蠱毒な少年 -闇に咲く白い花-

こーいち

文字の大きさ
17 / 47
其の弐 桃日絆希と篠懸才児のケース

秘めた想い

しおりを挟む
 やや古ぼけたビルの階段を上がると、いくつかのテナントがあった。周囲を見渡し、そのうちの1つに入る初老の男。

 篠懸すずかけ探偵事務所。

 木製のドアにかけられたプレートにはそう書かれていた。

 中に入ると、見かけ30代程の若い男と制服を着た学生が何やら話し込んでいた。事務所に入ってきた初老の男を見るなり、男は丁寧に挨拶をすると部屋の中央にあるソファに座るよう促した。

 入口側のソファに初老の男が座り、テーブルを挟んで対面の椅子に若い男が腰掛ける。自身の名刺を渡し、自己紹介をする若い男。その間に学生はコーヒーを淹れ、各人の目の前に置いた。


「それで、本日はどのようなご用件で?」


 若い男の方が話を切り出す。初老の男はしばし沈黙を守った後、重たい口を開いた。


「"蠱毒な少年"という言葉に聞き覚えはありませんか?」


----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


絆希きずき!! 今日帰りにカフェ寄ってかない?」

「残念! 今日はバイトの日です!」

「なに~! 学生の分際でバイトなんかしてる悪い奴はこうだ!!」

「いやっ、ちょ、あはははは! くすぐらないでぇ~!」


 放課後。空はすっかり茜色に染まり、次第に夜が近づいてくる。少し肌寒い季節になってきた。そろそろタイツでも履こうかな。

 同学年の友達とバカなやり取りをした後、バイト先のコンビニに向かう私こと桃日絆希ももひきずき十七歳高校二年生には、とにかくお金が必要だった___。





「ありがとうございましたー! またお越しくださいませー!」


 お客さんにレシートとお釣りを手渡して、景気よく挨拶する。もう何百回と繰り返してきた工程だ。店内の時計を見ると、そろそろ十時になろうとしていた。


「絆希ちゃん! お疲れ様! ぼちぼち上がっていいよ!」

「はーい! お疲れ様でした!」


 ロッカールームで着替えを済ませてコンビニを出ると、駐車場に見覚えのある車が停まっていた。お父さんの車だ。向こうも私に気付いたようで、窓を開けて手を振ってきた。


「お疲れ様! 今日は変わりなかったか?」

「うん! いつも通りだったよ!」

「そうかそうか、それは何よりだ」


 私が助手席に乗り込むと、お父さんは車を発進させた。このやりとりも、もう何十回としてきた。


「お父さん、わざわざ迎えに来なくても、わたし一人で帰れるよ」

「いやいや、お父さんもちょうど仕事帰りだったんだ」

「嘘ばっか! それ部屋着じゃ~ん!」

「おお! 絆希もやるようになったな!」

「フフッ、何それ」


 お父さんは冗談めかしたことを言っているが、バイト先から私の家は徒歩で十五分くらいなので、かなり近い。それでも、お父さんは必ず私を迎えに来てくれた。


「こんな時間だしな…。お父さんは心配なんだよ。絆希の事が。分かってくれ」

「うん。分かってるよ。いつもありがとね」


 少し照れくさくなって俯く。顔赤くなってないかな? 横目でお父さんの方を見ると、すました顔をしていた。けど、私にはわかる。お父さんも絶対に照れてる。





 ご飯とお風呂を済ませて部屋に戻った私は、机に座ってノートを開いた。このノートには、私が今までに稼いだ金額を記録している。今日のバイトを合わせると………合計で二十七万三千四百円。ひとまずの目標の三十万まで、あと少し。


「よし! これからも頑張ろう!」


 決意を新たにしていると、ドアがノックされた。


「絆希、少しいいかな?」


 お父さんの声だった。はーいと返事をするとお父さんは部屋に入り、ドアを閉めた。


「どうしたの?」

「前々から言おうと思ってたんだが…お金が必要なら、お父さんとお母さんに相談してくれればいいんだぞ」


 私は首を横に振った。


「それはダメ。このお金はわたしが自分の為に使うものだから、お父さんとお母さんには頼っちゃいけないの」

「じゃあせめて、何に使うかだけでも教えてくれないか?お父さんに言いにくかったらお母さんにでもいい」

「それは...ごめん。出来ない。多分反対されると思うから」


 困ったような、不安そうな顔をするお父さん。私を心配してくれているのは百も承知だ。何かに巻き込まれているのではないか、と。多分そう思っている。

 そうじゃない。これは、私が自分で決めたこと。それをお父さんにちゃんと伝えないといけない。私はでも、と付け加える。


「悪いことには使わない。絶対。約束する。だからわたしを信じて欲しいの」


 真剣な眼差しでそう宣言する。お父さんはそうか、とだけ言うと少し考え事をしてからこう言った。



「絆希は今のままでも十分可愛いと思うぞ?」

「いや整形じゃないから!?」


 お父さんは、はははと笑うと部屋を出て行った。そんな風に見られてたのか、自信なくすなぁ。冗談はさておいて、再びノートの方に向き直る。これだけあれば、一旦することくらいは出来るかもしれない。


 私には、絶対に果たさなければならない事がある。そしてそれは、私一人の力では難しい。誰かの協力が必要だった。これはその為に使うお金だ。


想代香そよか…」


 友人の名を呟く。


「私が必ず、あなたが死んだ理由を見つけてみせるから」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...