病弱な悪役令息兄様のバッドエンドは僕が全力で回避します!

松原硝子

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第二部 2章

<13>

「ち、違います……兄さまに、申し訳なくて……っぐす」
声を出すと、さらに目から涙が溢れていく。
「僕に?」
「はい……きょ、きょうは、兄さまの、お、おたんじょうび、なのに……っく」
推しは驚いたように目を見開き、それから安堵の表情を浮かべる。
「なんだ、そんなこと。ルイスは気にしなくていいんだよ。僕は別に誕生日なんて――」
「そんなことじゃありませんっ!!」
突然の大声に、推しの動きがピタリと止まる。
「大事なことです! 兄さまのお誕生日は、一年でいちばん大事な日なんです!! それなのに、僕は….僕のせいで…」
再び泣きじゃくる俺の右手を推しが優しく握った。
「ごめんね、ごめん。ルイスが僕の誕生日をそんなに大切に想ってくれていたなんて知らなかったんだ。ありがとう」
「う…うぇ……」
涙が止まらない。言葉では伝えられそうにないので手を握り返す。アシュリーはそれに応えるかのように少し強く握り返してくれた。
壁掛け時計のフクロウがホーホーと9度鳴いた。あと数時間で推しの誕生日が終わってしまう。
(プレゼント、いま渡そうかな)
こんな形にはなってしまったけれど、タイミングとしてはちょうどいいかもしれない。
「アシュリー兄さま、サイドテーブルの上から2番目の引き出しを開けてみていただけますか?」
「うん、わかった」
繋がれていた手がゆっくりと離れていく。名残り惜しいけれど仕方がない。
引き出しを開けたアシュリーが俺の方を見る。
「箱が入ってるけど、これを持っていけばいいの?」
「はい」
「わかった」
戻ってきた推しは俺の手に小さな箱を載せてくれた。
薄紫色の箱には白銀のリボンがかけられている。ラメが入っているのでぼんやり明るい室内でもキラキラ輝いて見えた。
俺は箱を載せた手を、推しの方へ差し出す。
「え?」
こんなに驚いた推しの顔を見たのは初めてかもしれない。
「こんな形になってごめんなさい。お誕生日おめでとうございます、アシュリー兄さま」
アシュリーは黙ったまま俺を見て固まっている。
「アシュリー兄さま?」
もう一度呼びかけるとハッとした表情になった。
「ごめん。まさかルイスからプレゼントをもらえるなんて思ってなくて…」
推しはおずおずと手を伸ばしてプレゼントの小箱を両手で受け取る。
「なんだろう…開けてみてもいい?」
「はい」
推しの白く長い指がリボンの端に掛けられた。ウィリアムズ先輩もバーロウ先輩も褒めてくれたし、何度もやり直したから大丈夫なはず。そう思うのに心音はスピードを上げる。
絹のリボンは音もなくほどけ、箱の蓋が開く。
箱の中身を見た推しが小さく息を呑む。しばらくして推しはゆっくりと目を上げた。
「ルイス、これ……どうしたの?」
「ウィリアムズ先輩とバーロウ先輩に教えてもらいながら、作ったんです」
「作った……? ルイスが?」
推しのすみれ色の目が限界まで見開かれる。
「はい。兄さまがお部屋でよく、レイ先輩からいただいたブローチの本をご覧になっていたので……いつかプレゼントしたかったんです」
「石はどうやって集めたの?」
「先輩たちに教えていただいて魔宝石を創りました。何回も失敗して、すごく時間がかかってしまって」
「もしかして、ルイスが魔力切れを起こしたのって……」
「はい。たくさん失敗したせいで魔力をかなり消耗してしまったみたいです。本当は今日、皆と兄さまのサプライズパーティーも準備していたんです。なのに僕が寝込んだせいで……あ、言っちゃった」
サプライズパーティーは中止ではなく延期になったのについうっかり漏らしてしまった。
推しは手に持ったブローチをじっと眺めている。その表情からは何を思っているのかを読み取ることができない。
(どうしよう……もしかして気に入らなかったのかな)
不安になって話しかけようと口を開きかけた瞬間、薄紫の瞳から水晶の粒みたいな涙がぽろりと落ちる。。
「兄さま!?」
堰を切ったように零れ落ちる涙に俺はぎょっとして叫んだ。推しは視線を上げることなく、はらはらと黙ったまま涙を零していた。
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