裏社会の何でも屋『友幸商事』に御用命を

水ノ灯(ともしび)

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『友幸商事』の四人

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 とある街の片隅に、その建物はあった。新しくもなく古くもない二階建て。外から伸びた階段により、玄関は二階についている。一階は居住階になっており、二階は事務所として機能しているからだった。建物の壁には『友幸ゆうこう商事』と看板がかかっている。
 扉を開くと、テーブルを挟んで向かい合わせになったソファーの向こう側に、事務所机が置かれている。その上には今時珍しい黒電話があった。椅子と机のセットはまるで社長のようだ。と言いたいが、この部屋に他のデスクは存在しない。
 唯一のデスクには一人の男が座っていた。軽く跳ねた金色の髪に大きな瞳と凛々しい眉。筋肉質な体格もあり、活発な様子が伺える。パソコンに向かってはいるが、Tシャツにジーンズという緩い格好だ。彼は幸介こうすけと言い、何を隠そう友幸商事の名付け親である。この事業を立ち上げ、自分の一字を社名にした。
 幸介は作業の手を止め、時計を見る。夕暮れから夜に差し掛かろうという時刻だ。そろそろ動き出さなければと立ち上がる。階段を降りていくと、そこには居住スペースが広がっている。ここは友幸商事で働く四人の仲間が生活している場所だ。男の四人暮らしは多少狭くはあるが、必要なものは揃っている。
 幸介が降りてくる音を聞いたのか、奥から黒髪の青年がやってきた。横分けにした黒髪から静かな垂れ目が覗いている。軽装の幸介に比べてフロントジップの長袖パーカーを着こんでおり、大きめのフードもあって余計小柄に見えた。彼は友弥ゆうや。幸介とは幼馴染で、この事業を共に作り上げた。友幸商事の始めの文字は彼の名前から取られている。

「もう時間?」

 友弥は彼特有の柔らかく、男にしては高い声で問う。

「ああ、準備しといて」

 溌剌とした幸介の返事を聞くと、友弥は頷いてまた奥の自室に入っていった。
 幸介は他の仲間にも声をかけようと先に進む。リビングには四人で座っても窮屈でないL字型の大きなソファーが置かれていた。そこでは赤髪の男がテレビゲームに興じているところだった。男にしては身長の低い幸介と友弥が見上げる高身長は、高いというより長いと表現する方がいいだろう。細身で手足が長く、頭が小さいため華奢に見える。切長の吊り目は冷淡な印象を抱かせるが、その表情が子供のようにころころと変わり、顔いっぱいに悪戯っぽい笑顔を浮かべることを仲間は知っていた。
 彼はヨウと言う。出会った時にそう呼べと名乗ってから、仲間ですら本当の名前を聞いたことはない。

「ヨウ、仕事」

 幸介が声をかけるが、ヨウはゲームがいいところだったらしい。

「んー、もうちょっと」

 唇を尖らせて子供のようなことを言うので、幸介は母親のように叱らなければならない。

「さっさと片付ける! 続きは帰ってきてからな」

 眉を吊り上げてテレビの前に立ってやれば、画面が見えなくなったことで操作をミスしたらしい。ヨウは容姿からは想像できない大声を上げ、抗議を示すために勢いよくソファーから立ち上がった。

「馬鹿! いいとこだったのに!」
「仕事あるって言っといただろ!」

 小学生のような喧嘩に発展するのはいつものことだ。揃って声を大きくして騒いでいると、四つ並んだ個室のうち一つが開かれた。

「もー、なにぃ……うるさい……」

 気怠げで滑舌が甘く、今にも溶け落ちそうな寝起きの声だった。声と同じく怠そうに現れたのは、恵まれた体躯を持った黒髪の男だった。ヨウとほとんど変わらぬ長身でありながら、体の厚みは倍ほどに違う。熱い胸板が見えそうなほど胸元の開いたシャツを緩く着ている。長く下りた前髪のせいか、襟足のせいか、妙な色気を感じさせる男だった。目尻の跳ね上がった瞳は色素が薄く、琥珀色に見える。彼はりょうと言う四人目の仲間だった。

「まさか、寝てたんじゃないだろうな」

 幸介はヨウと怒鳴り合いをしていたことすら忘れて呆れた溜息を吐く。あらかじめ仕事の時間を伝えていたにも関わらず、涼はつい先程まで眠っていたらしい。涼は誰にも縛られない自由さがあり、こういったことも一度や二度ではない。

「あ、仕事だっけ?」

 きょとんと首を傾げるとあくびをひとつし、髪の毛をセットするために洗面所に向かっていく。その広い背中を見送ると、ヨウも毒気が抜かれたらしい。大人しくゲームを切って自分も身支度を整え始める。

「幸介、いつでも出られるよ」

 そうしている間に友弥が自室から出てくる。彼の手には仕事道具である、銃が握られていた。
 この友幸商事は一見普通の会社を装った名前をしているが、その実態は裏社会の何でも屋である。殺しから拷問、薬の売買に組織の壊滅まで、要望があれば何でも請け負う。深い暗部を持つこの街で、共に暮らす四人の仲間と日々依頼をこなしているのだ。

「俺も準備は終わってっからね」

 ヨウは別に仕事を忘れて遊んでいたわけではないのだと腕を組んで主張してくる。当然装備は整っており、すぐにでも仕事に向かうことができる。つまり何の準備もしていなかったのは一人だけと言うことだ。

「ねー、俺のジャケット知らない?」

 髪を整えた涼が呑気に言いながらリビングに戻ってくる。涼が愛用している香水の匂いが一緒に入ってきた。分かってはいたことだが、幸介は頭を押さえる。当然武器の用意もしていないのだろう。

「これ涼の」

 友弥も予想していたのか、どこからともなくもう一丁の銃が取り出された。ありがと、と受け取った涼の顔面めがけてジャケットが飛んでくる。ソファーにかけたままにしていたのをヨウが投げ渡したのだ。涼はジャケットと銃を受け取り、いそいそと着込んでいる。これで全員の支度が整った。

「よし、行くぞ」

 幸介の声で空気が引き締まる。既に日は落ちきり、夜が空を覆っていた。この街が目を覚まし動き出す時間がやってくる。彼らも闇に生きる住人であった。今夜もまた、四人は街のどこかで仕事を始めるのだった。
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