5 / 19
『魔殺者』ルーファス
しおりを挟む
六大討滅者の一人『魔殺者』ルーファス・アベル。
魔殺者とは文字通り”魔族”の”暗殺者”の事だ。
彼の存在が世間に認知されるようになったのは戦争が始まるよりも前のことだった。
トラヴァス王国に対しクーデターを起こそうとして同盟を組んでいた三つの暗殺ギルドをたった一晩で壊滅。幹部十二名、その他既に手配書の出回っていた五十三名の構成員を暗殺、首領三名を捕縛した。
それだけでは飽き足らず、当時牢屋の見張りをしていた兵士が交代で持ち場を数秒離れて戻ってくると、何とその首領三名が半殺しの状態で牢に入れられていたという。
更にはその足元にバツが付けられた手配書の束が置かれており、アジトの場所が記された地図の隅には「手配書なんか作るだけ紙の無駄だ」と騎士団に対して嫌味とも取れるような事が書かれていたとか……いないとか。
また、彼は報酬には興味がないのか、事件の後も名乗り出ることはなく、それがより一層騎士団や王族を混乱させた。
その時はまだ騎士団の一部と王族のみにその存在を認識され、同時に危険視されていた彼だったが、魔王との戦争により『魔殺者』の二つ名を与えられたことで世間は彼の存在を知る事になる。
まさかその時は、本人でさえ暗殺者という日陰者の名前が世に広まるとは思っていなかっただろう。
その後、彼は六大討滅者として数多くの魔族を屠った。
ある街を乗っ取りその街に住んでいた数万の人々を操っていた魔族を暗殺し、住民を魔の手から解放した。
今でも彼はその街では"暗殺者"ではなく"英雄"として語り継がれている。
──ドガッ!!
「うぐぅ……っ!」
木製のカウンターに激突した男は呻き声を上げそのまま動かなくなった。
張り詰めた空気の中、暗い店の中にいる屈強な男達の視線は一点に集中する。
店の中央に立つ細身の男。フードの奥にある銀色の眼光は酷く冷たい。
ゆらり、と黒く長い蛇のような尾が不気味に揺れる。
「っ死ねぇ!」
「──もう一度だけ質問する」
「ガァッ」
周りを囲っていた男の一人が斧で斬りかかろうとしたが、一瞬の内に呻き声を上げ首元を抑えそのまま倒れる。
僅かな明かりに照らされ、男の手にしたナイフから滴る赤い液体が瞬きの間に何が行われたかを周囲に知らしめた。
「此処が貴様ら【豪竜の逆鱗】の隠れ家の一つである事は知っている、本拠地は何処だ」
──沈黙。
埃を被ったランプがチカチカと点滅する。
誰も動くことができず呼吸さえも儘ならない。ほんの少しでも気を緩めて、瞬きでもしようものなら次の瞬間には倒れた二人の後を追うことになるだろう。
「……回答する気はないようだな」
声に怒りはない。
呆れも苛立ちも、自分から聞いておいてその答えにはさほど興味もないようだ。
「まぁ、構わない」
フードの男は器用にナイフを手の中で回転させ逆手に持ち直すと、一言だけ告げる。
「残った一人に聞き出すとしよう」
「ひ、ひぃぃいい!!」
これから起きる惨劇に恐れを成した一人が悲鳴を上げ、殆ど転がるようにして店の入り口へ駆け出す。
扉は目の前にあるのに遥か遠くにあるようにも感じた。
ゆらり。
フードの男がそれを追うように剣呑とも取れる動きで振り向いた時には、正面にいた三人は既に血を流し倒れていた。
(助かる! 間に合う、俺はこんな所で死なねぇ!)
いの一番に逃げ出した男の手がドアノブに触る……より先に扉が開いた。
──バキャッ!
と、いうより男を巻き込んで吹っ飛んだ。
そしてそのまま部屋の中央、フードの男の足元に転がり気を失う。
突然の出来事に全員が別の意味で動けなくなる中、殺伐とした空間に場違いな明るい声が突き抜けた。
「こんばんわ~お待たせしましたポッポ堂です。ご注文いただいたピザ、と……」
ドアを蹴破ったであろう乱入者は、そのまま中に足を踏み入れると辺りを不思議そうに見渡す。
「な、なんだ、オメェ……」
近くにいた一人が困惑し警戒しながら当然の質問をすれば、彼女は何故か上機嫌に応えた。
「パン屋のポッポ堂です、ご注文の品をお届けに来ました」
「は? 注文?」
「魚貝ピザとミートピザ、ドーナツとチュロスのパーティセットご注文ですよね?」
「雰囲気見てわかんねぇのか! 頼んでねぇよ!!」
「えっ……でも今日は親戚一同呼んで息子さんの誕生日を祝うんじゃ……」
「俺らが今から楽しくお誕生日会するように見えるか!? 頭おかしいのかテメェ!!」
「…………」
盗賊と乱入者のやり取りを殺気を霧散させたルーファス・アベルは白けた目で見つめる。
魔剣を手にしていたはずの彼女が、何故か今は両手にピザの入った箱とパーティーセットとやらの入っている袋を持っている。
(何をしているんだ……あいつは……)
魔殺者とは文字通り”魔族”の”暗殺者”の事だ。
彼の存在が世間に認知されるようになったのは戦争が始まるよりも前のことだった。
トラヴァス王国に対しクーデターを起こそうとして同盟を組んでいた三つの暗殺ギルドをたった一晩で壊滅。幹部十二名、その他既に手配書の出回っていた五十三名の構成員を暗殺、首領三名を捕縛した。
それだけでは飽き足らず、当時牢屋の見張りをしていた兵士が交代で持ち場を数秒離れて戻ってくると、何とその首領三名が半殺しの状態で牢に入れられていたという。
更にはその足元にバツが付けられた手配書の束が置かれており、アジトの場所が記された地図の隅には「手配書なんか作るだけ紙の無駄だ」と騎士団に対して嫌味とも取れるような事が書かれていたとか……いないとか。
また、彼は報酬には興味がないのか、事件の後も名乗り出ることはなく、それがより一層騎士団や王族を混乱させた。
その時はまだ騎士団の一部と王族のみにその存在を認識され、同時に危険視されていた彼だったが、魔王との戦争により『魔殺者』の二つ名を与えられたことで世間は彼の存在を知る事になる。
まさかその時は、本人でさえ暗殺者という日陰者の名前が世に広まるとは思っていなかっただろう。
その後、彼は六大討滅者として数多くの魔族を屠った。
ある街を乗っ取りその街に住んでいた数万の人々を操っていた魔族を暗殺し、住民を魔の手から解放した。
今でも彼はその街では"暗殺者"ではなく"英雄"として語り継がれている。
──ドガッ!!
