シネマハウスへようこそ

遊馬友仁

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第5章~耳をすませば~⑤

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♤「IBC!」
♢「『シネマハウスへようこそ!』」

BGM:ロバート・パーマー『Addicted to Love』

♤「みなさん、こんにちは!『シネマハウスへようこそ』館長のアリマヒデアキです」
♢「はい、店長のヨシノアリスです」
♤「という訳で、開始から、ひと月を乗り切った、『シネマハウスへようこそ』!無事に七月を迎えることができた訳ですが……」
♢「はい」
♤「なんと!夏期の短縮授業と夏休みの影響で、次回の放送は二ヶ月後になるという事態でありまして……」
♢「ねぇ(笑)?ちょっと、リズムが掴めて来たと思ったところで……。でも、まだ、開始から一ヶ月しか経っていないというのも信じられないけど」
♤「ホンマやね!一回目の放送とか、かなり前やった様な気がするけど、まだ、ひと月しか経ってないという」
♢「(笑)」
♤「そんな中、夏休み前の最後の放送ということもあって、今回は、これまで以上に注目度の高い作品を取り上げたいと思います!」
♢「これまで放送で、お話した映画も、良い作品だったと思うんだけど」
♤「プロデューサーさんから、『もっと、みんなが注目してる映画も取り上げてほしいな~』とプレッシャーを掛けられまして(笑)」
♢「六月は、大作映画が公開されなかったという事情もあるんだけどね……」
♤「そんな訳で、今回は、この夏休み最大の注目作品を取り上げたいと思いますので、ご期待下さい!」

