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第二部 1章
<10話>※アシュリー視点
すぐに規則的な寝息が聞こえてくる。
すやすやと気持ちよさそうに眠る義弟の寝顔を、僕はじっと眺めていた。
(本当に、寝顔だけじゃなく寝息まで可愛いすぎるな。このままずっとルイスの寝顔を見ていたい)
髪と同じ金色の長いまつ毛、まだ子どもらしい丸みのあるふっくらしたバラ色の頬、小さな鼻と桜の花びらような愛らしい唇。
(ずっとこののまま、僕ら子どものままでいられたらいいのに)
いつか、レイも同じようなことを言っていた。叶うことなどないとわかっているのに、願わずにはいられない。
目にかかっている前髪を、そうっと指先で払いのけてやると、ルイスが小さく「ん……」と呻く。起こしてしまったのかと思ったが、瞼はかたく閉じられたままだった。
ホッとしたのも束の間、寝返りを打ったルイスがこっちに体を向ける。
(むかしはよく、抱きしめあって昼寝したっけ)
小さかったルイスも、もう魔法学校に通う年齢にまで成長したのだ。
それはとても素晴らしいことだけれど。
『そろそろルイスにも縁談の話が持ち上がりそうなんだよ』
この前、父と兄と三人で話をしたときのことを思い出す。
『また正式な話はきていないけれど、時間の問題だろうね』
父の執務机の上には、ルイス同伴でのお茶会やパーティーへの招待状が小山のように積まれていた。
『ルイスを参加させるんですか?』
早くにレイとの婚約が決まっていた僕には、この手の招待状は来なかった。
『いいや。夫婦で相談して、今年はすべて辞退しようということになってね。ルイスも初めての学校生活に慣れるだけでも大変だろうし、せっかくの休暇や週末を見合い前の面談のような茶会で潰すのは可哀想だろう』
『ええ。仰る通りだと思います』
言いながら、心の中でホッとしている自分がいることに気づく。
貴族の子弟であれば、今のルイスの年齢で婚約というのは決して早くない。現に僕はルイスの年齢ではすでにレイという婚約者がいた。
近い将来、ルイスは自分ではない誰かのものになってしまう。
想像するだけで胸がの中に黒いもやが広がっていく気がする。
「誰にも渡したくないなんて、僕が持っていい感情じゃないのに……」
ルイスの額にかかる髪をかき分け、そっと唇を押し付けた。
(これは寝る前の挨拶。だから大丈夫、おかしなことじゃない)
ルイスは眠ったまま、なぜか気持ちよさそうにくふくふと笑っている。
その様子があまりに純真で、可愛いらしくて、僕は今度は両頬にキスを落とした。
これも挨拶。家族や親しい友人たちにもする行為だと自分に言い聞かせる。
ほんの一瞬、軽く触れただけなのに頬は甘く桃のような匂いがする。
僕はルイスの瞼にもそっとキスを落とした。
母上がまだ生きていた頃、寝つけずにグズると同じように瞼にキスをしてあやしてくれたことを思い出す。
(だからこれも大丈夫。母上がしてくれたことだから)
心の中で呪文のように大丈夫と唱えながら、次は小さな鼻先に口づける。鼻先へのキスは祖父母が寝る前にしてくれた。
いつしか僕は無意識のうちにとても小さな声で大丈夫、大丈夫と呟いていた。
だがここまでだ。これ以上のキスは家族の範疇を超えてしまう。
わかっているのに、僕の目は桜の花びらのような薄く開いた唇から固定されたままだった。
(いつかルイスの婚約者が、この可愛らしい唇に触れるんだ)
それはとても幸せで素敵なことだ。
頭では理解しているのに、胸が苦しくてたまらなくなる。
怒りにも似た、理屈では割り切れない感情が全身に広がっていく。
いけないとわかっているのに、僕は吸い寄せられるようにルイスの唇に自分のそれを近づけていく。
あと少しでも動くと触れてしまうという距離まで近づいた瞬間、弾かれたように顔を離した。
心臓が早鐘を打っている。
「なにをしているんだ……僕は……」
物音ひとつしない室内に、掠れたうめき声がポツリと落ちる。
完璧に近い形でコントロールできていると思っていた自分の理性が欲望にぐらついたことに呆然としてしまう。
(ダメだ。僕はルイスの義兄なんだ。今はまだ……)
僕は何度も大きく深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着けると、仰向けになって目を閉じた。
