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遊馬友仁

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第2章~Get along~④

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そうして、秀明は前年の夏休み終盤に、ビデオレンタルショップで出会った職務放棄をしながら、熱心にジョン・ヒューズの学園映画について語ってきた女性店員の話を、昭聞に語った。

「へ~、去年の夏、そんなことがあったんや」
「まあ、そのお姉さんとは、それから会えてないんやけど……」

と、つぶやく秀明に対して、昭聞は感心した様に、

「けど、おまえより映画について熱く語るとか、そのヒト、なかなかスゴいな」

と感想を漏らした。

「そうやろ!しかも、細かいところまで作品を良く見てるなって思うし、それを言語化、って言うの?ちゃんと言葉にして表現できるところとかも……。ブンちゃんが、オレのこと評価してくれて、今回の企画に誘ってくれたことは、嬉しく思ってるところもあるけど、自分は、あのお姉さんには、到底かなわんと思ってるわ」

苦笑いしながら、答えた秀明に、

「まだまだ、その店員さんと話したいことがあったみたいやな」

昭聞は、そう言って気持ちを察する。

「そうやな」

うなづく秀明に、

「また会えたらイイな。その店員さんと」

昭聞は、秀明に語りかける。
この時、普段は冷たさすら感じさせる、その目は優しかった。

尼崎駅で路線の乗り換えを行い、自宅の最寄り駅に近付いた時、秀明は昭聞に切り出した。

「今日聞かせてもらった話しは、前向きに検討させてもらうわ。ただ、放課後の活動になるなら、一応、親にも報告しておきたいし、日曜日の夜までに、ブンちゃんの家に電話して、返事するってことで良いかな?」

中高生が携帯電話を所持する前の時代である。学校外で連絡を取り合うには、家庭用電話を活用するのが一般的であった。

「ああ、イイ返事を期待してるで!今日は、秀明と色々な話しが出来て良かったわ」

と返答する昭聞に、

「お互いにな!」

秀明は返答して、昭聞と別れた。



日曜日の夕方、秀明は映画観賞から帰宅して、すぐに昭聞の家に電話を掛ける。

「あ、ブンちゃん!金曜日の話しやけど、正式に放送部の依頼を受けさせてもらおうと思うわ」
「それと、もう一人の共演者についても、協力してくれるかも知れないヒトが見つかったから、月曜日の放課後に放送室に行かせてもらって良いかな?」
「え、誰かって?それは、月曜日のお楽しみということで!アカデミー作品賞の『フォレスト・ガンプ』にケチをつけて、『レオン』では、ジャン・レノやナタリー・ポートマンじゃなくて、ゲイリー・オールドマンに注目するヒトやから、期待しといて!とだけ言わせてもらうわ」

興奮気味に語り、「高梨先輩にも報告をお願い」と付け加えてから、受話器を置いた。



月曜日の朝、登校してきた正田舞に声を掛けて、廊下での立ち話に誘った秀明は、週末に吉野亜莉寿から課されていた課題をクリアしたことと、その時の顛末を端的に話した。

「そっか。ようやく、ちゃんと吉野さんと話しが出来たんや。ホンマ、他人のことやのに、この一ヶ月は焦れったい感じやったわ」

そう言って、ホッとした表情を見せるクラスメートに、

「ご迷惑とご心配をお掛けしました」

と謝意を示す秀明に、「どういたしまして」と、明るく返して、

「もし、聞けたら、吉野さんの方からも、どんな感じだったか話しを聞いてみようかな?」

と、さらに興味を持った様だ。

「あ~、吉野さんが、どこまで話すのかは、わからへんけどね……」

と秀明が答えると、

「大丈夫!吉野さん、有間のことやったら、普段と違って、おしゃべりになるから」

と笑って、彼女の席に戻って行った。
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