BLエッチの後で シチュエーション限定SS

水ノ灯(ともしび)

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明け透けな朝

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 淡い闇の中、熱気が少しずつほどけて元の温度を取り戻そうとしていた。替えたばかりのシーツには体温が移って初めの冷たさはなくなっている。
 沈み込むように全身の力を抜いて横たわっている祥吾に寄り添って一真は腹の上に頭を乗せていた。祥吾の薄い腹に頬をつけていると呼吸のたびに上下するのが伝わってくる。少し前までどろどろに汚れて痙攣するように引きつっていたのが嘘のように今は穏やかだった。一度は正体をなくしていた祥吾の瞳も少しの涙の痕を残して普段通りに戻っている。
 全て清めた後も互いの熱を離すのが惜しくて衣服も身につけないままに気だるい時間を過ごしていた。
 一真はゆっくりと瞬きながら何気なく祥吾の腹を撫でた。白い皮膚に手の平の熱が少し奪われる。

「うっすいな、ちゃんと食ってる?」

 ざらついた低い声でぽつりと言う。言葉の割に心配の色は見られなかった。一度腹が大きく膨らんで、祥吾が息を吸い込んだのが感じられた。

「食ってんよ。てか見てんじゃん」

 ぼそぼそと答えた祥吾の声はさらにざらついていて、そっけなく聞こえる。一真は別に気にした風でもなく、短く同意した。細い体の割によく食べるのは知っているし、今夜も共に食事をしたばかりだ。だからこそ気遣いのない言い方になったわけだが。
 一真の指は程よくついた筋肉を辿っていく。伏せた目はぼんやりと自分の指先を追っていた。分け目が崩れてこぼれてきた前髪が半分視界を塞ぐ。片手で髪をかきあげながら特に意味もなく祥吾の腹を撫でていた。

「それやめて」

 祥吾が眠たそうにそう言った。一真はぴたりと指を止め、目だけで祥吾を見上げる。やめてと言いつつ声に棘はなく、本気で嫌がっているようにも見えない。

「なに、くすぐったい?」

 祥吾はちらりと一真の方に目を向けた。祥吾の体に沿うようにして二人の視線が絡む。

「勃ちそー」

 笑いもなくだるそうに呟かれた言葉に一真は思わず振り向いて投げ出された両足の間に目をやっていた。随分前から落ち着いている中心が反応している様子はない。それでも腹を撫でられるとぞわぞわとした感触があるのだろう。一真は頭を戻し、祥吾に向き直った。

「そしたら抜いたげる」

 なんでもないようにそう答えて叱られない程度に太腿に手を触れた。やはり少し冷えてきているようだった。

「んな出ねーし」

 祥吾はそう言って視線を天井に戻す。コンタクトも眼鏡も外しているのだから一真の顔もしっかり見えなかったことだろう。少し拗ねたような言い方はそんなこと一真の方が知っているだろうと言いたげだ。
 繋がる前に一度、なにかと器用な指と口で出させ、後ろを突きながら触れた。穿つことに夢中になってからも何度か吐き出していたようだった。もうイったから、と涙声で言われた後も数回搾り取ろうとするような収縮があったような気もする。

「……腰痛くない?」

 少しやりすぎだったかもしれないとへにゃりと眉を下げる。

「今聞く?」

 祥吾はそう言って鼻で笑った。
 一真は祥吾の本当に嫌がっている声も、体力の限界も知っているはずだ。なにしろ天邪鬼な祥吾のことだ、だめがもっとで大丈夫が無理なこともある。初めのうちは随分振り回されたがもう読み違えることはほとんどなくなっていた。
 そんな一真が祥吾の体を痛めるようなことをするはずがない。抱く時も祥吾が照れくさくなるほど丁寧で大切だと伝わってくるような触れ方をしてくる。いいからさっさと突っ込めと覆いかぶさった背中に踵を落とすこともあるくらいだ。
 今回もさりげなく腰の下にはクッションが入れられていて負担のかからないようにされていた。同じ男として憎らしくなるくらいの気遣いだ、と思う。そのクッションは濡れたせいで洗濯行きである。

