病弱な悪役令息兄様のバッドエンドは僕が全力で回避します!

松原硝子

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第二部 2章

<12>

「なんでこんな日に……クソ。元医者のくせに体調管理もできないなんて」
歯ぎしりしながら部屋で一人、自虐の言葉を口にする。
本日は推しであり義兄のアシュリー・クロフォードの誕生日だ。
1年でもっとも大切と言っても過言ではないその日に、なんと俺は寝込んでしまったのだ。
正確には誕生日の前日の午後から。朝からなんとなく怠く重かった体は、時間が経つにつれてどんどん動かなくなっていった。
そうして夕方には高熱を出し、深夜に寮に常駐している医師に薬を処方されたのである。
診察の結果は、『魔力切れ』。
短期間で魔力を使いすぎることで体内の魔力が底を尽く。そうすると一時的に免疫力や抵抗力が著しく低下して風邪のような症状が出るのだ。
解熱剤を服用し、2~3日ゆっくりと休養すれば回復するもので命に別状はない。
だが少しでも起き上がろうとすると、めまいのように視界がぐるぐる回り気持ちが悪くなる。
「クラクラする……それに気持ち悪ぃ」
喉が渇いてカラカラなのに、起き上がって水差しを手にすることすらできない。
諦めて大きなため息を吐いて天井を睨みつけていると、控えめなノック音が聞こえた気がした。
音がしたほうへゆっくりと顔を向ける。再び、コンコンと小さな音がする。
「はい」
久しぶりに発した声は掠れていて、ドアの向こうに聞こえるかはわからない。
ややあって、静かに扉が開いた。
薄闇の中、誰かがベッドに向かってゆっくりと歩いてくる。
「ごめんね。起こしちゃったかな」
優しい声が耳に心地良い。
「アシュリー兄さま……?」
「うん。心配で様子を見に来ちゃった。寝ていたら、寝顔だけ見て帰ろうと思っていたのだけど」
「いえ。さっき目が覚めたところです」
元気よく返事をしたいのに掠れた声しか出てこない。
「ひどい声だね……かわいそうに。水は飲んだの?」
「いいえ。起き上がろうとすると、めまいがしてしまって……」
「僕が起こしてあげる」
推しは片膝を折ってベッドに乗り上げると、俺の首の下に片腕を差し入れた。
「ありがとうございます、兄さま」
「無理して声を出さなくていいからね」
推しは俺の体をそっとヘッドボードに寄りかかるようにさせて、サイドテーブルから水の入ったグラスを持ってきてくれる。
「大丈夫? 自分で持てる?」
頷くと、注意深くグラスを手渡してくれた。
ゆっくりと飲み干してホッと息を吐く。
「どう? 少しはラクになった?」
推しは優しく微笑むと、空になったグラスを俺の手からそっと引き抜いて再び寝かせてくれる。
「はい、ありがとう、ございます……」
(本当なら今夜は皆で推しのサプライズ誕生日会で盛り上がっているはずだったのに)
それなのに誕生日会は俺のせいで延期。
しかも今日の主役であるはずの推しに心配をかけて世話まで焼かせている。
いつもなら身に余る光栄のはずの推しの優しさが、今夜は少し苦しい。
自分が情けなくて悔しくて、目元が熱くなっていく。
「ルイス!? どうしたの、どこか痛むの!?」
ぼやけた視界に焦ったような表情の推しの顔が広がった。
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