47 / 62
第4章〜イケてる彼女とサエない彼氏〜③
しおりを挟む
三軍男子の動揺~深津寿太郎の場合~
週明けに、副部長の不知火に発破をかけられ、妹の柚寿の報告によって亜矢の真意を聞かされたオレは、その日の放課後から、動画の作成作業に入っていた。
月曜日の昼休みまでは編集方針が定まらず、自分の中で作品の完成形というものが見えていなかったのだが……。
友人と妹から得られた指針と情報によって、自分自身の覚悟が決まったという側面が大きい。
(この、ひと月の経験は、とても、ひとつの作品に収めることはできない)
そう考えたオレは、二本の作品を、それぞれ別々のテーマでまとめ上げることにした。
一本目は、オレ自身が被験体となった『三軍男子の改造計画』に関するドキュメンタリー。
これは、映文研の下級生メンバーや、イメチェン計画に協力してくれた亜矢たちに対して説明を行っていた、表向きの作品。
そして、二本目は、イメチェン計画の発案者でもあるクラスメートの真の姿に迫る『瓦木亜矢・一軍女子の素顔』。
こちらは、不知火の「カメラのチカラで、キラキラの一軍女子サマの真の姿ってヤツを明らかにしてやろうぜ!」という一言がきっかけになって生まれた作品であることは、説明するまでもないだろう。
ほぼ月曜日の放課後から、まるまる二日の作業によって、三日月祭と『映像甲子園』に出品する『三軍男子の改造計画』の編集作業を終えたオレは、部活動における最低限の責任が果たせたことに安堵しつつ、不知火のアドレスに動画データを添付したメールを送信し、仮眠をとったあと、次の作業に移ろうとしていた。
起動したままのノートPCで、動画編集ソフトの「ビデオの新規作成」ボタンをクリックしたところで、不意に自室のドアがノックされた。
「寿太郎、ちょっとイイかい?」
ドアの向こうからは、祖母の声が聞こえてきた。
「あぁ! 祖母ちゃん、どうしたの?」
そう返事すると、ゆっくりと扉を開けた祖母が、一枚の紙切れを手にして、自室に入ってきた。
「さっき、エントランスに、あんた宛にお客さんが来てたよ。ほら、この間、この家に来てた女の子……」
我が家に来たことのある女子といえば、亜矢と樋ノ口さんだが、祖母と面識があるのは……そして、このタイミングで、わざわざオレを訪ねて来る相手といえば、ひとりしかいないだろう。
「亜矢……瓦木さんか……その子、祖母ちゃんにナニか言ってた?」
そうたずねると、祖母は、小さく首を横に振ったあと、
「寿太郎は忙しいようだから、『そっとしておいてほしい』と伝えたら、『このメモを渡してほしい』って、言伝をして、帰って行ったよ」
と、返答して、折りたたまれた紙をこちらに手渡してきた。
手渡されたメモを少し開き、亜矢の名前を確認すると、内容の確認は後回しにして、彼女に応対してくれたことと、オレ自身に対しての気づかいについて、祖母に礼を言う。
「ありがとう、祖母ちゃん。さっきまで、仮眠をとってたから、気づかなかった。『せっかくきてくれたのに申し訳ない』って、彼女には、今度会ったときに謝っておくよ」
すると、祖母は、苦笑と同情と困惑が混じったような複雑な表情で返答する。
「どんな大事なことをしてるのか、祖母ちゃんにはわからないけど……あんまり、根を詰めすぎて、女の子を悲しませないようにね……あんたの父親は、それが原因で、相手に逃げられたんだから……」
突然、父親のことを持ち出されて驚いたが、両親の離婚の件では、オレも柚寿も、祖母に負担をかけてしまっていることを自覚しているので、反省を示しつつ、少しだけ神妙なふりをして、
「あ~、そうだな……気をつける」
と答えておくことにする。
こちらの返答に満足したのかは定かではないが、祖母は、柔らかな表情で、ゆったりと小さく二度、首を縦に振り、
「もうすぐ、夕飯ができるから、今日は、きちんと食べるんだよ」
と、言い残して、廊下に出ていった。
『三軍男子の改造計画』の編集作業を終えることができたことで、明日からの上映とコンテストの出品にめどがつき、映文研への責任は、なんとか果たすことができたが、亜矢をはじめとするクラスメートや自分自身の家族にも迷惑をかけていることをあらためて実感し、デスクワークでなまっていた身体をほぐしながら、軽くため息をつく。
周囲の人々に申し訳ない、という想いが芽生えると同時に、自分を訪ねてきてくれたというクラスメートの顔が浮かんできたので、ついさっき手渡されたメモを確認することにした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
寿太郎には色々と謝りたいことがあります
ゆるしてほしい、と言える立場じゃない
ことはわかっているけれど…………
みんな、寿太郎のことを心配してるので、
三日月祭に出席してもらえると嬉しいです
AYA
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
LANEのアドレスを交換していれば、いまどき、こんなアナログなやり取りをしなくて済んだのにな……と、今さらながらに自分のコミュ障ぶりを後悔しながら、オレは、ある決意を胸に、もう一本の動画編集に取り掛かることにした。
週明けに、副部長の不知火に発破をかけられ、妹の柚寿の報告によって亜矢の真意を聞かされたオレは、その日の放課後から、動画の作成作業に入っていた。
月曜日の昼休みまでは編集方針が定まらず、自分の中で作品の完成形というものが見えていなかったのだが……。
友人と妹から得られた指針と情報によって、自分自身の覚悟が決まったという側面が大きい。
(この、ひと月の経験は、とても、ひとつの作品に収めることはできない)
そう考えたオレは、二本の作品を、それぞれ別々のテーマでまとめ上げることにした。
一本目は、オレ自身が被験体となった『三軍男子の改造計画』に関するドキュメンタリー。
これは、映文研の下級生メンバーや、イメチェン計画に協力してくれた亜矢たちに対して説明を行っていた、表向きの作品。
そして、二本目は、イメチェン計画の発案者でもあるクラスメートの真の姿に迫る『瓦木亜矢・一軍女子の素顔』。
こちらは、不知火の「カメラのチカラで、キラキラの一軍女子サマの真の姿ってヤツを明らかにしてやろうぜ!」という一言がきっかけになって生まれた作品であることは、説明するまでもないだろう。