「別に痛くはねぇよ、だりぃけど」

 主人を心配する子犬のような目でじっと見られているんだろうな、と思いながら祥吾は誤魔化さずに答えた。ホッとした気配が腹から伝わってくる。
 祥吾の限界を知っていて許容量を超えるようなことはしないが、溢れるギリギリまで追い込んでくるのは意地が悪いと思う。体を重ねるたびに露わになる弱い部分に余すところなく触れてくる。一真は祥吾に気持ちよくなってほしいなどと言うが、そのうち壊されてしまいそうだ。壊し方を知っていながら一真がそうしないだけなのだから。
 以前は限界を計りかね、若かったせいか止まることもできずに気絶するまで抱かれたこともあったか、と少し懐かしく思い出す。生き返るように目を覚ますと心底安心した顔で一真が謝り倒した。祥吾よりがっしりとした肩を小さく縮め、情けなく眉を下げて心配する姿は嫌いじゃなかった。
 どこかの臓器が動いたのか、ぎゅると腹が鳴った。たいして気になることでもなかったが、直接耳をつけていた一真には随分大きな音に聞こえたらしい。

「腹減った?」

 一真がまた腹を撫でてそう聞いてくる。やめろと言ったのに、と祥吾は少し眉を曲げた。別になんということはないが、掠める場所のせいか触れ方のせいか時折背筋がむず痒くなるような感覚があった。一真の息遣いが直接伝わってくる。
 体の内部の音を聞かれたのが妙に気恥ずかしくて、ごまかすようにふいっと目を背けた。

「誰かが中出しすっからじゃねえの」

 力を入れていないせいで喉が出すのはささくれた低い声だった。そっけなく言えば、ごめぇん、と謝る気のない返事があった。別にいいと言ったのは祥吾の方だから悪いとも思っていないのだろう。
 機嫌を取ろうとするように腹を撫でていた指が投げ出された祥吾の手に触れた。手の平が合わさり指が絡められる。力の抜けた手はされるがままになっていた。
 目を下に向ければはっきりと表情は分からずとも幸せそうな気配が伝わってきた。頬を緩めて愛おしそうな目でもしていることだろう。自分に向けられる優しい顔つきが自然と脳裏に描かれる。
 祥吾はじゃれつかれていない方の手で一真の髪に触れた。どうしたのかと聞いてくる視線には答えず、闇の中でも一際深い黒髪を梳いた。邪魔そうな前髪をさらってやると心地よさそうに一真が頬を腹に擦り付けてくる。

「うわ、もう朝じゃん」

 のんびりとした時間は祥吾の声で終わった。ぼうっと撫でていた手を止め、祥吾はカーテンへと目を向ける。向こう側に朝の気配が迫っているのがわかる。部屋の闇もいつしか薄くなっていて、明け方の柔らかい青色に近づいていた。

「あーほんとだ」

 一真もぼそぼそとそう言った。ベッドに入るのが遅かったせいで朝に追いつかれてしまったようだ。名残惜しげに手が離されると寒くなったようで、今まで体温が溶け合っていたのが感じられた。
 一真はもそもそと起き上がり、祥吾の隣に寝そべる。腹を守っていた重みがなくなったからか、急に肌寒くなった。
 一真が横から手を伸ばし、体を抱き込んでくる。首筋に鼻先が触れた。汗と、肌と、一真の匂いがする。互いの香水はとっくに体温で蒸発してしまっていた。

「せっま」

 祥吾が身動いで不満を漏らした。しょうがないだろ、と少し下から声が返ってくる。髪の先が顎に触れてくすぐったかった。ふあ、とあくびの呼吸が肌にあたる。

「もう寝よ」

 一真が眠たげな声を出し、祥吾は目を閉じた。疲れ切っていた体はすぐに眠りに引きずり込まれていく。一真が毛布を引っ張り上げたようで、心地のいい暖かさに包まれた。
 お返しというように髪が撫でられ、余計に眠気が襲ってくる。抱かれた右側が温かく、互いの境界が消えていく。おやすみと囁く柔らかい声で夢に落ちた。二人を捕まえ損ねた朝は街に広がり、寄り添う寝顔の闇をそっと薄めた。
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