てられて僕までやたら緊張してしまった。
そんなわけで不安と緊張で合格発表を迎えたのだが、無事合格。そして今日、めでたく入学式を迎えたのである。

セントローズの入学は前世の日本と同じで4月。4月~7月の1学期、8~9月のサマーバケーションのあとは10月~2月の2学期、3月のスプリングバケーションを経て4月の新学期となる。制服も6月までは冬服だ。
セントローズの制服はセーラータイプ。濃紺色で、襟部分が明るい水色になっている。襟には3本の白いラインが入っているシンプルなデザインだ。
他には胸元にセントローズの校章のエンブレムがついているだけ。女子は同じ濃紺色のプリーツスカートで、男子はパンツである。
外出時や式典では、この衣装に同じ濃紺色の水兵帽を被る。帽子の正面にはゴシック体で「セントローズカレッジ」と金字で書かれており、その上にはやはり金色の校章がついていた。帽子の後ろは濃紺色のリボンで結ばれているという可愛らしいデザインだ。
ちなみに正装の推しは昇天しそうなほど可愛くて、初めて見たときは興奮のあまり鼻血を出してしまったくらいなのである。
そんなことをぼんやり思いだしているうちに式が始まった。式典は異世界も前世と同じでつまらない。睡眠時間は足りているはずなのに欠伸が止まらない。
終わった後は、教室へ移動する。今日は授業があるわけではないが、1時間ほど教室で簡単なオリエンテーションと担任の紹介があるということだった。
『オリエンテーションが終わったら、教室まで迎えに行くね』
スプリングバケーションの最終日の推しの言葉を思い出す。
(はあ。先生、話長いな。早く終わってくんねーかな)
気づかれない程度にため息を吐いた瞬間、教室の後方のドアがガチャリと開いた。
皆、一斉に音のしたほうを振り返る。
「ミスターグリーンウッド、もう他のクラスはとっくにオリエンテーション終わっているぞ」
相変わらず尊大な声。
(うそだろ、なんでユーリがいるんだよ!?)
その背後からも聞き覚えのある声が聞こえる気がする。
「おいユーリ、グリーンウッド先生に失礼だろ。たとえ本当の事でも」
「レイの言う通りだよ。マジでおまえ堪え性なさすぎ」
(待て待て! レイとルークもいんのかよ!)
他人のふりを決めこもうとさりげなく前を向いた瞬間、凛とした美しい声が耳に飛び込んできた。
「ちょっとみんな、いい加減してくれ。こんなに騒いだら弟がかわいそうだ――って、ル、ルイス!?」
推しの声を聞くなり、俺は条件反射で駆け出していた。
「アシュリー兄さま! お迎えに来てくださったのですね! 会いたかったです!!」
目立ちたくないとか恥ずかしいとかいう感情は推しの声が耳に入ったと同時に霧散してしまった。
勢いよく抱き着く俺を、困惑しながらもしっかり受け止めてくれる。
「うそ……3年のクロフォード先輩じゃない!? お綺麗だわ……」
「レイ・ヴァイオレット先輩もいらっしゃるぞ。やっぱりかっこいいな」
「ハワード先輩も男っぽくていいよな。憧れるぜ」
「ギレスベルガー先輩、お噂には聞いていたけれどさすが大国の大貴族だわ。素敵……!」
教室がざわざわし始めたのに気付いてハッとする。
(まずい。そうだ、みんな学校の有名人なんだった)
「ごめんなさい、アシュリー兄さま。僕、兄さまをお見かけしたら嬉しくなってしまって、つい」
急いで離れようとするが、背中に回された腕に少し力がこめられる。
「兄さま?」
アシュリーは優しく微笑む。そして大丈夫だと言うように軽く頷いて担任へと視線を向けた。
「グリーンウッド先生、オリエンテーション中にお邪魔して申し訳ございませんでした」
フリーズしていた担任は慌てて両手を左右に振る。
大貴族の子息たちが相手だと教師も強く出ることができないのだろう。
「いえ、問題ないです。私こそ今年も長くしゃべりすぎてしまって……」
「先生、俺たちん時もすっげー長かったもんな。でも俺、先生の話聞くの好きだったよ」
「ルーク……! あなたったら、なんていい子なの……!」
白い歯を見せるルークに、担任だけでなく何人かの生徒たちの目がハートになっている。
さすがルーク。やんちゃと爽やかが同居するって性癖にはたまらないよなあ。
「オリエンテーションはこれで解散です。各自、割り当てられた寮のお部屋へ戻ってくださいね」
担任の言葉に、皆、それぞれに立ち上がった。
「じゃあ行こうか」
「はい、アシュリー兄さま!」
推しと手を繋いで歩いていると、人の多いはずの廊下が真ん中から割れていく。
(モーセの海割りじゃねーか。よく漫画で見るやつ)
ちなみに俺たちの後ろからは、なぜかユーリとレイとルークが付いてくる。
(しまった。めちゃくちゃ目立ってしまった。クソ……!)
こうして俺は自分の行動によって、「目立たず暮らす」という目標を1日目にして達成不可にしてしまったのである。
あ、でも8割ぐらいはユーリのせいだよな、うん。
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