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第二部 2章
<14>
やがて推しはゆっくりと顔を上げた。
泣いたせいで瞳がいつも以上にキラキラと輝いて見える。悲しくて泣いているかもしれないのに、不謹慎にもそんな推しはこの世のものとは思えないほど儚く、美しく見えた。
「ごめんね……とても、嬉しくて。すごく綺麗だ。それに僕の好きなライラックの花にしてくれたんだね」
「はい。花の一つひとつが小さいので、小さい花を一つひとつ大きさを合わて作ったりするのも大変でした」
「そうだよね……ありがとう、本当に」
推しは大切そうにブローチをそっと撫でると、ナイトガウンの上に羽織っていたカーディガンの襟元に付けた。
「どうかな。似合ってる?」
「はい! とっても!!」
推しの胸元で、ライラックの花が控えめに輝いている。付けてくれたことがうれしすぎて声が高くなる。
「アシュリー兄さま、お誕生日おめでとうございます。この1年も兄さまがずっと幸せでいますように」
満面の笑みを向けると、推しの瞳からまた綺麗な雫が零れた。
「す、すみませんっ!」
「大丈夫だよ、ごめんね。僕は今、嬉しくて幸せで泣いているんだ……嬉しすぎると泣きたくなるなんて知らなかった。だから心配しないで」
「兄さま……」
義弟の手作りプレゼントを泣くほど喜んでくれる義兄なんて、きっとこの世界を探しても推しだけなんじゃないだろうか。
(まるで聖母だな。男だけど)
泣き笑いの顔から目が離せないでいると、推しはゆっくりと立ち上がる。
「ありがとう、ルイス。今まででいちばん幸せな誕生日だよ。このブローチは一生、大切にする」
推しは幸せそうに胸元のライラックに目を落とす。
「そろそろ部屋に戻るね。ルイスはゆっくり休むんだよ。お礼は元気になったらたくさんするから楽しみにしているんだよ」
心地よい冷たさの指が、額にかかる前髪を払いのけてくれる。
(帰っちゃうの、寂しいな……)
だがくるりと背を向けた推しは、戸惑ったように振り返った。
「ルイス?」
「はい? どうかしましたか?」
「その……手を、離してくれる?」
「え?」
なんのことだろう。目線を辿っていくと、自分の手が推しのカーディガンの裾を掴んでいた。
(まじか! 無自覚だった!)
「すすすすみません、兄さま」
慌ててパッと手を離す。
「ルイス、もしかして寂しいの?」
「う、や……はい」
どうやら熱でいつもより甘えたになってしまっているようだ。普段なら「いいえ!」と言えるのに、今日は正直に気持ちを吐露してしまった。
推しは少し考えるように視線を巡らせていたが、やがて少し困ったよう微笑んだ。
「回復の妨げになるといけないから、ルイスが眠るまで側にいてあげる」
「いいのですか!?」
「うん。でも眠るまでだよ? 残念だけどおしゃべりは元気になってからたくさんしようね?」
「はいっ! あ、でもそこにずっと座っているのは兄さまのお体によくないです。兄さまもどうぞ」
ベッドはとても大きいので、体をずらさなくても隣に人一人横になれるぐらいのスペースはある。
「え」
だが推しはピシリと固まってしまった。
「ごめんなさい……わがままを言い過ぎました」
「い、いや! わがままだなんて思ってないよ」
「本当ですか!? よかったです、じゃあどうぞ」
上掛けの端を軽く持ち上げると、推しはなにかに耐えるように唇を噛んで目を閉じる。そうして、「んんっ」と小さく呻くと胸のブローチを外して箱にしまうと、俺の隣に身を滑り込ませた。
「兄さまと一緒にベッドに入るの、久しぶりで嬉しいです」
ぐっと距離が近くなったビスクドールのような美貌に語りかける。
「そ、そうだっけ……」
推しはぎこちなく答えると、仰向けの姿勢のまま、顔を反対に向ける。
「兄さま、どうしてこっちを見てくださらないのですか。寂しいです」
推しはなぜか深いためいきを吐き、目元を片手で覆う。
「もう、ルイスは僕をどうしたいんだ……」
「へ?」
小さな声で何か言った推しに聞き返すと、なんでもないとはぐらかされる。
「お願いです、こっちを向いてください。寂しいです」
もう一度お願いすると、推しはゆっくりと俺のほうに体ごと向きを変えてくれた。
嬉しくなってぴったりと身を寄せる。本当は今すぐ抱きつきたいけれど、頭痛とだるさのせいでそうもいかない。
「兄さま、手を繋いでもいいですか?」
なぜかしばしの沈黙の後、推しはなにかを押し殺すような声で「いいよ」と返事をしてくれた。
俺は推しの左手をぎゅっと繋ぐ。繋いだところからあたたかいパワーが体中に満ちていくようで、少し気分がよくなってくる。
同時に急激に眠くなってしまう。そんな俺の様子に気づいたのか、笑いを含んだ優しい声が耳元で響いた。
「おやすみ、ルイス」
「おやすみなさい、アシュリー兄さまぁ……」
プレゼントは当日になんとか渡すことはできた。けれど結局は今日も俺のほうが甘やかされてしまった気がする。
(来年こそは推しの誕生日を完璧に祝ってみせる……!)
