63 / 67
第二部 4章
<7>
「俺たちが見てもいいものなんだろうか」
レイがためらうようにリチャード氏に視線を向ける。
「わかりません。ですが私は一時的にお預かりしたまで。アーサー様も随分前にお亡くなりなり、私ももう、そう長くはないでしょう。今がヴァイオレット家にお返しする時かと」
ヴァイオレット公爵は腕組みをして探るように日記帳をじっと見る。
「この日記帳は魔力で封じられているな。曽祖父が見せても良いと思った者だけが、この日記を読むことができる仕組みになっている」
公爵は静かに日記帳を手に取ると表紙に手を掛けた。だが日記帳は開かない。
「レイ、やってみなさい」
レイは日記帳を両手で受け取ると、同じように表紙に触れる。
すると、さっきが嘘のように本が開いた。
レイは公爵に戸惑ったような顔で尋ねる。
「……本当に読んでしまってもいいのでしょうか」
「ああ。この部屋にはリチャードとカーティスの他は、ヴァイオレット家とクロフォードに関わる人間しかいない。それにここまで話を聞いたら、特に問題はないだろう。アシュリー君を助ける手掛かりがわかるかもしれないし。お祖父様の日記を読み上げてくれ」
「はい父上」
レイは緊張した面持ちで頷く。
『お互いの気持ちを確かめ合った。言いようのない幸せを感じて怖いぐらいだ。自分が誰かのことを愛することも愛されることもないと思っていたのに。人生は想像もしないことが起きる。未来のことを考えると憂鬱な気持ちになるがセントローズにいる間だけはすべて忘れてこの幸せに溺れたい』
それからしばらくは幸せそうな記述が続く。だが卒業が近づくにつれ、文面からアーサーの苦悩が滲み出ていた。
『このモラトリアムもあと僅かだ。父上から結婚式の日程が決まったと言われた。エディと逃げたい。誰も知らない遠くの国で二人で生きてみたい』
『エディの結婚式も決まったとい聞いた。俺よりも1か月早いらしい。ヴァイオレット家の次期当主として出席しなければらない。心の底から嫌だ。他の奴の隣に立つエディなんて見たくない。相手が殺したいほど妬ましい』
『卒業したくない。学院にいる間は、俺たちは平等だ。だがこの楽園出たらそうはいかない。地獄が待っている』
『明日はエディの結婚式だ。嫌だ、行きたくない。永遠に明日が来なければいい』
『悲しいほど美しかった。誓いのキスは唇ではなく頬にするのがマナーだがそれすら見ることができず目を逸らした。暴れ出しそうな自分を抑えようと手を握りしめていたせいで手のひらが血だらけになってしまった』
『明日は俺の結婚式だ。明日、俺は心を殺す。エディが出席することが辛い。エディもこんな気持ちだったのだろうか』
心から愛する人と結ばれることができないアーサーの苦しみが伝わってきて、こっちまでつらくなってくる。
『エディが病に倒れた。リースたちから危険な状態だと聞き見舞いに行くことにした。神よ、どうかまだエディを連れて行かないでください』
『リースたちのお陰で10年ぶりに二人きりで会うことができた。人ではないような美しさだった。透き通って見えた。今にも消えてしまいそうで怖かった。互いに息子は長男しかいないので、孫か曾孫が生まれたら婚約させようと決めた。いつか俺たち二人の血を分けた子孫がこの世に生まれるなんて素晴らしい』
『2回目の見舞い。卒業してから公の場では会話を一切しないようにしていたのでクロフォード夫人は驚いていたようだった。俺たちのことは俺たちだけが知っていればいい。約束通り唇だけは夫人に一度も許していないと聞いて機嫌が良くなってしまった。もちろん俺も同じだ。エディはすべての責務を果たしたら絶対にあの海に行くから待っていてと笑ってくれた。きっと回復する。俺は彼だけを愛している』
「……これで、終わりです」
レイの沈痛な声が、静まり返った室内に響いた。
レイがためらうようにリチャード氏に視線を向ける。
「わかりません。ですが私は一時的にお預かりしたまで。アーサー様も随分前にお亡くなりなり、私ももう、そう長くはないでしょう。今がヴァイオレット家にお返しする時かと」
ヴァイオレット公爵は腕組みをして探るように日記帳をじっと見る。
「この日記帳は魔力で封じられているな。曽祖父が見せても良いと思った者だけが、この日記を読むことができる仕組みになっている」
公爵は静かに日記帳を手に取ると表紙に手を掛けた。だが日記帳は開かない。
「レイ、やってみなさい」
レイは日記帳を両手で受け取ると、同じように表紙に触れる。
すると、さっきが嘘のように本が開いた。
レイは公爵に戸惑ったような顔で尋ねる。
「……本当に読んでしまってもいいのでしょうか」
