蠱毒な少年 -闇に咲く白い花-

こーいち

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白い追憶 野乃花のケース

私は籠の中の鳥

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 さて、私が長く拘束の多い病院生活でどのように時間を潰しているのかというと………主に読書をして過ごしている。

 本はいい。狭い病室にいながら、時に冒険して、時に汗を流して、時に恋をして...。本は私を色々な世界に連れて行ってくれる。今日も、ベッドの傍らに積み上げられた本を読みあさっているのだが...。


「これは、どうしたものかなぁ...」


 私が手にしているのは、普通の書籍や単行本とは異なるやや分厚いサイズの本。そのタイトルは、"最恐! 最新! 都市伝説特集!!"。その名の通り、最近噂になっている都市伝説などをまとめたものだ。


幸世さちよめ。私が怖いもの苦手だって知ってるくせに」


 幸世、というのは私が所属している高校の同級生である霞幸世かすみさちよという子の事である。幸世は私の幼馴染で、昔からよく一緒に遊んでいた。私が病にかかり入院を余儀なくされてからも、時折顔を出しては私の暇つぶし用の本を持ってきてくれた。たまにこういうイジワルなものも入れ込んでくるけど。

 それでも、幸世が持ってくる本は全て読むようにしている。それは、今も昔も変わらず私に接してくれる彼女への、精一杯の感謝の気持ちの現れだった。

 この本も時間をかけて少しずつ読みすすめているのだが、やはり怖いものは怖い。特に、病院絡みの話が出てくるともう気が気ではなくなってしまう。心の中でひえ~、きゃ~、と悲鳴を上げながらも、何とか読破することに成功した。

 ぱたんと本を閉じて、ぐ~っと背伸びをする。壁にかけられた時計は、午後十一時を指していた。今日もう遅いし、そろそろお休みしよう。ベッドに体重を預けると、あっという間に眠りについた。





 ___あなたはだあれ?

 ___どうして髪の毛が真っ白なの?

 ___どうしてあなたが"それ"を持っているの?

 ___あなたの名前は___





「野乃花、おーい! 野乃花ぁ~」


 聞き覚えのある甘ったるい声とともに、体がゆさゆさと揺らされているのを感じて目を覚ます。何だか妙な夢を見たような気がするけど、その内容は全然思い出せない。


「お! 起きたな、このねぼすけさんめ~」

「んぅ、幸世、朝からうるさいよぅ」

「えへ、ごめんごめん。野乃花の顔を見たらテンション上がっちゃって」

「そっか。ふああぁぁぁ、幸世、今何時?」

「朝七時だよ」

「早すぎだよ!? よく入れてもらえたね!!」

阿瀬比あせびさんにお願いしたらなんとかなったよ~」


 そう言って幸世はへらへらと笑っている。阿瀬比さん...。院長さんにバレたらまた怒られちゃうよ...。窓の外を見ると、今しがたようやく日が昇ってきているところだった。


「そんなに早く来なくても良かったのに~」

「えへへ、早く野乃花の顔が見たかったんだ~」


 幸世はこういう事を恥ずかしげもなく言うから油断ならない。思わず幸世から顔をそむけてしまう。ああ、熱い熱い。顔が熱い。多分真っ赤っかになってる。


「どうしたの、野乃花~」

「な、なんでもないよ。それより幸世、こないだ持ってきた本の中に怖いやつ混ぜてたでしょ!」


 はぐらかしながらも、何とか話題を逸らす。幸世は「ああ、あれねぇ」と言うと、にやにやと不気味な笑みを見せた。


「面白かったでしょ?」

「面白がってるのは幸世の方でしょ! 凄く怖かったんだから! もう~」

「えへへ、最近の流行も知ってほしいと思って~」

「絶対使わない流行を教えてくれてありがとね」

「どういたしまして~」


 そんなやりとりも程々に、最近の学校での出来事やら、駅の近くに新しくできた喫茶店の事やら、今流行りのファッションやら、私が知り得ることの出来ない色々な事を幸世に教えてもらった。

 ニコニコと楽しそうに話している幸世を見ると、私も嬉しくなる。しかし、それと同時に私も外に出て幸世とおんなじ体験をしたい、という欲も強まってくる。決して多くは望まないけれど、せめて


 こんな体じゃなかったらなぁ...。


 やはりそう思ってしまうことは、果たして悪いことなのだろうか。私が皆と同じ体であれば、お父さんやお母さんに迷惑をかける事もなかったし、幸世と一緒に何処へでも遊びに行けたはず。それが叶わないのは、一体どうしてなのだろう。


「ん? ど~した野乃花?」

「え? い、いや、なんでもないよ!」


 そんな私の心を察したようで、幸世は怪訝けげんな表情で私の顔をまじまじと見てくる。そんなに顔に出てたかな。さっきの事といい、私はどうやら感情が顔に出やすいタイプらしい。


「…そっか! それならいいんだ~。それでね...」


 何とかスルーしてくれたようでほっと胸を撫で下ろす。今度からはもっと気をつけなきゃ。

 そうしてまた幸世と話す時間は本当に楽しくて、ずっとずっとこうしていれたらと思うけれども、そういう時間程あっという間に過ぎ去っていく。ふと窓の外を見ると、夕焼けで真っ赤に染まっていた。


「もう、日が暮れちゃったね」

「ちょっと長居しすぎちゃった。そろそろ帰らなきゃ」

「うん...」


 ずいっ。


「わ」


 幸世が顔を私の眼前まで近づけてきた。近い。近すぎる。なんならうっすら鼻先同士が当たっている。幸世のぱっちりした大きな瞳と目が合う。


「野~乃花!」

「な、なに!?」

「絶対また来るからね。待ってて」

「幸世...」


 何だか今日は幸世に振り回されてばっかだな。でも、それも私の事を想ってくれているからこそなのだ。なんだか申し訳ない気持ちで心が一杯になる。


「はい、これ。新しい本持ってきたから、暇つぶしに」

「うん。いつもありがとう、幸世」

「ううん! それじゃ、またね~」


 そう言うと、幸世は病室を出て行った。幸世とのおしゃべりの余韻に浸っていると、しん、と部屋の中が静まり返っているのに気付く。

 ああ、そうだ。この部屋は本来こういう場所なんだ。だって、病院だもん。静かなのが当たり前だもん。私は、幸世のいる賑やかな外の世界では生きていられない、かごの中の鳥なんだ。

 頭の中でまたもやもやした感情が浮き沈みする。最近、こういう事を考えるようになってしまっている自分がいる。どんどん成長して前に進んでいっている友人と、ずっと止まったままの私。

 ああ、誰か。私を籠の外へ連れ出してくれないだろうか。いや、出来ることなら自分の力で何とか...。やっぱり難しいのかなぁ...。

 取り敢えず、幸世の持ってきた本でも読もう。そうすれば、私は一時の間でも、籠の外へ出られるのだから。
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