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第14章~Bascket Case~⑤
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「小学生の時、クラスに好きになった女の子がいてさ……。その子を好きになった理由は、席替えの時に席が隣になって、良く話す様になった、っていう他愛もないことなんやけど───。クラスで、その子と話すのが、あまりにも楽しかったから、『もっと、この子のことを知りたい』『放課後も会って話せたら楽しいだろうな』って思ったんよ。───で、小学生の時のオレは、放課後、自分の家から、そう遠く離れてなかった彼女の家の近くを巡るようになってしまって……」
亜莉寿は、秀明の話しを黙って聞いている。
「偶然を装って彼女に会えたら、って考えてたんやろうな、あのときの自分は───。それでも、二日くらいした後に、我にかえって、『自分は、何を気持ち悪いことをしてるんやろう』って思い直したら、自分自身の性格とか行動が怖くなってしまって……。考えたら、当たり前やわな。クラスメートで知り合いとは言え、自分が、他のヒトにそんなことされたら、怖くて学校に行けなくなってしまうかも知れない。それからは、彼女に何か申し訳なくなって、積極的に話せなくなってしまった。そのうち、その子に対する自分の中の恋愛感情みたいなモノも消えてしまって───。それ以来、女の子のことを好きになったりとか、恋愛的な話しは、自分には無縁なんやろうと思うようになったんよ」
秀明が、そこまで語り終えると、亜莉寿は、
「そんなことがあったんだ……」
消え入りそうな声で、つぶやいた。
「うん……。ちょっと話しは最近に飛ぶけど、そういう理由で、映画の『(ハル)』は観ていて結構、ヒヤリとしたというか───。映画の中で、深津絵里が演じてた(ほし)につきまとうストーカー男の戸部みたいな人間になってしまう可能性もあったのかな、って思うと、少し怖かったし、観ててツラかったな~。こういうのを共感性羞恥、っていうんやったっけ?」
秀明が、そう言うと、
「そっか……」
と、亜莉寿は返答する。
「『耳をすませば』の理想に燃える若い二人に共感してる亜莉寿に比べて、自分は、何て器が小さい人間なんだ、って思うわ」
秀明が、自分を卑下した様な微笑で、自己評価を下し、亜莉寿を持ち上げる発言をすると、
「それは───。そんなことはないと思うけど……」
そう言うと、彼女は、そんな悲しいことは言わないでほしい、といった表情で秀明を見つめた。
その表情を見ながら、
「でも、だからこそというか、あの夏休みの日に、亜莉寿から吉野家に誘ってもらえたことは、本当に感謝してる。おまけに、亜莉寿にとって、大切な本まで読ませてもらって……」
秀明は、さらに言葉を続けて、
「自分は、好きになったこととか、興味を持ったことに対しては、『知りたい』という欲求が強く出すぎてしまって───。ティプトリー・ジュニアについて、色々と調べたくなったのも、その表れかな?自分の想いの向かう先が、映画とか小説に限られている場合は、問題ないんやろうけど……」
自嘲的な苦笑いをして語る。
「そんな風に考えていたんだ───」
亜莉寿は、ようやく、それだけを言葉にした。
「ゴメンな……。こんな話しをしてしまって」
秀明が、再び謝罪の言葉を口にすると、
「ううん───。私の方こそ、あの日は、自分のことで頭がいっぱいで……。有間クンが、そんな風に悩んでいたなんて知らずに、自分の話しばかり聞いてもらって申し訳ないな、って」
自責の念にかられたのか、亜莉寿も秀明に謝ろうとする。
そんな彼女を制して、秀明は、
「いやいや、これはオレの方の問題やから、亜莉寿が謝ることじゃないよ!それに、あの日、亜莉寿に色々な話しを聞かせてもらって、少しは自分も信頼してもらえる人間になれたかな、って思うことが出来たから……。自分の過去の経験を克服するきっかけになった部分は大きいと思う。その意味でも、亜莉寿に感謝しないとね。本当にありがとう」
と、感謝の言葉を口にした。
亜莉寿は、自分の名前を秀明に呼んでもらうように提案した時のことを思いだしながら、
「そんな───。私は、自分の話しを聞いてもらっただけだから……」
それだけ言うと、次の言葉が見つからず、再び口を閉ざす。
その様子に、自分語りのせいで、彼女に気まずい想いをさせてしまった、と反省した秀明は、話題を変えるべく、努めて明るい口調で、
「いや、ホンマ、こんな話しの流れになって申し訳ない。夏休みが明けてから、印象に残ってることはある?」
亜莉寿にたずねた。
秀明の急な質問に、一瞬、戸惑った亜莉寿だが、
