シネマハウスへようこそ

遊馬友仁

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第4章~たんぽぽ娘~②

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翌日、秀明は朝の教室で、昭聞に昨夜の映画についての感想を伝えた。

「ブンちゃん、『ショーシャンクの空に』めっちゃ良かったで!まずは、ブンちゃんと放送部に感謝を伝えておこうと思って」
「そうなんや。それは、良かった。二人を派遣した甲斐があったわ(笑)詳しいことは、放課後に聞かせて」
「了解ッス。じゃあ、この話しは、また放課後に!」



その日の放課後、月曜日と同じメンバーが再び放送室に集った。

「あきクンから聞いたけど、映画、面白かったんやね~」

秀明と亜莉寿が放送室に入ると、新番組(!)のプロデューサー役を自認する高梨翼が、開口一番、二人に話し掛ける。

「はい!とっても良い映画でした!試写会に行かせていただき、ありがとうございました」

と亜莉寿が、丁寧に礼を述べる。
秀明も、

「記念すべき第一回目の放送で、この映画に巡り合えて幸運だと思いました。高梨先輩、ありがとうございます」

と感謝の言葉を伝えた。
一方、新人プロデューサーは、出演者二人からの謝意に対して、

「二人とも、お礼は、この提案をしてくれた、あきクンに言ってあげて~。でも、それだけ良い映画やったら、二人のお話しにも期待したいな~」

と、しっかり放送のことに意識を向けさせることも忘れない。
秀明と亜莉寿は、顔を見合せて苦笑し、

「全力を尽くします」

と秀明が答えた。

最終打ち合わせでは、新企画のコンセプトと番組の各コーナーの役割について確認を行った。

《『シネマハウスへようこそ』番組コンセプト》

架空の映画館シネマハウスの館長アリマとレンタルビデオ店シネマアーカイブスの店長アリス、そして、アリマの弟子であるブンちゃんが、新作映画やレンタルビデオ作品について、見所およびツッコミ所を紹介する映画情報番組。

《出演者とスタッフ》
●出演者
アリマ館長:有間秀明
アリス店長:吉野亜莉寿
ブンちゃん:坂野昭聞
●番組スタッフ
プロデューサー:高梨翼
ディレクター:坂野昭聞

《各コーナー名と概要》
●ウィークリー・ニュー・シネマ
メイン担当:アリマ
近日公開もしくは公開中の新作映画の見所を独自の視点で紹介

●レンタル・アーカイブス
メイン担当:アリス
レンタル可能な名作・傑作のビデオ作品を店長の解説を交えて紹介

昭聞作成の当初の企画書では、レンタル・アーカイブスのコーナーも、秀明が担当することになっていたが、アリマ館長から

「このメンバーには知られてしまっているから言うけど、レンタルビデオ店での吉野さんと自分との会話から考えて、レンタルビデオのコーナーは、アリス店長メインの方が相応しい」

との意見が出て、企画者と出演者双方の合意が成立したため、新作映画とレンタルビデオの紹介は、コーナー別にメイン担当を設定することになった。

《各パートの伴奏曲》
●オープニング
ロバート・パーマー『Addicted to Love』
●ウィークリー・ニュー・シネマ
エリック・セラ『Let Them Try』
●レンタル・アーカイブス
スティーブン・ライト『And now Little Green Bag』
●汎用ジングル
デヴィッド・デクスターD『Oh la la Tequila』
チャック・ベリー『You Never Can Tell』
●エンディング
ヴァンゲリス『Love Theme』

リストを見た秀明は、

「リュック・ベッソンに、タランティーノに、リドリー・スコット作品か……。作曲家はエリック・セラに、ヴァンゲリス!ここで、ジョン・ウィリアムズとか久石譲を使わないところが、いかにも、『ワタシたち、映画わかってます』って感じが出ててイイな!さすが、ブンちゃん」

と、言ってサムズアップを昭聞に送る。

「おまえは、選曲にも、いちいち嫌味を言わなアカンのか!?」

と昭聞が笑いながら応酬する。

「はい、新番組『シネマハウスへようこそ』は、こんな内容になります。異論がなければ、今日のところは、ここまでにしよう~」

高梨プロデューサーの一言で、会議は終了となった。
帰り際に、秀明は亜莉寿に声を掛ける。

「吉野さん、土曜日のことやけど……」
「あ、場所と時間を決めないとだね」
「うん。吉野さんは、場所や時間の希望とかある?」
「う~ん。あまり自宅から離れていない場所で、時間は午後からだと嬉しいかな?」
「じゃあ、西宮北口駅の北改札に午後1時頃に集合で、どうかな?あの辺りなら、お店もたくさんあるし」
「北口駅に午後1時ね、了解!」

亜莉寿とのアポイントメントの確認が終了して、集ったメンバーが解散すると、秀明の元に昭聞が寄って来た。

「なに?おまえ、土曜日にも吉野さんと会うの?」

と、ニヤニヤ笑いながら聞いてくる。

「来週の収録本番に向けた打ち合わせな。ブンちゃんが高梨先輩と行きたかったであろう試写会に行かせてもらったんやから、キチンと仕事をこなさないとね」

と、無表情を装いながら、カウンター・アタックを繰り出す。

「アホか!?翼センパイは、関係ないやろ!」

などと、男子二人が、じゃれあっていると、

「ナニナニ~?私が、どうかした~」

登下校に利用する路線が同じである上級生が寄って来た。

「いや、何でもないです……。なあ、有間センセイ」

と、昭聞は話しをそらそうとする。

「ふ~ん。あ、有間クン、吉野さんと打ち合わせするの?頑張ってね~。今回の企画は、出演者の二人のお話しがメインやから~」

翼は、それを受け流し、のんびりとした感じながら、プロデューサーとして秀明にクギを差す。

「はい!」

素直に答えながらも、

(おっとりしてる様に見えるけど、抜け目のないヒトやなぁ。この先輩は……)

そんなことを感じながら、秀明は放送部の二人と別れたあと、近所の書店で『ショーシャンクの空に』の原作『刑務所のリタ・ヘイワース』が収録されている新潮文庫『ゴールデンボーイ~恐怖の四季・春夏編~』を購入して帰宅した。
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