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生死一如の生業に
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硬い金属の音で撃鉄を上げる。ゆっくりと銃口を定め、固定した指先に力を込める。重たい引き金が引かれると同時に鋭い音が反響した。飛び出した弾丸が一瞬で空を切り的を抉る。離れた位置にある人型の的は、左肩を微かに負傷したようだった。
ヨウは壁に寄りかかり、斜め後ろから一連の動作を眺めていた。煙を上げる銃口がゆっくりと下がり、弾倉が振り出され空薬莢が落ちる。全ての弾を撃ち尽くしたリボルバーが台に置かれ、銃声を遮るイヤーマフが外された。溜息とともに緊張を緩め、佐々木が振り返る。
「悪りぃね、使わせてもらっちゃって」
口先で悪びれる佐々木にヨウは笑って首を振ってみせた。ここは友幸商事の住む家の地下にある射撃場だった。 コンクリートでできた室内に二人の声が妙に響く。
「いーよ、奢ってもらったし」
満ち足りた腹を抱えて言えば、佐々木は渋い顔つきになった。潜入先での危機を救ってもらった代わりに四人分の食事代が佐々木の財布から消えていった。遠慮なく食いやがって、と毒づく。特に見た目によらず大食漢のヨウは人の金であることをいいことに好き放題に食べていた。牛タンばっかり頼みやがってと恨み言が漏れるのも仕方ない。
とはいえ、もしも依頼を受けていたのが彼らでなかったら佐々木の危機は免れなかっただろう。依頼した企業も信頼のおける殺し屋を見る目はあったようだが、どうやら運がなかったらしい。偽装工作のお陰で佐々木の扮していた山田という従業員は事故死したことになっている。佐々木は退職の手続きを潜り抜ける必要もなく、挨拶すらなしに帰ってこれたというわけだ。必要な情報もしっかりと手に入り、万事うまく行ったと言っていいだろう。
ハッキングで足跡を残したと知られれば、それが得意分野である乾には呆れられた。君のおかげでいらん出費をしたと言うので、企業の情報は依頼者に高く売りつけてやるつもりだ。素直でない男は悪態をつきながらも佐々木が無事に戻ってきたことに安堵していたようだったが。
「次の仕事危ないとこなの?」
ヨウは満腹になって眠くなったのか、あくび混じりに聞いた。珍しいことに、佐々木から銃を撃たせて欲しいと頼んできたのだ。自分の銃を持参し銃弾も用意してくるとは、まるで戦場に行くようではないか。日頃から銃に触れる機会があるヨウ達とは違い、佐々木にそんな必要があるとは思えない。
佐々木は再びリボルバーを手にとり、弾倉に銃弾を装填する。銃の反動で少し疲れた指先が冷えた金属を一粒一粒押し込めていった。
「んー、内緒」
そう笑う横顔を見て、ヨウはふーんと言うだけだ。いくら友人と言えど潜入場所を漏らすわけにはいかないのは分かっている。信頼がないわけではないし、今回は命を救うことにはなったがあくまで仕事上の関係がある二人だ。別個の組織として動く以上、そこには線引きがある。情報が金になり命を毟ると知っているからこそ、佐々木は危険を冒して腹を探りに行くのだ。そう簡単に秘密を口にするわけがない。
次の仕事場では銃を撃つ可能性があるのだろう。もともと佐々木の仕事は潜入が気づかれたら無事では済まない。薄氷の上を渡るように危うい道を歩むのに、その上拳銃の重みも乗ってくるとなれば任務の危険性を知るに十分だった。
ヨウは壁に寄りかかり、斜め後ろから一連の動作を眺めていた。煙を上げる銃口がゆっくりと下がり、弾倉が振り出され空薬莢が落ちる。全ての弾を撃ち尽くしたリボルバーが台に置かれ、銃声を遮るイヤーマフが外された。溜息とともに緊張を緩め、佐々木が振り返る。
「悪りぃね、使わせてもらっちゃって」
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「いーよ、奢ってもらったし」
満ち足りた腹を抱えて言えば、佐々木は渋い顔つきになった。潜入先での危機を救ってもらった代わりに四人分の食事代が佐々木の財布から消えていった。遠慮なく食いやがって、と毒づく。特に見た目によらず大食漢のヨウは人の金であることをいいことに好き放題に食べていた。牛タンばっかり頼みやがってと恨み言が漏れるのも仕方ない。
とはいえ、もしも依頼を受けていたのが彼らでなかったら佐々木の危機は免れなかっただろう。依頼した企業も信頼のおける殺し屋を見る目はあったようだが、どうやら運がなかったらしい。偽装工作のお陰で佐々木の扮していた山田という従業員は事故死したことになっている。佐々木は退職の手続きを潜り抜ける必要もなく、挨拶すらなしに帰ってこれたというわけだ。必要な情報もしっかりと手に入り、万事うまく行ったと言っていいだろう。
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「次の仕事危ないとこなの?」
ヨウは満腹になって眠くなったのか、あくび混じりに聞いた。珍しいことに、佐々木から銃を撃たせて欲しいと頼んできたのだ。自分の銃を持参し銃弾も用意してくるとは、まるで戦場に行くようではないか。日頃から銃に触れる機会があるヨウ達とは違い、佐々木にそんな必要があるとは思えない。
佐々木は再びリボルバーを手にとり、弾倉に銃弾を装填する。銃の反動で少し疲れた指先が冷えた金属を一粒一粒押し込めていった。
「んー、内緒」
そう笑う横顔を見て、ヨウはふーんと言うだけだ。いくら友人と言えど潜入場所を漏らすわけにはいかないのは分かっている。信頼がないわけではないし、今回は命を救うことにはなったがあくまで仕事上の関係がある二人だ。別個の組織として動く以上、そこには線引きがある。情報が金になり命を毟ると知っているからこそ、佐々木は危険を冒して腹を探りに行くのだ。そう簡単に秘密を口にするわけがない。
次の仕事場では銃を撃つ可能性があるのだろう。もともと佐々木の仕事は潜入が気づかれたら無事では済まない。薄氷の上を渡るように危うい道を歩むのに、その上拳銃の重みも乗ってくるとなれば任務の危険性を知るに十分だった。
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