「えっと……。そういえば、二学期が始まった頃、正田さんに呼ばれて、その時の近況を話したことがあったな~」
と、秋が始まったばかりの頃を思い出しながら語る。
「あ!それって、『シネマハウスへようこそ!』で『恋人までの距離(ディスタンス)』を紹介した頃のことじゃない?」
秀明も、その頃のことを思い出したのか、亜莉寿に同調した。
亜莉寿は、秀明の話しを黙って聞いている。
「偶然を装って彼女に会えたら、って考えてたんやろうな、あのときの自分は───。それでも、二日くらいした後に、我にかえって、『自分は、何を気持ち悪いことをしてるんやろう』って思い直したら、自分自身の性格とか行動が怖くなってしまって……。考えたら、当たり前やわな。クラスメートで知り合いとは言え、自分が、他のヒトにそんなことされたら、怖くて学校に行けなくなってしまうかも知れない。それからは、彼女に何か申し訳なくなって、積極的に話せなくなってしまった。そのうち、その子に対する自分の中の恋愛感情みたいなモノも消えてしまって───。それ以来、女の子のことを好きになったりとか、恋愛的な話しは、自分には無縁なんやろうと思うようになったんよ」
秀明が、そこまで語り終えると、亜莉寿は、
「そんなことがあったんだ……」
消え入りそうな声で、つぶやいた。
「うん……。ちょっと話しは最近に飛ぶけど、そういう理由で、映画の『(ハル)』は観ていて結構、ヒヤリとしたというか───。映画の中で、深津絵里が演じてた(ほし)につきまとうストーカー男の戸部みたいな人間になってしまう可能性もあったのかな、って思うと、少し怖かったし、観ててツラかったな~。こういうのを共感性羞恥、っていうんやったっけ?」
秀明が、そう言うと、
「そっか……」
と、亜莉寿は返答する。
「『耳をすませば』の理想に燃える若い二人に共感してる亜莉寿に比べて、自分は、何て器が小さい人間なんだ、って思うわ」
秀明が、自分を卑下した様な微笑で、自己評価を下し、亜莉寿を持ち上げる発言をすると、
「それは───。そんなことはないと思うけど……」
そう言うと、彼女は、そんな悲しいことは言わないでほしい、といった表情で秀明を見つめた。
その表情を見ながら、
「でも、だからこそというか、あの夏休みの日に、亜莉寿から吉野家に誘ってもらえたことは、本当に感謝してる。おまけに、亜莉寿にとって、大切な本まで読ませてもらって……」
秀明は、さらに言葉を続けて、
「自分は、好きになったこととか、興味を持ったことに対しては、『知りたい』という欲求が強く出すぎてしまって───。ティプトリー・ジュニアについて、色々と調べたくなったのも、その表れかな?自分の想いの向かう先が、映画とか小説に限られている場合は、問題ないんやろうけど……」
自嘲的な苦笑いをして語る。
「そんな風に考えていたんだ───」
亜莉寿は、ようやく、それだけを言葉にした。
「ゴメンな……。こんな話しをしてしまって」
秀明が、再び謝罪の言葉を口にすると、
「ううん───。私の方こそ、あの日は、自分のことで頭がいっぱいで……。有間クンが、そんな風に悩んでいたなんて知らずに、自分の話しばかり聞いてもらって申し訳ないな、って」
自責の念にかられたのか、亜莉寿も秀明に謝ろうとする。
そんな彼女を制して、秀明は、
「いやいや、これはオレの方の問題やから、亜莉寿が謝ることじゃないよ!それに、あの日、亜莉寿に色々な話しを聞かせてもらって、少しは自分も信頼してもらえる人間になれたかな、って思うことが出来たから……。自分の過去の経験を克服するきっかけになった部分は大きいと思う。その意味でも、亜莉寿に感謝しないとね。本当にありがとう」
と、感謝の言葉を口にした。
亜莉寿は、自分の名前を秀明に呼んでもらうように提案した時のことを思いだしながら、
「そんな───。私は、自分の話しを聞いてもらっただけだから……」
それだけ言うと、次の言葉が見つからず、再び口を閉ざす。
その様子に、自分語りのせいで、彼女に気まずい想いをさせてしまった、と反省した秀明は、話題を変えるべく、努めて明るい口調で、
「いや、ホンマ、こんな話しの流れになって申し訳ない。夏休みが明けてから、印象に残ってることはある?」
亜莉寿にたずねた。
秀明の急な質問に、一瞬、戸惑った亜莉寿だが、
「えっと……。そういえば、二学期が始まった頃、正田さんに呼ばれて、その時の近況を話したことがあったな~」
と、秋が始まったばかりの頃を思い出しながら語る。
「あ!それって、『シネマハウスへようこそ!』で『恋人までの距離(ディスタンス)』を紹介した頃のことじゃない?」
秀明も、その頃のことを思い出したのか、亜莉寿に同調した。
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