病弱な悪役令息兄様のバッドエンドは僕が全力で回避します!

松原硝子

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第二部 4章

<4>

なにがどうなっているのか誰もわからない状況の中、室内を重い沈黙が支配する。
「あの……よろしいでしょうか」
沈黙を破ったのは、この別荘の執事長だった。
「どうしたカーティス。もしかして何か知っているのか?」
ヴァイオレット公爵がカーティスと呼ばれた中年の男性に駆け寄る。皆の視線が一斉にカーティスに集中する。
たくさんの貴族の視線を集めているせいか、カーティスは緊張した面持ちで口を開いた。
「私の祖父なら何か知っているかもしれません」
ヴァイオレット公爵がハッとした表情で叫ぶ。
「そうか! リチャードならたしかにその可能性があるな」
カーティスの家は、古くからヴァイオレット公爵家に仕える家系で、5代前からこの別荘の執事長兼管理人を務めているという。レイの曽祖父の時代、執事長をしていたカーティスの祖父であれば。この絵について何か知っているのではないかということだった。
「祖父は高齢ですが頭ははっきりしています。特に昔のことはよく覚えておりますから、何かお役に立てることがあるかもしれません」

翌日、カーティスに伴われてリチャード氏が現れた。
97歳という年齢のこともあり、ヴァイオレット公爵と父上はカーティスの家に赴くことを提案したが「主君にそのようなことをさせるわけにはいかない」とリチャード氏に固辞された。
リチャード氏は客間に入ると恭しくお辞儀をする。
「お久しぶりでございます旦那様。それにお坊ちゃま方も。しばらくお会いしない間にすっかりご立派になられて。今日はお客様もおいでなのですね」
リチャード氏はゆっくりと視線を俺たちのほうに向け、再びお辞儀をした。
俺のことを見て一瞬だけ驚いたような顔をした気がしたが、きっと気のせいだろう。
ヴァイオレット公爵はリチャード氏に向き直る。
「今日きみに来てもらったのはお祖父様のことで聞きたいことがあるからなのだよ」
「アーサー様のことでございますか。この老人がお役に立てるようなことはないと思いますが……一体どのようなことでしょう」
「離れの三階の、一番大きな部屋に飾ってある金髪の青年が描かれた絵のことだ。レイによく似ているから、きっとヴァイオレット家の血縁なのだと思うのだが。あの青年が誰なのか知っているかい?」
その途端、リチャード氏の顔に動揺が走る。
「……その絵に描かれた金髪の方は、アーサー様でございます」
「お祖父様だったのか! ほとんどお会いしたことがない上にご高齢だったが、あんなにレイに似ていらしたとは知らなかった。リチャード、他になにかあの絵について知っていることはないか? どんなことでもいい。教えてくれ」
しばらく考え込むような様子を見せた後、彼は静かに口を開いた。
「私はヴァイオレット公爵家にお仕えする身ですから、旦那様に嘘はつけません。ですがあの絵についてこれ以上お話することは、アーサー様やあの絵に関わる方々の秘密をお話ししてしまうことになるのです。アーサー様のお許しを得らないのであれば、私がお話することはできません」
「お祖父様の秘密……!?」
ヴァイオレット公爵の目が驚きで見開かれる。思いもよらないリチャード氏の発言に、公爵もレイもアーノルドも呆然としていた。
だが、悪いがこっちは推しの命がかかっている。はいそうですかと引き下がるわけにはいかない。
俺は老人の座るソファに駆け寄った。
「リチャードさん、僕はクロフォード公爵家のルイスです。実はあの絵の中に僕のお兄さまが囚われてしまったんです」
「な、なんですって……!」
リチャード氏が口元を両手で覆う。
いつの間にか俺の背後立っていたレイがリチャード氏に真剣な目で訴える。
「あの絵は呪いの絵と化してしまったんだ。このままではアシュリーの命が危ない。彼はルイスの義兄であると同時に俺の大事な婚約者で親友なんだ。頼む、曾祖父様の秘密を俺たちに話してくれないか」
レイはそう言って頭を下げた。
「レイお坊ちゃま……! どうかおやめください! 私のような者に頭を下げるなど、なりません!」
「嫌だ。おまえが話してくれるまで、俺は頼み続ける」
「そんな……いけません!」
リチャード氏は悲鳴のような声で叫んだ後、がっくりと肩を落とす。やがて意を決したように顔を上げると、俺たち全員を一人ひとりをゆっくり見回した。
「……承知いたしました。私があの絵について知っていること、アーサー様がお話くださったことを今からすべてお話いたします」
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