病弱な悪役令息兄様のバッドエンドは僕が全力で回避します!

松原硝子

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第二部 4章

<3>

呪いの絵。
ユーリの話によるとそれは持ち主に災厄をもたらすという類のものではなく、絵に深く関わる人物たちの魂がその中に留まっている絵なのだという。
だが強い魔力を持つ者の魂が留まっている場合、絵自体が魔力を持ってしまいトラブルを起こしたりするのだそうだ。
呪いの絵が生まれてしまう原因はまだ解明されていないが、この世に強い執着を残している場合に多く起きることがわかっているという。
おそらくアシュリーは絵の中の誰かに誘われて中に入ってしまったのではないか、というのがユーリの推測だった。以前リエンツでも似たような事件が起きたことがあるらしい。
「取り込まれてしまった者を助ける事ができる人間は限られています……絵の中に留まっている魂と血縁があり、かつ強い魔力を持つ者だけが助ける事ができるのです」
ユーリはヴァイオレット公爵に視線を向ける。
「この絵に描かれている人物たちに心当たりは? もしくは描いた画家をご存知ですか」
ヴァイオレット公爵は力なく首を左右に振った。
「いや……この屋敷はもともと先々代の当主の持ち物でね。先々代が亡くなるまでは私たち家族ですら足を踏み入れる事は許されていなかった。だからこの絵についてもよく知らないのだよ」
「金髪の男性はレイにとてもよく似ていると思うのですが、血縁の方ではないのですか?」
ジェシーが尋ねると、ヴァイオレット公爵は自信なさげに頷く。
「たしかにレイによく似ているし、彼のピアスには我が家の紋章が描かれている。誰かはわからないが、ヴァイオレット公爵家の人間であることは間違いないと思う」
レイが後を続ける。
「ただ、彼が誰なのかは父上にもわからないということですね」
「ああ……先代もすでに亡くなってしまったしね」
「血縁であることは間違いなさそうですし、俺ならアシュリーを助けられるかもしれません」
レイは立ち上がって絵の側に立つ。
ゆっくりと手を近づけると、レイの手は絵に触れることができた。
だが同じようにヴァイオレット公爵とアーノルドが絵に触れようとすると、弾かれてしまう。
「私もアーノルドも弾かれて、なぜおまえだけが」
ヴァイオレット公爵は戸惑ったような目をレイに向ける。
「理由はわかりませんが、アシュリーを助けられるのはこの中で俺だけだということですね」
「そういうことになる。だがヴァイオレット公爵家の次期当主でもあるおまえが行くことは危険すぎる。クロフォード公爵には申し訳ないが、息子一人では行かせられない」
ヴァイオレット公爵は俺たちに向かって頭を下げる。
「父上!」
レイが厳しい声で制するが、ヴァイオレット公爵は厳しい顔のままだ。
「ヴァイオレット公爵、謝る必要などございません。私が同じ立場でも同じように判断したでしょう。ですがアシュリーは必ず助けます。そのためにもこの絵についての――ルイス!?」
父上の焦ったような声が背後から聞こえるが、そんなものは無視した。
(ふざけんな! レイだけが助けられるなんて、そんな事あるかよ! 絶対に俺が助けるんだ!!)
いてもたってもいられず絵に走り寄った俺は、ぎゅっと目を閉じて手を伸ばした。
無関係の俺はどうせ弾かれるに決まってる。
そんなことはわかっているが、どうしても試さずにはいられなかった。
「……え?」
信じられないことに俺の手は弾かれなかった。
レイと同様、ぴったりとキャンバスに触れることができている自分の手に驚きのあまり声を失う。
「いったいどうなっているんだ……」
掠れた父上の声が、静まり返った室内にやけに大きく聞こえた。

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