病弱な悪役令息兄様のバッドエンドは僕が全力で回避します!

松原硝子

文字の大きさ
50 / 67
第二部 3章

<9>

薄暗い屋敷の中を進み、3階の奥の部屋にあるカードを取る。それから入口とは別の通用口から出て肝試しは終わりである。
子ども向けなんだから仕方がないが、なんとも歯ごたえのない肝試しだなと思いながら見えてきて出口に向かって歩く。
(本当、大したことなかったな。もうちょっと怖くてもよかったのに)
だが次の瞬間、俺の足はぴたりと止まった。
「ひっ」
俺の目の前をものすごい速さで横切った、黒光りする虫。体と同じくらい長く気味の悪い触覚。間違いない。アイツだ。まさかここにアイツがいるなんて。油断した。
「ルイス? どうしたの?」
突然立ち止まったことを不審に思ったのか、推しが俺の顔を覗き込んでくる。
「あ、あ……コ……コココ……」
「コ?」
「ぎゃーーっ!!」
床に着地していたアイツ、つまり信じられないくらい大きなゴキブリが数匹、カサカサと床を這いまわり始める。
この世界ではアイツらは「コックローチ」という名で呼ばれているが、前世のように全人類から忌み嫌われている様子がない。だが俺は無理。死ぬほど苦手。
というかこの世界に来てから初めて遭遇した気がする。相変わらず気持ち悪い。
靴のつま先をアイツらが掠めた瞬間、俺は我を忘れて飛び上がってしまった。
「ひぃっ!!」
「ル、ルイス?」
困惑したような声が頭上から聞こえる。
「あ、わ、わぁーーー!! ごごごごめんなさい!!」
その瞬間、自分が恐怖のあまり隣に立つ推しに、まるで木に登ったコアラのような体勢で抱きついてしまったことに気づく。
慌てて離れようとするが、まだやつらが潜んでいるかと思う怖くてたまらない。
その様子に気づいたのか、推しは正面から抱きついている俺を抱えるようにして抱っこしてくれた。
「え、あ! 兄さますみませんっ!! すぐ降りるので離していただいて大丈夫ですから!!」
体を動かそうともがくが、降りることができない。
「あ、あの……アシュリー兄さま?」
恐る恐る目線を上げる。こんな情けない姿を晒した義弟にさぞかし呆れただろうと思ったのに、すみれ色の目はなんだか嬉しそうに見える。
「大丈夫。なにか怖いものでも見えたんだね? もうすぐ出口だし、このまま運んであげる」
「えッ!!」
ユーリやアーノルドに揶揄われる未来がリアルに想像できる。
「だ、大丈夫です。ひ、一人で歩け――ひぃーーっ!!」
片足を床に降ろそうと試みた瞬間、カサカサ……と少し離れたところで何かが蠢く音がした。
その途端、俺は再び推しにしがみついてしまう。それにしてもこんなに綺麗な顔でアイツらをものともしないなんて、俺の推しが男前すぎる。綺麗でかっこいいって最強だろ。
「ほらルイス。無理しないで。それにこのまま立ち止まっていたら、シェーンやマークにおいつかれてしまうよ」
「あ……」
話している側から、誰かの話し声が微かに聞こえてくる。
「いいね、ルイス。このまま進むよ?」
「う、あ……はい……ごめんなさい」
かくして俺はまるで子ザルのように正面から推しに抱っこされたまま、肝試しを終えたのだった。
俺たちが姿を現した瞬間、ユーリやアーノルドはもちろん、レイにも呆れたように笑われたし、オーウェン先輩まで俯いて肩を震わせていた。
始まる前は、自分が守るなんて息巻いていたくせに、情けなさすぎる。
俺は前世から大嫌いなアイツを克服する方法を真剣に考え始めたのだった。
感想 59

あなたにおすすめの小説

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

ただのハイスペックなモブだと思ってた

はぴねこ
BL
 神乃遥翔(じんの はると)は自分のことをモブだと思っていた。  少年漫画ではいつだって、平凡に見えて何か一つに秀でている人物が主人公だったから。  その点、遥翔は眉目秀麗文武両道、家も財閥の超お金持ち。  一通りのことがなんでも簡単にできる自分は夢中になれるものもなくて、きっと漫画のモブみたいに輝く主人公を引き立てるモブのように生きるのだと、そう遥翔は思っていた。  けれど、そんな遥翔に勉強を教わりに来ている葛城星 (かつらぎ ほし)は言った。 「BL漫画の中では、神乃くんみたいな人がいつだって主人公なんだよ?」  そう言って、星が貸してくれた一冊のBL漫画が遥翔の人生を一変させた。  自分にも輝ける人生を歩むことができるのかもしれないと希望を持った遥翔は、そのことを教えてくれた星に恋をする。  だけど、恋をした途端、星には思い人がいることに気づいてしまって……  眉目秀麗文武両道で完璧だけど漫画脳な遥翔が、お人好しで気弱な星の心に少しずつ少しずつ近づこうと頑張るお話です。

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

おひめさまな俺、帝王に溺愛される

  *  ゆるゆ
BL
帝王陛下に捧げられることになった小国の王族レイには、大変な問題が──! ……男です。

声を失った悪役令息は北の砦で覚醒する〜無詠唱結界で最強と呼ばれ、冷酷侯爵に囲われました〜

天気
BL
完結に向けて頑張ります 5月中旬頃完結予定です その後は、サイドストーリーをちょこちょこ投稿していこうと思ってます

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)