「うぐぅ……っ!」
木製のカウンターに激突した男は呻き声を上げそのまま動かなくなった。
張り詰めた空気の中、暗い店の中にいる屈強な男達の視線は一点に集中する。
店の中央に立つ細身の男。フードの奥にある銀色の眼光は酷く冷たい。
ゆらり、と黒く長い蛇のような尾が不気味に揺れる。
「っ死ねぇ!」
「──もう一度だけ質問する」
「ガァッ」
周りを囲っていた男の一人が斧で斬りかかろうとしたが、一瞬の内に呻き声を上げ首元を抑えそのまま倒れる。
僅かな明かりに照らされ、男の手にしたナイフから滴る赤い液体が瞬きの間に何が行われたかを周囲に知らしめた。
「此処が貴様ら【豪竜の逆鱗】の隠れ家の一つである事は知っている、本拠地は何処だ」
──沈黙。
埃を被ったランプがチカチカと点滅する。
誰も動くことができず呼吸さえも儘ならない。ほんの少しでも気を緩めて、瞬きでもしようものなら次の瞬間には倒れた二人の後を追うことになるだろう。
「……回答する気はないようだな」
声に怒りはない。
呆れも苛立ちも、自分から聞いておいてその答えにはさほど興味もないようだ。
「まぁ、構わない」
フードの男は器用にナイフを手の中で回転させ逆手に持ち直すと、一言だけ告げる。
「残った一人に聞き出すとしよう」
「ひ、ひぃぃいい!!」
これから起きる惨劇に恐れを成した一人が悲鳴を上げ、殆ど転がるようにして店の入り口へ駆け出す。
扉は目の前にあるのに遥か遠くにあるようにも感じた。
ゆらり。
フードの男がそれを追うように剣呑とも取れる動きで振り向いた時には、正面にいた三人は既に血を流し倒れていた。
(助かる! 間に合う、俺はこんな所で死なねぇ!)
いの一番に逃げ出した男の手がドアノブに触る……より先に扉が開いた。
──バキャッ!
と、いうより男を巻き込んで吹っ飛んだ。
そしてそのまま部屋の中央、フードの男の足元に転がり気を失う。
突然の出来事に全員が別の意味で動けなくなる中、殺伐とした空間に場違いな明るい声が突き抜けた。
「こんばんわ~お待たせしましたポッポ堂です。ご注文いただいたピザ、と……」
ドアを蹴破ったであろう乱入者は、そのまま中に足を踏み入れると辺りを不思議そうに見渡す。
「な、なんだ、オメェ……」
近くにいた一人が困惑し警戒しながら当然の質問をすれば、彼女は何故か上機嫌に応えた。
「パン屋のポッポ堂です、ご注文の品をお届けに来ました」
「は? 注文?」
「魚貝ピザとミートピザ、ドーナツとチュロスのパーティセットご注文ですよね?」
「雰囲気見てわかんねぇのか! 頼んでねぇよ!!」
「えっ……でも今日は親戚一同呼んで息子さんの誕生日を祝うんじゃ……」
「俺らが今から楽しくお誕生日会するように見えるか!? 頭おかしいのかテメェ!!」
「…………」
盗賊と乱入者のやり取りを殺気を霧散させたルーファス・アベルは白けた目で見つめる。
魔剣を手にしていたはずの彼女が、何故か今は両手にピザの入った箱とパーティーセットとやらの入っている袋を持っている。
(何をしているんだ……あいつは……)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
短編)どうぞ、勝手に滅んでください。
黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。
あらすじ)
大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。
政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。
けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。
やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。
ーーー
※カクヨム、なろうにも掲載しています
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜
水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。
魔王乱立の時代。
王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。
だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。
にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。
抗議はしない。
訂正もしない。
ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。
――それが、誰にとっての不合格なのか。
まだ、誰も気づいていない。
欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる