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1章
30話
槍の穂先が、スローモーションのように僕めがけて飛んできて、肩口に刺さった。地面に血が飛び散るのを他人ごとのように眺めていると、膝から力が抜けていく。
「ルカ‼」
崩れた身体は地面に叩きつけられることなく、温かいものに包まれた。
「大丈夫か‼」
ノアが泣きそうな顔で僕を見下ろしている。その隣ではミーシャが震えながら寄り添い、鼻先で僕の頬を擦った。視界の隅には、白目を剥いて倒れているガイウスの姿も見えた気がする。
「……ミ、シャが、無事で……よかった……」
「ルカ‼ しっかりしろ‼」
ほとんど泣きそうな顔でノアが悲痛な叫び声を上げる。刺すような痛みだが、気絶するほどではなさそうだ。
大丈夫という代わりに小さく頷くと、ノアはほんの少しだけほっとしたような目になる。
「出血が多い。槍を抜くぞ。それから治癒魔法をかける。少し痛いかもしれないが、我慢してくれ」
そう言うとルカは槍に手をかけ、一気に引き抜いた。
「……っ‼」
激痛に顔をしかめると、ノアが優しく背中を擦ってくれる。
「痛かったよな……ごめん。今すぐ治してやる」
(ノアって治癒魔法も使えるのか……。さっきの魔力もすごかったし、どれだけ強い力を持っているんだろう)
痛みにぼんやりとした頭でそんなことを思う。
僕が使える治癒魔法はごく弱いものだけれど、こんな深い傷を治すような治癒魔法にはかなり強い力が必要なはず。
ノアが真剣な眼差しで傷口に手をかざす。やがて傷が白く発光し始めると痛みがどんどん引いていく。痛みが消えると今度は温かくなっていく。光がおさまると、傷は綺麗に消えていた。
「すごい! ありがとうノア! こんなにすごい魔法を使えるなん――」
僕は最後まで言葉を続けることができなかった。
なぜなら、顔を上げて目に入ってきたのは、ノアの暖かなオレンジの瞳ではなく最近ずっと見ないようにしていたサファイアブルーの瞳だったから。
「……レオンハルト様……? え……? ノア、がレオンハルト様なの……?」
二人の間に沈黙が落ちる。レオンハルトは焦ったように視線を泳がせてから、何かを覚悟したような表情で僕を見返した。
「……ああ。そうだ」
黙っている僕の代わりのように、ミーシャが低く嘶く。僕はあまりの衝撃に頭の中が真っ白になり、言葉を発することができなかった。
り、言葉を発することができなかった。
頭の中をノアとの再会やこれまでの会話が駆けめぐっていく。胸の奥が熱く、そして痛くなる。
――ずっと嘘をつかれていた。
そして自分は本人だと知らずに、夫との関係の相談までしていたのだ。
黙ったまま見つめ合っていると、森の入口のほうからたくさんの足音が響いてくる。
先頭はリック、その背後には騎士団の隊員たちだ。
彼らに支えられたクレン院長の姿もある。院長の顔は土ぼこりで汚れていたが、目にはしっかりと光が宿っている。
(よかった……院長、生きていたんだ…‼)
「クレン院長……‼」
「ルカ様、ご無事で……‼」
「ええ、なんとか。動物たちも皆、無事です」
僕たちは互いの無事を喜びあって抱きしめ合う。その間にリックは鋭い声で指示を飛ばし、騎士団とともにブラックホーンの連中を縄で一人ずつ縛り上げて地面に伏せさせた。
「こいつら、全員王宮の地下牢にぶち込んでくれ」
リックが吐き捨てるように言い放った。
「ルカ‼」
崩れた身体は地面に叩きつけられることなく、温かいものに包まれた。
「大丈夫か‼」
ノアが泣きそうな顔で僕を見下ろしている。その隣ではミーシャが震えながら寄り添い、鼻先で僕の頬を擦った。視界の隅には、白目を剥いて倒れているガイウスの姿も見えた気がする。
「……ミ、シャが、無事で……よかった……」
「ルカ‼ しっかりしろ‼」
ほとんど泣きそうな顔でノアが悲痛な叫び声を上げる。刺すような痛みだが、気絶するほどではなさそうだ。
大丈夫という代わりに小さく頷くと、ノアはほんの少しだけほっとしたような目になる。
「出血が多い。槍を抜くぞ。それから治癒魔法をかける。少し痛いかもしれないが、我慢してくれ」
そう言うとルカは槍に手をかけ、一気に引き抜いた。
「……っ‼」
激痛に顔をしかめると、ノアが優しく背中を擦ってくれる。
「痛かったよな……ごめん。今すぐ治してやる」
(ノアって治癒魔法も使えるのか……。さっきの魔力もすごかったし、どれだけ強い力を持っているんだろう)
痛みにぼんやりとした頭でそんなことを思う。
僕が使える治癒魔法はごく弱いものだけれど、こんな深い傷を治すような治癒魔法にはかなり強い力が必要なはず。
ノアが真剣な眼差しで傷口に手をかざす。やがて傷が白く発光し始めると痛みがどんどん引いていく。痛みが消えると今度は温かくなっていく。光がおさまると、傷は綺麗に消えていた。
「すごい! ありがとうノア! こんなにすごい魔法を使えるなん――」
僕は最後まで言葉を続けることができなかった。
なぜなら、顔を上げて目に入ってきたのは、ノアの暖かなオレンジの瞳ではなく最近ずっと見ないようにしていたサファイアブルーの瞳だったから。
「……レオンハルト様……? え……? ノア、がレオンハルト様なの……?」
二人の間に沈黙が落ちる。レオンハルトは焦ったように視線を泳がせてから、何かを覚悟したような表情で僕を見返した。
「……ああ。そうだ」
黙っている僕の代わりのように、ミーシャが低く嘶く。僕はあまりの衝撃に頭の中が真っ白になり、言葉を発することができなかった。
り、言葉を発することができなかった。
頭の中をノアとの再会やこれまでの会話が駆けめぐっていく。胸の奥が熱く、そして痛くなる。
――ずっと嘘をつかれていた。
そして自分は本人だと知らずに、夫との関係の相談までしていたのだ。
黙ったまま見つめ合っていると、森の入口のほうからたくさんの足音が響いてくる。
先頭はリック、その背後には騎士団の隊員たちだ。
彼らに支えられたクレン院長の姿もある。院長の顔は土ぼこりで汚れていたが、目にはしっかりと光が宿っている。
(よかった……院長、生きていたんだ…‼)
「クレン院長……‼」
「ルカ様、ご無事で……‼」
「ええ、なんとか。動物たちも皆、無事です」
僕たちは互いの無事を喜びあって抱きしめ合う。その間にリックは鋭い声で指示を飛ばし、騎士団とともにブラックホーンの連中を縄で一人ずつ縛り上げて地面に伏せさせた。
「こいつら、全員王宮の地下牢にぶち込んでくれ」
リックが吐き捨てるように言い放った。
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