すやすやと気持ちよさそうに眠る義弟の寝顔を、僕はじっと眺めていた。
(本当に、寝顔だけじゃなく寝息まで可愛いすぎるな。このままずっとルイスの寝顔を見ていたい)
髪と同じ金色の長いまつ毛、まだ子どもらしい丸みのあるふっくらしたバラ色の頬、小さな鼻と桜の花びらような愛らしい唇。
(ずっとこののまま、僕ら子どものままでいられたらいいのに)
いつか、レイも同じようなことを言っていた。叶うことなどないとわかっているのに、願わずにはいられない。
目にかかっている前髪を、そうっと指先で払いのけてやると、ルイスが小さく「ん……」と呻く。起こしてしまったのかと思ったが、瞼はかたく閉じられたままだった。
ホッとしたのも束の間、寝返りを打ったルイスがこっちに体を向ける。
(むかしはよく、抱きしめあって昼寝したっけ)
小さかったルイスも、もう魔法学校に通う年齢にまで成長したのだ。
それはとても素晴らしいことだけれど。
『そろそろルイスにも縁談の話が持ち上がりそうなんだよ』
この前、父と兄と三人で話をしたときのことを思い出す。
『また正式な話はきていないけれど、時間の問題だろうね』
父の執務机の上には、ルイス同伴でのお茶会やパーティーへの招待状が小山のように積まれていた。
『ルイスを参加させるんですか?』
早くにレイとの婚約が決まっていた僕には、この手の招待状は来なかった。
『いいや。夫婦で相談して、今年はすべて辞退しようということになってね。ルイスも初めての学校生活に慣れるだけでも大変だろうし、せっかくの休暇や週末を見合い前の面談のような茶会で潰すのは可哀想だろう』
『ええ。仰る通りだと思います』
言いながら、心の中でホッとしている自分がいることに気づく。
貴族の子弟であれば、今のルイスの年齢で婚約というのは決して早くない。現に僕はルイスの年齢ではすでにレイという婚約者がいた。
近い将来、ルイスは自分ではない誰かのものになってしまう。
想像するだけで胸がの中に黒いもやが広がっていく気がする。
「誰にも渡したくないなんて、僕が持っていい感情じゃないのに……」
ルイスの額にかかる髪をかき分け、そっと唇を押し付けた。
(これは寝る前の挨拶。だから大丈夫、おかしなことじゃない)
ルイスは眠ったまま、なぜか気持ちよさそうにくふくふと笑っている。
その様子があまりに純真で、可愛いらしくて、僕は今度は両頬にキスを落とした。
これも挨拶。家族や親しい友人たちにもする行為だと自分に言い聞かせる。
ほんの一瞬、軽く触れただけなのに頬は甘く桃のような匂いがする。
僕はルイスの瞼にもそっとキスを落とした。
母上がまだ生きていた頃、寝つけずにグズると同じように瞼にキスをしてあやしてくれたことを思い出す。
(だからこれも大丈夫。母上がしてくれたことだから)
心の中で呪文のように大丈夫と唱えながら、次は小さな鼻先に口づける。鼻先へのキスは祖父母が寝る前にしてくれた。
いつしか僕は無意識のうちにとても小さな声で大丈夫、大丈夫と呟いていた。
だがここまでだ。これ以上のキスは家族の範疇を超えてしまう。
わかっているのに、僕の目は桜の花びらのような薄く開いた唇から固定されたままだった。
(いつかルイスの婚約者が、この可愛らしい唇に触れるんだ)
それはとても幸せで素敵なことだ。
頭では理解しているのに、胸が苦しくてたまらなくなる。
怒りにも似た、理屈では割り切れない感情が全身に広がっていく。
いけないとわかっているのに、僕は吸い寄せられるようにルイスの唇に自分のそれを近づけていく。
あと少しでも動くと触れてしまうという距離まで近づいた瞬間、弾かれたように顔を離した。
心臓が早鐘を打っている。
「なにをしているんだ……僕は……」
物音ひとつしない室内に、掠れたうめき声がポツリと落ちる。
完璧に近い形でコントロールできていると思っていた自分の理性が欲望にぐらついたことに呆然としてしまう。
(ダメだ。僕はルイスの義兄なんだ。今はまだ……)
僕は何度も大きく深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着けると、仰向けになって目を閉じた。
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