病弱な悪役令息兄様のバッドエンドは僕が全力で回避します!

松原硝子

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第二部 1章

<4話>

ランチ前の4限は移動教室だった。自分たちの教室に戻ろうとアーノルドくんと並んで歩いていた僕に、ドンッと音を立てて背後から何かがぶつかってきた。
さらに、ドタッとものすごく派手な効果音が響く。
「痛いっ!!」
突然の衝撃に、僕も身体のバランスを崩してつんのめりそうになる。
振り返ると、茶髪の縦ロールの女の子が倒れていた。見覚えがないから、他のクラスか他の学年の子だろう。
「ちょっとあなた! 何するのよっ!」
よろよろと上半身を起こしたその子は、座り込んだまま僕に向かって叫んだ。
「えっ? 僕!?」
驚く僕の横で、アーノルドくんが舌打ちをする。
「アイツだよ、ブレイディ家のワガママクソ女」
ぶつかってきたのはあっちなのに。でも謝ったほうがいいのかとおろおろしているうちに、数名の女子が駆け寄ってきた。
「どうなさったの? エリザベスさん!」
彼女たちはアーノルドいわく“ブレイディ家のクソ女”を抱き起こす。
豪華な縦ロールとは裏腹に、とてもあっさりした顔のエリザベス嬢は、睨みつけながら人差し指を僕に向かって突き付けた。
「あの方が突然、わたくしにぶつかってきたのよ!!」
「まあひどい!!」
エリザベス嬢を取り囲む少女たちの眉が跳ね上がる。その中の一人が立ちあると、僕の目の前まで近寄ってきた。
僕よりも背が高くて、ちょっと威圧感がある。
「ちょっとあなた! 謝りなさいよ。エリザベスさんはあのブレイディ伯爵家のご令嬢なのよ!」
「あ、えと……」
気づくと僕らの周りには人だかりができている。皆、僕らの動向を野次馬根性丸出しで窺っている。転んで倒れているのは女子だ。これは明らかに僕に分が悪い。
とりあえず謝って済むなら謝ろう。
そう思って口を開きかけた僕の右腕をアーノルドくんが掴んだ。
「誰だテメェ。テメェこそ誰に向かって言ってんだよ。てかそのクソ女がコイツに体当たりしてきたんだっつの。謝んのはむしろそっちだろうが」
地を這うような低い声。
レイと同じサファイアブルーの瞳には怒りの炎が燃えている。
「あ……いえ、わたくしは……」
少女は顔をさっと青くして後ずさる。するとエリザベス嬢が叫んだ。
「さっさと謝りなさいよ! なんて厚かましいの。さすが後妻の連れ子ね! クロフォードなんて名乗っているけれど、あなたなんてアシュリー先輩と1滴も同じ血が流れていないじゃないの。それで弟づらしていい気になって……図々しいったらないわ」
転生して、ここまで面と向かって罵られのは初めてかもしれない。僕は呆然として突っ立っていることしかできなかった。
その途端、周りがざわつく。調子づいたエリザベス嬢は、立ち上がると胸を反らして意地悪く口の両端を上げる。
「あなたのお母さま、クリスティー伯爵家のご出身だったかしら。領地も王都から大分離れた、田舎貴族のくせに。ああ、お顔だけはとっても綺麗だってお話だから、クロフォード公爵様にうまく取り入ったのね。あなたの媚び上手も親譲りってとこかしら」
エリザベス嬢の取り巻き女子たちが、クスクスと笑いながらバカにした目を僕に向ける。
あまりの言われように、ショックで言葉が出てこない。僕のことはともかく、母上のことをこんな風に中傷されるなんて。
怒りよりも悲しみで、なんと言ったらいいのかわからない。
周囲の視線はすでに僕への非難と好奇に変わっている。
「おいクソ女。くだらねーこと言ってねえでさっさと消えろ。次、クソみてぇなこと言ったら女でもぶん殴るぞ」
アーノルドが一歩前に進み出て、拳と首をバキバキと鳴らしながら唸った。
だがエリザベス嬢は怯むことなくアーノルドを上目遣いで見上げる。
「まあ、アーノルド様! いけません、こんな人間にほだされては。お優しいアーノルド様は騙されていらっしゃるのですよ。クロフォードを名乗るなんて汚らわしい。アシュリー様もレイ様たちも、きっと騙されているんだわ!!」
ひときわ大きな声でエリザベス嬢が悲痛な叫びを上げた、そのとき。
「……え?」
視界いっぱいに紺色が広がった。視線を上げていくと、水色の襟、そして艶やかな銀色の髪が飛び込んでくる。
(ア、アシュリー!?)
俺を背にかばうようにして立っているのは、間違いなく推しだった。

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