「ああ。この部屋にはリチャードとカーティスの他は、ヴァイオレット家とクロフォードに関わる人間しかいない。それにここまで話を聞いたら、特に問題はないだろう。アシュリー君を助ける手掛かりがわかるかもしれないし。お祖父様の日記を読み上げてくれ」
「はい父上」
レイは緊張した面持ちで頷く。
『お互いの気持ちを確かめ合った。言いようのない幸せを感じて怖いぐらいだ。自分が誰かのことを愛することも愛されることもないと思っていたのに。人生は想像もしないことが起きる。未来のことを考えると憂鬱な気持ちになるがセントローズにいる間だけはすべて忘れてこの幸せに溺れたい』
それからしばらくは幸せそうな記述が続く。だが卒業が近づくにつれ、文面からアーサーの苦悩が滲み出ていた。
『このモラトリアムもあと僅かだ。父上から結婚式の日程が決まったと言われた。エディと逃げたい。誰も知らない遠くの国で二人で生きてみたい』
『エディの結婚式も決まったとい聞いた。俺よりも1か月早いらしい。ヴァイオレット家の次期当主として出席しなければらない。心の底から嫌だ。他の奴の隣に立つエディなんて見たくない。相手が殺したいほど妬ましい』
『卒業したくない。学院にいる間は、俺たちは平等だ。だがこの楽園出たらそうはいかない。地獄が待っている』
『明日はエディの結婚式だ。嫌だ、行きたくない。永遠に明日が来なければいい』
『悲しいほど美しかった。誓いのキスは唇ではなく頬にするのがマナーだがそれすら見ることができず目を逸らした。暴れ出しそうな自分を抑えようと手を握りしめていたせいで手のひらが血だらけになってしまった』
『明日は俺の結婚式だ。明日、俺は心を殺す。エディが出席することが辛い。エディもこんな気持ちだったのだろうか』
心から愛する人と結ばれることができないアーサーの苦しみが伝わってきて、こっちまでつらくなってくる。
『エディが病に倒れた。リースたちから危険な状態だと聞き見舞いに行くことにした。神よ、どうかまだエディを連れて行かないでください』
『リースたちのお陰で10年ぶりに二人きりで会うことができた。人ではないような美しさだった。透き通って見えた。今にも消えてしまいそうで怖かった。互いに息子は長男しかいないので、孫か曾孫が生まれたら婚約させようと決めた。いつか俺たち二人の血を分けた子孫がこの世に生まれるなんて素晴らしい』
『2回目の見舞い。卒業してから公の場では会話を一切しないようにしていたのでクロフォード夫人は驚いていたようだった。俺たちのことは俺たちだけが知っていればいい。約束通り唇だけは夫人に一度も許していないと聞いて機嫌が良くなってしまった。もちろん俺も同じだ。エディはすべての責務を果たしたら絶対にあの海に行くから待っていてと笑ってくれた。きっと回復する。俺は彼だけを愛している』
「……これで、終わりです」
レイの沈痛な声が、静まり返った室内に響いた。
あなたにおすすめの小説
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
ただのハイスペックなモブだと思ってた
はぴねこ
BL
神乃遥翔(じんの はると)は自分のことをモブだと思っていた。
少年漫画ではいつだって、平凡に見えて何か一つに秀でている人物が主人公だったから。
その点、遥翔は眉目秀麗文武両道、家も財閥の超お金持ち。
一通りのことがなんでも簡単にできる自分は夢中になれるものもなくて、きっと漫画のモブみたいに輝く主人公を引き立てるモブのように生きるのだと、そう遥翔は思っていた。
けれど、そんな遥翔に勉強を教わりに来ている葛城星 (かつらぎ ほし)は言った。
「BL漫画の中では、神乃くんみたいな人がいつだって主人公なんだよ?」
そう言って、星が貸してくれた一冊のBL漫画が遥翔の人生を一変させた。
自分にも輝ける人生を歩むことができるのかもしれないと希望を持った遥翔は、そのことを教えてくれた星に恋をする。
だけど、恋をした途端、星には思い人がいることに気づいてしまって……
眉目秀麗文武両道で完璧だけど漫画脳な遥翔が、お人好しで気弱な星の心に少しずつ少しずつ近づこうと頑張るお話です。
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
声を失った悪役令息は北の砦で覚醒する〜無詠唱結界で最強と呼ばれ、冷酷侯爵に囲われました〜
天気
BL
完結に向けて頑張ります
5月中旬頃完結予定です
その後は、サイドストーリーをちょこちょこ投稿していこうと思ってます
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)