病弱な悪役令息兄様のバッドエンドは僕が全力で回避します!

松原硝子

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第二部 3章

<2>

「夏休み、おまえはどっか行くのか?」
2年のオーウェン先輩に指導を受けながらクッキー生地を伸ばしていると、隣で同じように作業していたアーノルドが話しかけてきた。
「夏休み? どうだろ。今のところは特に予定はないけど……ですよね、アシュリー兄さま」
すぐ近くでレイと作業をしていた推しに話しかける。
推しは小首を傾げて少し考えた後、頷いた。
「そうだね。特に旅行や遠出の予定はないと思うけれど」
「だってよクソ兄貴。なら誘っていいんじゃねーの?」
アーノルドがレイを見る。
「ああ。おまえたち、俺たちと一緒に別荘で夏休みを過ごさないか?」
「どこの別荘だ」
ユーリが横から口を挟んでくる。
「今年はベイトアイト海の見える別荘で過ごす予定だ。といっても父上と母上はお忙しいから行くのは俺たちだけだが」
「クソ兄貴と2週間も二人だけなんて耐えらえねえ。頼む、ルイスも来てくれ。クロフォード先輩もお願いします!」
俺と推しは顔を見合わせる。
「どうしようか、ルイス」
「僕、まだ海を見たことがないので行ってみたいです!」
もちろん前世では海には何度も行ったことがある。だがルイスとしてはまだ一度も行ったことがないので、嘘はついていない。
それに、レイと推しの仲をさらに深める絶好の機会ではないだろうか。
「おい、クソチビ。この俺を無視するとはいい度胸だ」
ユーリは圧のある笑顔でアーノルドの頭を片手で掴む。最近、ユーリは俺のことはただの「チビ」、アーノルドのことを「クソチビ」と呼んでいる。
「ってえ! なにすんだよ怪力ゴリラが! 離せ!!」
「なら俺も誘え。まあ誘われなくても行ってやるがな」
ギャーギャーと騒ぐ二人は、仲がいいのか悪いのかよくわからない。
「問題ないと思うけれど、父上に連絡をして聞いてみるよ」
「ああ。ルークも来るだろ?」
レイはノートを広げて頭を抱えているルークに声をかけた。
「んぁ? ごめん、なんも聞いてなかった。俺やっぱ魔法史ほんとダメだわ。レイ、助けて~」
眉を八の字にしたルークがレイに縋りつく。
「あとで教えてやる。今の話は夏休みの話だ。2週間ほど別荘で過ごすんだが、おまえも来こないか?」
「えっ!? 俺も行っていーの? やった! いちおう父上たちに聞いてみるけど多分問題ないと思うわ」
「ああ。人数が多いほうが退屈しないだろう」
俺たちのやりとりを見守っていたクッキーをオーブンに入れながらオーウェン先輩が微笑む。
「いいですね。楽しい夏休みなりそうで羨ましいです」
その言葉に推しがポンと手を打つ。その仕草がめちゃくちゃ可愛い。
「ロビーたちも一緒に来たらどうかな。クラブのみんなで行ったらもっと楽しくなりそうじゃない? どうかなレイ」
「名案だな。無駄に大きな別荘だから部屋には困らないし、リゾート地では人数が多いほうが楽しめることが多い。ということで、リンチもマークもジェイソンもよかったら来てくれ」

そうして、今に至るのである。
「なにをぼんやりしている、チビ。あと少しで到着するぞ。もう屋敷が見えてきた」
ユーリの声にハッとする。
「えっ!?」
「ほら、見てみろ」
ユーリの指差す方向に視線を向けると、真っ白な壁に目の覚めるような青い屋根の大きな屋敷が現れる。
屋根の中央に金色の大きな「V」の字が刻印されているところを見ても、ヴァイオレット家の別荘に違いない。
「うわあ、すごい……!」
思わず感嘆の声を漏らす俺の横で、推しも目を輝かせている。
こうして俺たちの長い夏休みは幕を開けたのだった。
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