病弱な悪役令息兄様のバッドエンドは僕が全力で回避します!

松原硝子

文字の大きさ
29 / 67
第二部 2章

<2>

「俺たち今日、二人だけでメシ食うから」
次の日、いつものようにランチタイムに僕らを迎えにきた兄さんズにアーノルドは片手を上げて言い放った。
「は!?」
レイが青い瞳を見開く。隣に立つアシュリーも戸惑ったような表情を浮かべている。
「ルイス、どういうこと?」
すみれ色の目が俺の向けられる。
「あ、あの。今日はちょっと二人だけで話したいことがあって……」
「僕らには話せないことなの?」
推しの寂しそうな顔に胸が痛む。つらい。だがこれも推しのために必要なことなのだと言い聞かせる。
「おまえたちだけで話すなんて、どうせ碌なことじゃないだろう」
「うっせえな、クソ老害」
ユーリの煽るような言い方にアーノルドが片眉を上げた。
「身の程をわきまえられないクソガキよりはましだと思うが?」
「あーもう! おまえらそのへんにしとけって! ルイスとアーノルドだって、たまには同い年の男同士、語り合いたいときだってあるんじゃね? それに、今日だけだろ? 明日はまた一緒に食えるんだよな?」
ルークの言葉に、俺たちは頷く。
「だったら1日ぐらい別にいいじゃん! 俺たちもたまには水入らずで語ろうぜ!」
ルークはユーリの肩に腕回し、もう片方の手でレイとアシュリーの背中を押した。その勢いに押されるように、推したちは食堂へ向かって歩きはじめる。
ルークは一度だけ振り返ると、俺たちに向かってウインクをした。
「俺たちも行くぞ」
アーノルドは俺の腕を引っ張って、食堂とは反対方向に歩きだす。
「ちょ、ちょっと待って……」
未練がましく推しのほうを何度も振り返ってしまう。
「たかが昼休みだぞ。明日にはまた嫌でも一緒にメシ食うんだし。耐えろ」
アーノルドくんは無情に言い放って、腕に力を込めた。