BGM:デヴィッド・デクスターD『Oh la la Tequila』

♢「IBC『シネマハウスへようこそ』は、映画の最新情報を放送室から、お送りしています!」



♢「ウィークリー・ニュー・シネマ!」

BGM:エリック・セラ『Let Them Try』

♤「さぁ、夏休み前最後の新作映画ですけれども……」

BGM:オリヴィア・ニュートン・ジョン『Take Me Home,Country Roads』

♤「はい、オリヴィア・ニュートン・ジョンの『カントリー・ロード』が流れてきました。今回ご紹介するのは、スタジオジブリの新作アニメ『耳をすませば』です」
♢「一年ぶりかな?スタジオジブリのアニメが公開されるのは?」
♤「はい、去年の『平成狸合戦ぽんぽこ』に続いて、一年ぶりですね。ここ何年かで、《夏休みと言えば、ジブリアニメ》という感じになっていますが……」
♢「はい」
♤「今年の作品『耳をすませば』は、スタジオジブリの二大巨頭・宮崎駿さん&高畑勲さんのいずれでもなく、アニメーターとして、このお二人を近藤喜文さんが初監督を務めているということが、最大の注目ポイントじゃないかと思います」
♢「宮崎さんと高畑さん以外の人が監督するのは初めてなのね」
♤「そうなんですよ!ジブリの内部で、以前から、近藤さんに演出を任せようという約束があったみたいで、今回、宮崎さんは、企画と脚本を担当している様です」
♢「へー、そうなんだ」
♤「はい、という訳で、どんなストーリーなのか、ちょっとだけお話しさせてもらいます。主人公の月島雫は、読書好きの中学三年生。ある日、彼女のお父さんが勤めている図書館で、自分が借りた読書カードに、どれも天沢聖司という名前が書かれていることに気付きます」
♢「あの読書カードのシーン、スゴく良かったよね!何枚ものカードに書かれた『天沢聖司』の名前が一つに重なっていって、雫ちゃんの中で、その名前がスゴく重要な存在になることを視覚的に表現していて……」
♤「あっ!それ、ボクも思ったわ!アニメーションならではの演出というか表現かも知れないけど、あのシーンを観た瞬間に、『近藤監督の演出力すげぇ!』って(笑)」
♢「うんうん!」
♤「夏休みになっても、たくさん本を読みたい雫は、学校の図書室を特別に開けてもらって、街の図書館にも置いていない様な貴重な蔵書を借りるんですが、その本の寄付者に『天沢』の文字が!」
♢「このストーリーにグイグイと引き込んで行く脚本も上手いよね」
♤「先ほども話しましたが、脚本を担当しているのが、宮崎駿さんです。この図書室の蔵書のくだりは、原作のコミック『耳をすませば』とは少し異なるんですけど……」
♢「えっ!そうなの?」
♤「この辺り、興味のあるヒトは、りぼんマスコットコミックスの『耳をすませば』と読み比べてみて下さい」
♢「原作は、少女マンガなのね」
♤「はい!ボクも、自称・弟子っ子のブンちゃんも、原作既読組ですよ」
♢「そうなんだ(笑)」
♤「余談ながら、今回の作品は、宮崎さんが別荘だかアトリエだかに居た時に、たまたま目にした少女マンガ雑誌に掲載されていた、原作『耳をすませば』を気に入ったことがアニメ化の発端だそうなんですが……」
♢「へぇ~」
♤「雑誌掲載分の一部のお話しを、アニメにするために膨らませる話し合いに、『うる星やつら』の押井監督と『ふしぎの海のナディア』の庵野監督が参加していたという豪華ぶりで……。アニメファンとしては、この話し合いの場を覗いてみたい!!」
♢「あ~、ファンならそういう気持ちあるよね(笑)」
♤「余計な話しはさておき、ストーリーに話しを戻すと……。雫は、借りた本にあった天沢の名前が気になって図書室をあけてくれた先生に、どんな人なのかを尋ねるんですけど、待ち合わせをすっぽかされたクラスメートの夕子ちゃんが図書室にやってきて、この件は、有耶無耶になってしまいます」
♢「親友の夕子ちゃんも、図書室で面倒をみてくれる高坂先生も、良いキャラクターなのよね!」
♤「ですね~。雫が夕子と待ち合わせをしていたのは、この作品のテーマ曲とも言える『カントリー・ロード』の和訳した歌詞を夕子に渡すため。自分では、その訳詞に納得いかなかったので、遊び半分で作った『コンクリート・ロード』なんて替え歌を見せて、二人で笑いあったり、夕子ちゃんから恋愛の相談を受けたりして……」
♢「その恋愛相談の内容がまた複雑というか……(苦笑)」
♤「この辺りは、作品の見所のひとつとも言えるので、あまり深く触れずに、実際に作品を観て楽しんでもらいましょうか?さて、学校から帰ろうとした二人ですが、雫は図書室で借りた本をベンチに置き忘れていたことに気づいて引き返すと、そこには置き忘れた本を読んでいる見知らぬ男子生徒が居て……。彼は、何故か彼女が月島雫という名前であることを知っていて、さらに、『コンクリート・ロード』の歌詞を揶揄したりするので、怒った雫ちゃんは……」
♢「『やな奴!やな奴!やな奴!やな奴!』(笑)」
♤「……なんて、連呼しながら家に帰ります」
♢「このシーンは、印象に残るよね~」
♤「確かに(笑)家に帰った雫は、『コンクリート・ロード』の歌詞が書かれた紙を丸めて捨てる……、とストーリーの解説は、ここまでにしておきましょう!『天沢聖司が誰なのかは、普通に気付くやろう!?』という野暮なツッコミを入れると、アリス店長にイジられるので、今回は自重します」
♢「この映画の場合は、雫ちゃんが聖司クンの正体に気づくチャンスがなかったので、仕方ないんじゃない(笑)?」
♤「そ、そうかな……。そんな訳で、作品の評価としては、どうでした?」
♢「スッゴク良かった!主人公たちの表情や仕草の細かな演出とか……」
♤「この辺は、期待を裏切らないクオリティやったね~」
♢「スタジオ・ジブリの作品では、久々に主人公が同年代で共感できたところも多かったし!」
♤「そう言えば、『ラピュタ』や『トトロ』を観た時は、まだ小学生で主人公たちと同年代だったけど、『おもひでぽろぽろ』とか『紅の豚』とか、主人公が大人になってたもんね」
♢「そうそう!」
♤「やっぱり、共感できるところが多かったですか?店長、映画の途中のシーンで、めっちゃ泣いてたもんね?」
