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私の体

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「ただいまあ」

 ゆるく言いながら玄関を開けると、おかえり、と口々に返ってきた。涼以外の三人は揃っていたようでリビングで各々好きなことをしている。そのテーブルに食べ終えた後の食器があるのを見て涼は嘆きを漏らした。

「あー、俺夕飯まだなのに……」

 先に食べてしまったのなら買ってくればよかったと後悔する。涼が不満そうに近寄っていくと、ヨウが眉根を寄せた。嗅ぎ慣れぬ匂いに気づいたからだろう。

「知らねえよ」

 冷たく返してヨウはまた手元に目を落としてしまう。涼が夜遊びに行けば朝まで帰ってこないこともしばしばなので先に食べるのも当然なのだが。

「涼、俺コンビニにアイス買いに行くからさ、一緒に行かない?」

 知らないふりの幸介とヨウとは違い、友弥はそんな言葉をかけてくれる。なんていいやつなんだと感動して涼はありがたくその言葉に乗らせてもらうことにした。

「俺のもよろしくー」
「え、やだ」

 幸介から投げかけられた言葉を友弥はバッサリと切り捨てて財布を持つ。拗ねる幸介を無視して行く友弥に続き、再び外に出た。
 近くには数種類コンビニがあって非常に便利だ。静かな夜道を並んで歩いていると、 友弥が前を向いたままぽつりと言った。

「煙草吸ったの?」

 涼から他の人間の匂いがすることは珍しくないが、煙草の匂いは移っただけではないと気づいたのだろう。涼は少し前の口内を思い出して苦く笑う。ざらついた舌の感覚と慣れない味は珈琲で洗い流したにも関わらずまだ少し残っている。
 涼はポケットに手を突っ込んで空を見上げると、自嘲するように笑みを貼り付けた。

「お説教のために背伸びしてみただけ」

 指先に箱の角とライターのつるりとした感触が触れる。今日の男が今度の約束にと手渡したものだった。次に会う時まで持っていてくれという戯れの約束だ。
 夜の街に似つかわしくない初心な少女の前で少し大人らしいところを見せようとしたら苦いわ煙はおかしなところに入るわで最悪だった。らしくなく偽善ぶったことをしてみたが、思ったより強そうな子で何よりだ。

「やっぱ慣れないことするもんじゃないね」

 涼は冗談めかして言いながら足を早めてコンビニの方へ向かって行く。友弥が追いつくまでの間に、ポケットの中に入っていた煙草の箱とライターをゴミ箱に落とした。
 友弥は何を言うこともなく、ただ涼を見て早く行こうというようにコンビニの扉を開けただけだった。友弥が引き開けてくれた扉をくぐって眩しいほど明るい店内に入る。
 なんだかんだで幸介やヨウの分のアイスも買ってやるのだろうと思って涼はカゴを持った。友弥がちらっと棚を見たかと思えば迷わずカゴの中に小さな箱が投げ込まれる。涼が最近気に入っているチョコレート菓子だった。気づいて友弥を見れば、すたすたとアイスの方へ向かってしまっていた。
 友弥なりの労りかと涼はくすぐったい気持ちで少し笑う。アイスを選ぶのが遅いのは気恥ずかしさを感じているからだろう。不器用な優しさが嬉しくて頬が緩む。みんなで分けられるようにもう一箱同じものをカゴに放り込むと、涼も夕飯を探しに友弥の方へと歩いていった。
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