「思ったよりまともな活動してそうだな」
中庭の大きなリンゴの木の下、赤と白のギンガムチェックのクロスの上であぐらをかいたアーノルドが、クラブのパンフレットを真剣に読んでいる。
周囲ではランチタイムを屋外で楽しもうという生徒たちがあちこちで同じようにクロスを敷いている。
食堂だけでなく、ランチは学内に設置されているベーカリーでも買えるし、事前に申請すれば食堂でランチボックスも作ってもらえるのだ。
クラブ活動の話は推したちのいるところでは話すのが難しい。
でも授業の合間の休み時間では話す足りなくて、今日のランチタイムを利用することにしたのだ。
アーノルドは僕からパンフレットを奪い取ると、再び説明文を読み始める。
「クラブ活動で許可された魔法を使って、自分が作りたいものをなんでも作ることができます……か。なるほどな。何を作ってもいいってことは武器も作れんのか?」
「それは知らないけど、パンフレットには何でもって書いてあるから作れるんじゃない?」
「それなら悪くねえな。名前はクソだせえけど。で、メシは」
パンフレットから顔を上げたアーノルドくんが催促してくる。
「はいはい、ちょっと待ってね」
持ってきたハンパーというフタつきのバスケットを開ける。まずは皿やナイフ、フォークを取り出し、料理の入った容器を並べていく。
アーノルドのご機嫌取りも兼ねているので、彼の好きなそうなものを用意してみた。
寄宿舎には共同で使用できるキッチンがある。
今朝はアーノルドのご機嫌取りのためにキッチンで料理作りに勤しんだ。
「なんだこれ」
バーガーを手に取ったアーノルドが首を傾げる。
「食べればわかるよ。どうぞどうぞ」
疑わし気な目をこっちに向けつつも、アーノルドは素直にハンバーガーにかじりつく。
「エビか!? うまい!!」
「正解。エビバーガーを作ってみたんだ」
ガーリックオイルで千切りにしたじゃが芋とエビを焼いて、それにチーズを加える。その後、マヨネーズで和えた千切りキャベツと一緒にバーガー用のパンに挟んでみたのだ。
あっという間に食べ終えたアーノルドは別のパンに手を伸ばす
「これはなんだ」
「カレーパンだよ」
「あ? なんだそれ。カレーはライスかナンと食うもんだろ」
「いいからいから。食べてみて」
前世、動画で見てからやってみたいと思っていた簡単カレーパンだ。
ひき肉とタマネギを炒めてドライカレーに近い具を作る。それをめん棒で伸ばした食パンに挟み、端をフォークで潰してくっつける。そうして具をパンの中にしっかり閉じ込めてから少ない油で揚げ焼きにするのだ。
「これもうっま!! カレーとパンがこんなに合うなんて知らなかったぜ!」
興奮した様子のアーノルドは、串に刺した一口サイズのトルティーヤ、キノコのマリネ、ズッキーニとトマトのサラダ、ツナとキュウリとハーブのサラダとどんどん平らげていく。
いつも思うけれど、この細くて小さな体のどこにこんなに食料が入っていくんだろう。
いつかレイが「コイツの胃袋はブラックホールだ」と言っていたのを思い出す。
「うまかった! 食堂のメシもクソうまいけど手作りのメシは違ううまさがある」
「でしょ? 手作りクラブに一緒に入ってくれたら、クラブの時間にアーノルドくんが好きなものを作ってあげる」
アーノルドくんは少し考え込むような様子で右上を睨んでいたが、やがて俺に視線を移す。
「わかった。俺もクソダサクラブに一緒に入ってやる」
「ほんと!? ありがとう!!」
「強ぇ武器作って、クソ兄貴とおまえのクソ従兄弟をぶっ飛ばしてやる」
そういうとアーノルドは邪悪な笑みを浮かべる。
「レイ先輩をぶっ飛ばすのはやめてね」
そんなことをしたら推しが悲しむ。アーノルドくんは驚いたような顔で俺を見た。
「なんでだよ。まさかおまえ、クソ兄貴に惚れてんのかよ!? 趣味悪っ!」 
「違うよ。なんでそうなるの! レイ先輩がぶっ飛ばされたらアシュリー兄さまが悲しむだろ」
「そうかあ?」
「そうだよ。あの二人は思い合ってるんだから」
アーノルドはなぜかあ然とした表情で俺を見る。
「おまえ、鈍感すぎるって言われないか」
「いきなりなんの話だよ。言われたことないけど」
「そうかよ。なんでもいいけど、俺のことはこれ以上巻き込むなよ」
アーノルドはよくわからないことをブツブツ言いながら、デザートのアップルパイに手を伸ばした。
感想 59

あなたにおすすめの小説

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

ただのハイスペックなモブだと思ってた

はぴねこ
BL
 神乃遥翔(じんの はると)は自分のことをモブだと思っていた。  少年漫画ではいつだって、平凡に見えて何か一つに秀でている人物が主人公だったから。  その点、遥翔は眉目秀麗文武両道、家も財閥の超お金持ち。  一通りのことがなんでも簡単にできる自分は夢中になれるものもなくて、きっと漫画のモブみたいに輝く主人公を引き立てるモブのように生きるのだと、そう遥翔は思っていた。  けれど、そんな遥翔に勉強を教わりに来ている葛城星 (かつらぎ ほし)は言った。 「BL漫画の中では、神乃くんみたいな人がいつだって主人公なんだよ?」  そう言って、星が貸してくれた一冊のBL漫画が遥翔の人生を一変させた。  自分にも輝ける人生を歩むことができるのかもしれないと希望を持った遥翔は、そのことを教えてくれた星に恋をする。  だけど、恋をした途端、星には思い人がいることに気づいてしまって……  眉目秀麗文武両道で完璧だけど漫画脳な遥翔が、お人好しで気弱な星の心に少しずつ少しずつ近づこうと頑張るお話です。

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

おひめさまな俺、帝王に溺愛される

  *  ゆるゆ
BL
帝王陛下に捧げられることになった小国の王族レイには、大変な問題が──! ……男です。

声を失った悪役令息は北の砦で覚醒する〜無詠唱結界で最強と呼ばれ、冷酷侯爵に囲われました〜

天気
BL
完結に向けて頑張ります 5月中旬頃完結予定です その後は、サイドストーリーをちょこちょこ投稿していこうと思ってます

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)