そんな決意を胸に、俺は完全に眠りの世界へと飛び立ったのだった。
泣いたせいで瞳がいつも以上にキラキラと輝いて見える。悲しくて泣いているかもしれないのに、不謹慎にもそんな推しはこの世のものとは思えないほど儚く、美しく見えた。
「ごめんね……とても、嬉しくて。すごく綺麗だ。それに僕の好きなライラックの花にしてくれたんだね」
「はい。花の一つひとつが小さいので、小さい花を一つひとつ大きさを合わて作ったりするのも大変でした」
「そうだよね……ありがとう、本当に」
推しは大切そうにブローチをそっと撫でると、ナイトガウンの上に羽織っていたカーディガンの襟元に付けた。
「どうかな。似合ってる?」
「はい! とっても!!」
推しの胸元で、ライラックの花が控えめに輝いている。付けてくれたことがうれしすぎて声が高くなる。
「アシュリー兄さま、お誕生日おめでとうございます。この1年も兄さまがずっと幸せでいますように」
満面の笑みを向けると、推しの瞳からまた綺麗な雫が零れた。
「す、すみませんっ!」
「大丈夫だよ、ごめんね。僕は今、嬉しくて幸せで泣いているんだ……嬉しすぎると泣きたくなるなんて知らなかった。だから心配しないで」
「兄さま……」
義弟の手作りプレゼントを泣くほど喜んでくれる義兄なんて、きっとこの世界を探しても推しだけなんじゃないだろうか。
(まるで聖母だな。男だけど)
泣き笑いの顔から目が離せないでいると、推しはゆっくりと立ち上がる。
「ありがとう、ルイス。今まででいちばん幸せな誕生日だよ。このブローチは一生、大切にする」
推しは幸せそうに胸元のライラックに目を落とす。
「そろそろ部屋に戻るね。ルイスはゆっくり休むんだよ。お礼は元気になったらたくさんするから楽しみにしているんだよ」
心地よい冷たさの指が、額にかかる前髪を払いのけてくれる。
(帰っちゃうの、寂しいな……)
だがくるりと背を向けた推しは、戸惑ったように振り返った。
「ルイス?」
「はい? どうかしましたか?」
「その……手を、離してくれる?」
「え?」
なんのことだろう。目線を辿っていくと、自分の手が推しのカーディガンの裾を掴んでいた。
(まじか! 無自覚だった!)
「すすすすみません、兄さま」
慌ててパッと手を離す。
「ルイス、もしかして寂しいの?」
「う、や……はい」
どうやら熱でいつもより甘えたになってしまっているようだ。普段なら「いいえ!」と言えるのに、今日は正直に気持ちを吐露してしまった。
推しは少し考えるように視線を巡らせていたが、やがて少し困ったよう微笑んだ。
「回復の妨げになるといけないから、ルイスが眠るまで側にいてあげる」
「いいのですか!?」
「うん。でも眠るまでだよ? 残念だけどおしゃべりは元気になってからたくさんしようね?」
「はいっ! あ、でもそこにずっと座っているのは兄さまのお体によくないです。兄さまもどうぞ」
ベッドはとても大きいので、体をずらさなくても隣に人一人横になれるぐらいのスペースはある。
「え」
だが推しはピシリと固まってしまった。
「ごめんなさい……わがままを言い過ぎました」
「い、いや! わがままだなんて思ってないよ」
「本当ですか!? よかったです、じゃあどうぞ」
上掛けの端を軽く持ち上げると、推しはなにかに耐えるように唇を噛んで目を閉じる。そうして、「んんっ」と小さく呻くと胸のブローチを外して箱にしまうと、俺の隣に身を滑り込ませた。
「兄さまと一緒にベッドに入るの、久しぶりで嬉しいです」
ぐっと距離が近くなったビスクドールのような美貌に語りかける。
「そ、そうだっけ……」
推しはぎこちなく答えると、仰向けの姿勢のまま、顔を反対に向ける。
「兄さま、どうしてこっちを見てくださらないのですか。寂しいです」
推しはなぜか深いためいきを吐き、目元を片手で覆う。
「もう、ルイスは僕をどうしたいんだ……」
「へ?」
小さな声で何か言った推しに聞き返すと、なんでもないとはぐらかされる。
「お願いです、こっちを向いてください。寂しいです」
もう一度お願いすると、推しはゆっくりと俺のほうに体ごと向きを変えてくれた。
嬉しくなってぴったりと身を寄せる。本当は今すぐ抱きつきたいけれど、頭痛とだるさのせいでそうもいかない。
「兄さま、手を繋いでもいいですか?」
なぜかしばしの沈黙の後、推しはなにかを押し殺すような声で「いいよ」と返事をしてくれた。
俺は推しの左手をぎゅっと繋ぐ。繋いだところからあたたかいパワーが体中に満ちていくようで、少し気分がよくなってくる。
同時に急激に眠くなってしまう。そんな俺の様子に気づいたのか、笑いを含んだ優しい声が耳元で響いた。
「おやすみ、ルイス」
「おやすみなさい、アシュリー兄さまぁ……」
プレゼントは当日になんとか渡すことはできた。けれど結局は今日も俺のほうが甘やかされてしまった気がする。
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そんな決意を胸に、俺は完全に眠りの世界へと飛び立ったのだった。
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