病弱な悪役令息兄様のバッドエンドは僕が全力で回避します!

松原硝子

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第二部 3章

<10>※アシュリー視点

肝試しを終え、自室戻って着替えをしていたそのとき。
脱いだ上着の襟元に、あるはずのものがないことに気づいた。
ルイスから誕生日プレゼントでもらった、大切なライラックのブローチ。
毎日その日着るジャケットの襟に付けていたはずのそれが見つからない。
(まさか、どこかに落とした……?)
体中からどっと冷や汗が噴き出し、鼓動が早くなる。
クローゼットにかかっている上着やポケットの中、それにアクセサリーケースを確認してもブローチは見つからなかった。
(落ち着け……)
大きく深呼吸しながら目を閉じて、朝からの行動を思い返してみる。
朝、ブローチは確かにあった。
アクセサリーケースから取り出して上着に自分で付けたことをはっきり覚えている。
だから間違いない。
昼間、みんなで遊んだときは上着を脱いでいたし、もう一度身に着けるときにもブローチはあった。
となると、落としたのはその後ということになる。
午後に海辺を散策したときか、テラスで夕食を食べたときか、肝試しか。
おそらくこの3つの場所のどこかで落としてしまったのだろう。
すでに使用人が拾ってくれている可能性もあるが、このまま悶々として朝を待つのはもどかしい。
(今すぐ探しに行こう)
僕は部屋を抜け出して、テラスへと向かった。
「ない……」
ルイスが作ってくれたブローチは魔力が込められているため、暗闇の中でもはっきりわかるくらいの光を放つ。
だがテラスは真っ暗闇で、くまなく探してもブローチが落ちている気配はなかった。
「だとすると、海辺か肝試しで落としたかのどっちかだな」
海辺よりは肝試しを行った離れのほうが狭い。僕は急いで屋敷を抜け出して離れへと向かった。
離れは数時間前までにぎやかに過ごしていたのが嘘のように静まり返っていた。
誰もいない屋敷の中へ入り、小さな炎で周囲を照らしてみる。
(早く見つかりますように……)
心の中で祈りながら、注意深く床を観察して歩く。
だが、ブローチは見つからない。
もし落としたのが海辺だったら。
海は室内と違い、とてつもなく広い。その上、もし波にでも攫われてしまったら。
(二度と見つけるのは難しいだろうな……)
誕生日の夜、ブローチを渡してくれたルイスの笑顔を思い出すと、胸が痛んだ。
「諦めちゃだめだ。絶対に見つける」
僕は自分に喝を入れるように呟いて、再び離れの中を歩きだした。
1階、2階と肝試しで通った道を辿りながら3階へと進む。
この階ではカードが置いてあった部屋にしか入っていない。
「たしかここだったよな」
静かに扉を開ける。足を踏み入れた瞬間、室内に他の部屋とは異なる、どこかひんやりした空気が漂っているように感じた。
だがそんなことを気にしている暇はない。
部屋の中をくまなく見回ったが、ブローチは見つからなかった。
「きっと海辺に落としたんだ。それしか考えられない」
大きなため息を吐き、部屋の壁際に置いてあるソファに座り込んでしまう。
「……ん?」
ふと振り返るとソファの背後には大きな絵が飾ってある。
なんとなく絵を眺めた瞬間、僕は我が目を疑った。
「このブローチ……! どうして……!」
キャンバスの中、美しく微笑む金髪の青年貴族の胸元に輝いているのは、間違いなく僕のブローチだった。
「偶然……? いやでも……それにしてはできすぎてる」
手を伸ばして絵の中のブローチに触れてみた瞬間、息ができないほどの強風と目を開けられていないほどの眩しさに襲われる。
吹き飛ばされてしまわないように、なんとか目を閉じたままソファのひじ掛けに両手でしがみつく。
だが突然、後頭部に強い力で殴られたような衝撃を感じた。
「……っ!?」
もしかするとどこかに盗賊が潜んでいたのかもしれない。
(このまま死ぬんだろうか。最後にルイスに謝りたかったな……)
薄れゆく意識の中、僕はルイスのことだけを思っていた。



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