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ポーテが消え会場には弛緩した空気が流れた。

人々の顔色は今だ悪かったが、ざわめきや衣擦れ、グラスの音などが聴こえ始め、安堵した者たちは軽口を叩く。


「これでまた我が国の繁栄は約束されましたな。」

「厄介者のクズ王子様々ですよ。」

「ハハハ!違いない!あんなクズでも皆に感謝されるなら本望でしょうな。まぁ感謝されるのもこれが最初で最後ですが!」


ロングはクズだった。
そして我儘で傲慢。自分以外は虫けら並の存在だと公言して憚らないような人間だった。

けれどロングがそんな人間になったのは、まわりに居る人間のせいでもあった。

ロングが何をしようと、何を言おうと、何を望もうと、皆、全てを叶え肯定し誰一人として咎めなかったから。

たかが第三王子に何故そこまで人々が恭順したのか?

それはロングが贄だからだ。


贄だから全てが許された。幸福な未来などない贄だから。


ロングが生まれた時、何が気に入ったのかシャドウラインを名乗る女はロングを選んだ。

その瞬間ロングの将来は決まった。


シャドウラインを名乗る者は、王が変わるとフラリと現れ、王族から贄を選ぶ。

何代か前の王はシャドウラインに抗い贄を拒否した結果、国は大災害と飢饉で滅びかけ、以来王国はシャドウラインに刃向かうのを止めた。


会場に居るのは国の裏側を知る者だけ。跡継ぎだけが裏側を教えられ、そうして代々語り継がれていく。

跡継ぎは贄に選ばれないかと言えばそう単純なものでもない。何がシャドウラインの琴線に触れるか分からないのだ。

だから継ぐ時に初めて真実を知る。


国王はロングたちが居た場所を眺めながら兄を思い出す。

兄はどうしようもないクズで、王族としての心得も民を思う気持ちも持ち合わせていないような人間だった。

次代の王がこれでは国が滅びると先代王に何度も苦言を呈したが、聞き入れられることはなかった。

そして兄がシャドウライン家に婿入りし、真実を知る。


(父もこんな気持ちだったのかもしれんな)



国王はが無事終わり安堵した。これで自分の代は安泰が約束されたから。



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