♢「えっ!?そうだっけ(笑)?」
♤「うん、雫が地球屋のお爺ちゃんさんに、小説を読んでもらったシーンとかで……」
♢「それ、今ここで言う必要あるかな(黒笑)?」
♤「(ヤバい、また何か地雷を踏んだ!?)いえ、その必要は無いです」
♢「そう。賢明な判断ですね(微笑)」
♤「(うわっ!「あとで覚えておいてね?」とか思ってる表情やん、コレ(汗))こ、今回の映画は、全体的に見れば、原作のコミックとの違いもありつつ、素晴らしい映画に仕上がってるな、と思うんですけど。ただ……」
♢「ただ?」
♤「個人的に気になる点もあって……。一つは、冒頭にも話した、図書の貸出カードに書かれている名前をきっかけに、雫が天沢聖司クンを意識するってところなんやけど……。アレって、プライバシー的に問題ない?」
♢「まあ、それはね……(笑)雫ちゃんのお父さんも、『もうすぐ図書館の貸出手続きが、バーコード方式に変わる』みたいなことを言ってたし」
♤「貸出カードにある名前を見て、『この本を借りた人は、どんな人なのかな?』って、想像するのは、原作のコミック版にも描かれているシーンで、図書館に通う《読書好きあるある》かも知らんけど……・。これからの時代は、もう、そういう描写も許されないと思うんですよ」
♢「確かに、問題があるかも知れないけど……。でも、私もお手伝いしていたビデオショップで、『この作品を借りたのは、どんな人なんだろう?』って気になったことがあってね……」
♤「うんうん」
♢「ラブコメ映画の『恋しくて』を借りて行ったのは、どんな人なのか、レンタル履歴を調べたことがあるからな~(笑)」
♤「へ~、そうなんや」
♢「そうしたら、そのヒト、他にも『小さな恋のメロディー』とか『リトルロマンス』を借りていて、あ~男の子なのに、ロマンチストなのかな~、って思ったり」
♤「ふ~ん、男性客やったんや。男子が、そのタイトルは確かに……。……ん?『小さな恋のメロディ』に『リトルロマンス』『恋しくて』って―――。それ、オレが仁川のレンタルショップで、リアルに借りたタイトルやん!!!!!!」
♢「あ、そうだったっけ(笑)?」
♤「(はぁ~、さっきの仕返しですか!?)それ、今ここで、言う必要ある?校内放送で、プライバシーをさらすのだけは、マジで、止めて(泣)」
♢「雰囲気に似合わず、ずいぶん可愛い趣味なんだなって、思ったけどな~(笑)」
♤「雰囲気に似合ってなくて、悪かったッスね!」
♧「どうも、お邪魔します。ブンです。なになに、アリマ先生?えらい可愛いらしい映画のタイトルが聞こえてきたけど(笑)」
♤「こんな話題にだけ食い付いて来て……」
♧「だって、先生!オレが好きな映画を聞いた時は、《スーパークールなタランティーノ映画》とか《おバカで熱いバズ・ラーマンの映画》とか言うてたのに……。そんな少女趣味があったんや(笑)?」
♤「いやいや、講談社ティーンズハート文庫の折原みと先生の大ファンとか、『魔法騎士レイアース』のアニメ観て泣いたとか言うてるブンちゃんにだけは言われたくないわ!!!」
♢「でも、二人とも『耳をすませば』の原作の少女マンガを買ってるんだよね?」
♤♧「「オトコが少女マンガ読んだらダメなんスか?」」
♢「そうは言ってないけど(笑)まあ、坂野クンなら、イメージ的に全然アリなんじゃないかな?女子から見ても、お話しが合いそうだし!でも、有間クンはねぇ……(笑)」
♧「だそうですよ、センセイ(笑)?」
♤「なに、この扱われ方の格差は?プライバシーをさらされた上に、オレだけ、ディスリスペクトされてる感じがするんやけど。この番組どうなってんの!?」
♧「あきらめて現実を受け止めよう、センセイ」
♢「(笑)」
♤「ひどい扱いや……。まあ、それはいいとして、もう一つ気になったのは、ラストシーンでの聖司クンのセリフなんですよ。ネタバレになるから具体的には言わないけど、二人ともアレどう思った?」
♢「あぁ、アレもね……(笑)」
♧「あそこは、宮さん、宮崎駿御大やってしもたな(笑)アニメの後半部分は、原作の少女マンガとは異なるところも多いんやけど、特にあのラストは、宮崎駿脚本のオリジナルの箇所やからな~」
♤「いや、恋愛に縁の無いボクが、宮崎御大にモノ申すのも、どうかと言う自覚はありますよ。自覚はありますけれども!それでも、『キミたち、まだ中学生やで!』ってツッコミを入れたくなるという(笑)」
♢「あ~ね~(苦笑)」
♧「あのラストシーンは、原作とは全然違うセリフになってるから、宮さんなりの若い観客へのメッセージなんやろうけど……。脚本家の恋愛観が、あそこに出てるとしたら、十代の人間とは、ちょっと価値観のズレがあるわな」
♤「この映画って、雫や聖司たちの日常が描かれるパートと雫の創作した幻想的な劇中劇の二つの世界を体験できるっていう、大きな魅力があると思うねんけど……。あのラストのセリフで、『なんでやねん!?』ってツッコミを入れることで、良い感じで物語の世界から現実に戻してもらえたわ、個人的には(笑)」
♢「私も、宮崎アニメの一番の魅力は、『この世界に、ずっと浸っていたい』と思わせる《魔力》にあると思ってるんだけど……。自分としては、今回の映画も最後まで作品の世界に浸ることが出来て満足だったけどな~」
♧「東京の聖蹟桜ヶ丘ですか?映画版の舞台になったああいう街に憧れっていうのはあるな」

BGM:ヴァンゲリス『Love Theme』

♤「あ、もうエンディングの時間!?まあ、最後に余計なツッコミを入れてしまいましたけど、あらためて我々が言うまでもなく、今回もスタジオジブリは、素晴らしい作品を提供してくれました!ぜひ、夏休みに映画館に観に行ってみて下さい!」
♧「やっぱり、夏と言えば、ジブリアニメは外されへんな」
♤「というわけで、本日のお相手は、『耳をすませば』のまぶし過ぎる登場人物たちを見て、死にたくなってきた有間秀明と」
♢「雫ちゃんと聖司クンの二人を応援したい、と思う吉野亜莉寿と」
♧「あの坂のある街に住みたいと思うブンでした!」
♤「それでは、また夏休み明けに!」
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