ほぼ月曜日の放課後から、まるまる二日の作業によって、三日月祭と『映像甲子園』に出品する『三軍男子の改造計画』の編集作業を終えたオレは、部活動における最低限の責任が果たせたことに安堵しつつ、不知火のアドレスに動画データを添付したメールを送信し、仮眠をとったあと、次の作業に移ろうとしていた。
起動したままのノートPCで、動画編集ソフトの「ビデオの新規作成」ボタンをクリックしたところで、不意に自室のドアがノックされた。
「寿太郎、ちょっとイイかい?」
ドアの向こうからは、祖母の声が聞こえてきた。
「あぁ! 祖母ちゃん、どうしたの?」
そう返事すると、ゆっくりと扉を開けた祖母が、一枚の紙切れを手にして、自室に入ってきた。
「さっき、エントランスに、あんた宛にお客さんが来てたよ。ほら、この間、この家に来てた女の子……」
我が家に来たことのある女子といえば、亜矢と樋ノ口さんだが、祖母と面識があるのは……そして、このタイミングで、わざわざオレを訪ねて来る相手といえば、ひとりしかいないだろう。
「亜矢……瓦木さんか……その子、祖母ちゃんにナニか言ってた?」
そうたずねると、祖母は、小さく首を横に振ったあと、
「寿太郎は忙しいようだから、『そっとしておいてほしい』と伝えたら、『このメモを渡してほしい』って、言伝をして、帰って行ったよ」
と、返答して、折りたたまれた紙をこちらに手渡してきた。
手渡されたメモを少し開き、亜矢の名前を確認すると、内容の確認は後回しにして、彼女に応対してくれたことと、オレ自身に対しての気づかいについて、祖母に礼を言う。
「ありがとう、祖母ちゃん。さっきまで、仮眠をとってたから、気づかなかった。『せっかくきてくれたのに申し訳ない』って、彼女には、今度会ったときに謝っておくよ」
すると、祖母は、苦笑と同情と困惑が混じったような複雑な表情で返答する。
「どんな大事なことをしてるのか、祖母ちゃんにはわからないけど……あんまり、根を詰めすぎて、女の子を悲しませないようにね……あんたの父親は、それが原因で、相手に逃げられたんだから……」
突然、父親のことを持ち出されて驚いたが、両親の離婚の件では、オレも柚寿も、祖母に負担をかけてしまっていることを自覚しているので、反省を示しつつ、少しだけ神妙なふりをして、
「あ~、そうだな……気をつける」
と答えておくことにする。
こちらの返答に満足したのかは定かではないが、祖母は、柔らかな表情で、ゆったりと小さく二度、首を縦に振り、
「もうすぐ、夕飯ができるから、今日は、きちんと食べるんだよ」
と、言い残して、廊下に出ていった。
『三軍男子の改造計画』の編集作業を終えることができたことで、明日からの上映とコンテストの出品にめどがつき、映文研への責任は、なんとか果たすことができたが、亜矢をはじめとするクラスメートや自分自身の家族にも迷惑をかけていることをあらためて実感し、デスクワークでなまっていた身体をほぐしながら、軽くため息をつく。
周囲の人々に申し訳ない、という想いが芽生えると同時に、自分を訪ねてきてくれたというクラスメートの顔が浮かんできたので、ついさっき手渡されたメモを確認することにした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
寿太郎には色々と謝りたいことがあります
ゆるしてほしい、と言える立場じゃない
ことはわかっているけれど…………
みんな、寿太郎のことを心配してるので、
三日月祭に出席してもらえると嬉しいです
AYA
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
LANEのアドレスを交換していれば、いまどき、こんなアナログなやり取りをしなくて済んだのにな……と、今さらながらに自分のコミュ障ぶりを後悔しながら、オレは、ある決意を胸に、もう一本の動画編集に取り掛かることにした。
4
あなたにおすすめの小説
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。
東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」
──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。
購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。
それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、
いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!?
否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。
気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。
ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ!
最後は笑って、ちょっと泣ける。
#誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~
root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。
そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。
すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。
それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。
やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」
美人生徒会長の頼み、断れるわけがない!
でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。
※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。
※他のサイトにも投稿しています。
イラスト:siroma様
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる